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(2)排他的経済水域における規制措置
 
(a)「漁獲」の規制措置
 上記に紹介した条約では、排他的経済水域を条約適用対象に含むものがある。たとえば、南極生物資源保存条約は、沿岸国の宣言によって適用が排除されない限り、排他的経済水域も適用対象となる。また、SSAでは、6、7条の保存と管理に関する原則を除いては、排他的経済水域には適用がない。MHLCでは、3条の条約適用海域から、特に、排他的経済水域が除外されているわけではない。
 そこで、「漁獲」および「漁船」の規制が排他的経済水域に及ぶ場合には、これらと、排他的経済水域における航行の自由との関係が、公海上と同じく問題となる。実質的には、排他的経済水域では、沿岸国の主権的権利と、船舶の航行の自由との関係が焦点となる。MHLCが、国連海洋法条約の実施協定であるとすれば、MHLC上の規制措置が、国連海洋法条約の58条、73条などの解釈として適当であるか等が問題となる。
 
(b)「漁船」に対する航路指定
 国内法で、「漁船」が排他的経済水域を通航する場合に、これに対する航路指定を行っていたり、通航要件を課する例は、排他的経済水域制度の創設期以来、いくつか存在している。*18
 たとえば、1976年インド法*19 は、排他的経済水域への「外国船舶」(漁船に限定されない)の入域規制、かつ、航路指定などを政府が通告することを規定している。外国船舶の排他的経済水域における航行の自由は、このようなインドの排他的経済水域に対する権利に服して、行使されなければならないことも、明定されている。*20 1975年パキスタン法*21 は、排他的漁業水域において、すべての「漁船(fishing craft)」は、航行規則に服すると規定する。また、漁船が設定する漁網や仕掛けは、規則により制定される方法で明示されなければならないし、漁具(fishing gear)は商船の航路および特定された航路では格納しなければならないことになっている。*22
 
(c)「漁船」に対する入域規制
 漁船の排他的経済水域への入域を禁止する例としては、1976年モルディヴ法*23 がある。これは、排他的経済水域において、外国船舶には「無害通航権」を認めるとし、かつ、モルディヴの事前合意なくして、外国「漁船」は、排他的経済水域に入域することを禁止している。*24 外国漁船や外国船舶が排他的経済水域に入域するに際して、事前合意を要求することはしなくても、入域の規制を予定している国内法例としては、先のインド法、パキスタン法を挙げることができる。また、1976年カナダ法*25 は、漁業許可証をもたない外国漁船が漁業水域に入域できるのは、海難・緊急の医療援助の必要がある場合などの限定的な状況に限るとともに、入域後に、入域の事実・航路・目的地などの通報を義務づけている。また、カナダの漁業水域の一部を「通過する外国漁船(カナダ漁業水域での漁業許可証をもたず、カナダの漁業水域以外の目的地への途上で通過する外国漁船)」にも、通航要件を課している。*26
 さらに、2000年のカムコ号事件では、フランス法*27 が、フランスの南大西洋領土の排他的経済水域に入域する「漁船」は、入域とともに、積み荷である魚の重量を通報する義務を規定していることが関連した。*28
 国連海洋法条約61条の排他的経済水域沿岸国による保存措置に関する規定にも、62条の、特に4項による沿岸国法令の法律事項の例示にも、入域規制に関する規定(事前通報・事前協議など)は存在しない。後述のように、58条3項により、航行の自由は、沿岸国の国内法例に服する。しかし、それは、排他的経済水域制度を制定する国連海洋法条約の関連規定と整合性のある国内法例に限られるはずであり、そうではない国内法例に、当然に、外国船舶の航行の自由が服するわけではない。*29 それに加えて、73条の解釈としても、58条に規定する排他的経済水域における船舶の「航行の自由」との適合性の点でも、「漁船の排他的経済水域入域の事前通報」は、問題となりえたはずである。
 ところが、原告国(パナマ)は、かかるフランス法が、排他的経済水域における外国船舶の「無害通航権」に反するという、理解しにくい主張*30 を行っている。しかも、原告は、フランス法が、入域の通報義務を違反した場合に、罰金を課していること自体については、譲歩を示しており、これは沿岸国が排他的経済水域への入域を規制する通常の措置であると解している。そして原告は、その罰金が、犯した罪に対して均衡を欠くとして、罰金額の「不均衡」のみを争ったのである。*31
 パナマの主張は、漁船の航行の自由の観点からの主張が明確ではなく、一見、不可解ではある。しかし、排他的経済水域沿岸国が、入域規制をする例は、本件でのフランス法に限らず、他にも散見できる。それからすると、パナマの主張は、かかる国家実践の法意識を反映するものといえなくもない。排他的経済水域沿岸国が、排他的経済水域への外国漁船の入域規制を行う例は、排他的経済水域制度の確立時期から存在したのである。たとえば、先に述べたように、モルディブ法が、「無害通航権」が排他的経済水域に適用されるとしており、事前合意がなければ、「漁船」の入域は禁止される、としている。その他、イエメン法も同様の規定をもつとされているし、排他的経済水域の通航および排他的経済水域での漁業活動に関して、排他的経済水域沿岸国が、「領海」沿岸国のもつ権限を行使することを規定する国内法例も報告されている。








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