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〔注〕
*6 SSAの「予防アプローチ」との関連で、国連海洋法条約の、たとえば、119条に予防原則が反映されているという主張がある。これは、ミナミマグロ事件において、原告 (オーストラリア、ニュージーランド) が展開した主張でもある。また、1999年に、暫定措置命令を出した国際海洋法裁判所も、「暗黙に」、そして、分離意見を出した判事においては「明示に」予防原則を適用した。ミナミマグロ事件、国際海洋法裁判所暫定措置命令、Order Rendered by International Tribunal for the Law of the Sea, August 27, 1999, para 77; Separate opinion of Judge Treves, http://www.un.org/Depts/los/ITLOS/3 Treves. htm, para 8; Separate Opinion of Judge Laing, http://www.un.org/Depts/los/ITLOS/3 Laing. htm, para 19; Hayashi, M., "The Southern Bluefin Tuna Case: Prescription of Provisional Measures by the International Tribunal for Law of the Sea," 13 Tulane Law Journal, pp.384-385;兼原信克「みなみまぐろ事件について―事実と経緯―」国際法外交雑誌100巻3号、2001年、15-19頁。けれども、そもそも、国連海洋法条約119条に予防原則の趣旨が反映されているというのは、せいぜい、一つの解釈にすぎず、およそ確立した解釈とはいえない。また、かりに、国連海洋法条約が予防原則を規定しているとしても、SSAの規定する「予防アプローチ」がこれと同じ内容であるかは疑問である。したがって、SSAの「予防アプローチ」は、国連海洋法条約の「実施」のための原則というよりも、SSAが、「創設した」内容をもつアプローチであると解する方が説得力がある。なお、SSAの「予防アプローチ」については、Kanehara op cit., pp.10-15.
*9 「一般法と特別法」の定義は、つねに困難を伴わないわけではない。とくに、漁業資源の保存・管理に関する国連海洋法条約の規定ぶりからすると、必ずしも一義的な結論をみちびくことはできない。たとえば、国連海洋法条約の63条や64条2項は、関係国による地域機関を通じた国際協力を規定している。地域的な漁業資源保存条約では、漁獲期間の制限、総漁獲量の決定、漁獲量の割り当てなどの具体的な規制措置や、それらを決定する手続や機関を設けている。かりに、国連海洋法条約の国際協力規定が、その解釈からある程度の指針や内容を引き出すことができる規定であれば、それらの具体化として、地域的条約を解することができよう。けれども、そのような指針や一般原則といった内容を国連海洋法条約の規定がもたなければ、地域条約を、国連海洋法条約の「具体化」であるとか「実施」のための条約であると評価することは適当ではないばかりか、そもそも意義がない。
 また、このような場合に、国連海洋法条約を一般法、地域条約を特別法とみなすことも、当然にはできない。この点については、問題の指摘にとどめるが、1999-2000年のミナミマグロ事件で、国連海洋法条約と日本・オーストラリア・ニュージーランド間の地域条約であるミナミマグロ保存条約との関係が、ひとつの論点となった、Award on Jurisdiction and Admissibility, Rendered by the Arbitral Tribunal Constituted under Annex VII of the United Nations Convention on the Law of the Sea, August 4, 2000, 39 ILM, 2000, pp.1387-1388, para 52.本稿で、地域条約が特別法であるとしたのは、かりに、地域条約上の具体的な規制措置や、執行措置などが、国連海洋法条約とは両立しない内容であるとしても、地域条約の締約国は、自らの合意を示しているのであって、締約国間の適用に限れば、かかる規制措置や執行措置が国連海洋法条約の違反を問題にする必要はないという意味である。
 さらに、国連海洋法条約311条は、国連海洋法条約と他の条約 (上の権利・義務) への影響の排除及び、国連海洋法条約締約国が他の条約を締結するに際しての制限を課している。311条は、ミナミマグロ事件でも、国連海洋法条約と1993年ミナミマグロ保存条約との関係について議論の対象となった。Ibid., p. 1377, para 38 (e), pp. 1382-1383 para 41 (h). 311条は、国連海洋法条約の他の条約への影響の排除や、他の条約を締結するに際しての国連海洋法条約締約国の義務を規定しているのであって、複数の条約の適用関係や効力関係を規定する条文とはいえない。
(a) fishing gear was in use, had recently been in use or was about to be used, eg.:
‥‥
(b) fish which occur in the Convention area were being processed or had secently been processed, e.g.:
‥‥
(c) fishing gear from the vessel was in the water:
‥‥
*39 先に漁業に対する規制について、領海では、国連海洋法条約19条2項(i)に基づいて、外国船舶の漁業活動は無害ではないという推定を受けるが、具体的に何を漁業活動とし、いかなる活動や道具使用その他を漁業活動に対する規制として規律するかは、21条1項(e)により、沿岸国の法令制定権に委ねられることをみた。それのみならず、2条で沿岸国の領域主権の確認があり、領域主権を根拠とする沿岸国の一般的規制権がありうる。また、かりに漁船が「漁業活動」とは結びつかない不審な活動を行っているような場合にも、無害通航権規定19条1項や、19条2項(l)などで、無害性を否定する可能性もある。これに比して、排他的経済水域は、国連海洋法条約上の法制度であり、条約が認める権利以外に、沿岸国に有利に推定がはたらくことはない。59条は、沿岸国に帰属しない権利又は管轄権について、衡平の原則に基づいて解決することを規定している。沿岸国が外国船舶に対して課する漁業に関する規制措置が、沿岸国の主権的権利の行使に該当するかは、関連規定の解釈によって判断される。そのような漁業に対する規制措置が、沿岸国の権利に該当しなければ、59条の規定に従う。したがって、沿岸国が一方的に排他的経済水域に対する権利や管轄権を拡大する根拠も、沿岸国に有利に推定をおく根拠も存在しない。このような法制度上の明白な相違に鑑みれば、排他的経済水域と領海とでは、漁船の航行の自由と漁業に対する規制措置との関係という問題は、別個に考えるべきである。先にみた国内法例では、排他的経済水域における外国船舶あるいは外国漁船に、領海と同様の無害通航権を認めたり、あるいは、領海と同様に、入域規制や航路指定を行う例があった。とくに後者については、領海沿岸国の権利の程度や範囲としても疑問は残るが、それのみならず、排他的経済水域沿岸国の権利は、領海沿岸国のそれとは大きく異なっていることも重要な評価要因となる。したがって、排他的経済水域に入域規制や航路指定が適用されることの問題性は、領海との類似や比較によってではなく、それとして、独自に考察すべき問題である。








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