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2.国家実践および国際実践の意義
(1)国連海洋法条約との関係
 ここでは、若干の国家実践および国際実践の検討を行う。それに先立ち、それらの実践が有する意義について、はじめに、国連海洋法条約との関係を確認しておくことが、議論の混乱を回避するためにも、また、議論の適用範囲を明らかにするためにも有意義であろう。
 第一に、昨今の漁業保存条約および、これらの条約を履行するために国家が制定する国内法例を中心とする国家実践と、国連海洋法条約との関係を確認しておくことが肝要である。とくに、これらの条約慣行や国家実践を、国連海洋法条約の関連規定の解釈を検討する一環として分析するのであれば、こうした関係のあり方はもっとも重要な前提となる。
 そのような観点からして、たとえば、SSAは国連海洋法条約の「実施協定」という名称を自ら冠している。ところが、「実施協定」と称しているにもかかわらず、かかる条約の規定や条約上の実践を、国連海洋法条約の解釈・適用の実践であると「自動的」に解することはできない。なぜなら、両者の関係は、それほど単純な性質のものではないからである。
 SSAは、その4条第2文で、「この協定は、条約(国連海洋法条約、筆者)の文脈において条約と適合的に(in a manner consistent with)解釈・適用されるものとする」と規定する。4条により、国連海洋法条約が、SSAに対して、ウイーン条約法条約30条2項にいう「前の条約」に該当すれば、ウイーン条約の同条にしたがって、国連海洋法条約がSSAに対して優先する。他方で、国連海洋法条約に対して、SSAが、ウイーン条約31条3項(a)の「後にされた合意」に該当すれば、国連海洋法条約の解釈・適用について、SSAが考慮されることになる。*5 SSAが、国連海洋法条約の「実施協定」と称していることや、4条第2文の規定ぶりからすれば、SSAが国連海洋法条約に両立しないように解釈・適用されるべきではなく、国連海洋法条約が優先すると解するのが自然ではある。
 しかし、SSA条約の、実体的権利義務を規定する条項群に着目すると、このような両者の関係についての結論を必ずしも維持することはできない。たとえば、漁業資源の保存・管理を規律する原則の点で、SSAが「予防アプローチ」を採用しており、公海上の執行措置において、旗国主義の原則からの逸脱を許容している。これらは、国連海洋法条約とは異なる内容であるか、少なくとも、国連海洋法条約の確立した解釈とはいえない内容である。*6 そうであるならば、SSAを、国連海洋法条約と両立するようにいかに解釈・適用するか、国連海洋法条約の優先性をいかに確保するかという観点から、疑問が生ずるのである。*7 *8
 さらに、「実施協定」と称することはしなくても、たとえば、2000年の中部太平洋高度回遊性漁種の保存と管理に関する条約(以下、MHLC)は、2条で、国連海洋法条約に「したがって(in accordance with)」長期の保存と管理を確保するという目的を掲げるとともに(SSAでは、国連海洋法条約の関連規定群の「実効的な履行」が明記されている)、4条は、SSAとほぼ同文の規定をおく。したがって、問題状況は、SSAと同様にとらえることができよう。
 SSAやMHLCにみるように、国連海洋法条約との適用関係を決定する特別な規定が存在しなければ、国連海洋法条約が一般法であるのに対して、個別の漁業資源の保存・管理に関する条約群は、さしあたりは、当事国間で成立する特別法となる。*9 したがって、かりに、個々の条約が、国連海洋法条約と両立しない内容の規定を含むとしても、それが、当該条約の当事国間で適用される限りにおいては、条約当事国間の合意を根拠としているのであって、問題はない。*10 しかし、これらの地域条約の規制措置や執行措置が、国連海洋法条約および海洋法に関する慣習国際法と両立しない場合に、そのような措置にしたがうことを、地域条約の非締約国にまで要請したり、非締約国の航行の自由や漁獲の自由を規制することがあれば、それは、国連海洋法条約あるいは慣習国際法違反の主張を招くことになる。*11








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