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領水内における海賊・武装強盗
 ―領海内通航の安全確保―
海上保安大学校 村上 暦造
1 東南アジアにおける海賊・武装強盗
 東南アジア海域で、最近、停泊中や航行中の船舶を襲って、乗組員を拘束し、船内の金品や物を強奪する海賊事件が増えている。IMBの報告によれば、1990年代前半は年間100件前後で推移していたが、1995年188件、1996年228件、1997年247件、1998年202件、1999年300件、2000年469件と増大している。2001年の発生報告件数は335件であるが、その内訳は、インドネシア91件、インド27件、バングラデッシュ25件、マレーシア19件、マラッカ海峡17件とアジア海域だけで全世界の半数以上の事件が発生している(1)。報告されない例を含めると、実際の事件数はさらに多いと想定されている。
 
 日本の船主が所有する船舶や日本人が乗り組む船舶も、この海域で海賊・武装強盗事件に巻き込まれている。1998年9月27日に韓国に向けてインドネシアのクアラタンジュンを出港したテンユウ号(Tenyu、パナマ船籍、2660総トン、アルミインゴット約3000トン積載、韓国人2名中国人12名乗組み)の事件では、出港直後のマラッカ海峡から行方不明となり、船体は同年12月21日に中国南部の張家(Zhang Jia Gang)港で発見されたが、船名はSanei I(ホンジュラス船籍)に偽装され、乗組員もインドネシア人16名に入れ替わっていた。積荷のアルミインゴットは中国で売却されており、その乗組員は行方不明のままである。さらに記憶に新しいアロンドラ・レインボウ号(Alondra Rainbow、パナマ船籍、7762総トン、アルミインゴット約7000トン積載、日本人2名フィリピン人15名乗組み)の事件でも、今年10月22日インドネシアのクアラタンジュン港を出港直後のマラッカ海峡で武装強盗に乗っ取られて、日本人を含む乗組員がゴムボートで11日間漂流させられ、貨物の一部は売却された。同船は、船名をMega Ramaに変更され、乗取犯とは別の乗組員15名によってインド西方海上を航行中に11月16日インド当局に捕捉された。現在、インドのムンバイで容疑者の裁判中であると伝えられている。
 これらの事件は、いずれも船体、積荷または船用品を奪う強盗事件であって政治的動機を伴う事件はごく少数にとどまる。むしろ問題となるのは、マラッカ・シンガポール海峡を中心として東南アジアの船舶航行海域の多くが沿岸国の主張する領水及び群島水域に含まれているため、航行船舶が襲われたとしても沿岸国の領水内で発生している事件が多いことである。先に見た2001年の事件発生件数335件のうち、岸壁停泊中47件、錨泊中156件、航行中130件、不明2件となっている。停泊、錨泊中はもとより領水内の強盗はそれだけでは「海賊」に該当せず、「船舶に対する武装強盗」(armed robbery against ships)という用語を用いて「国際法上の海賊」と区別されている。それが沿岸国の領水内の犯罪であるかぎり、取締りと処罰はもっぱら沿岸国(犯行地国)の権限と責任であり、特別の国際法上の根拠がなければ、沿岸国以外の国がただちにこれに関与することは困難である。また、仮に公海上で犯罪が行われ、「国際法上の海賊」となる場合であっても、海賊船舶及び乗取られた船舶はすぐに他国の領水又は港内に入りこむことになるため、これを拿捕することも実際上極めて困難な状況にある(2)








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