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漁業資源保存の諸条約における規制手法と航行の自由との整合性
立教大学教授 兼原 敦子
1.はじめに
(1)問題の所在
 公海漁業資源の保存に関しては、1982年国連海洋法条約採択以前から、特別条約あるいは地域条約により、すでに重要な国際実践が集積してきていた。*1 それに加えて、1995年国連公海漁業実施協定(以下、SSA)をはじめとして、国連海洋法条約が規定する、漁業資源の保存と管理に関する国際協力(61、62−64条、118条など)を具体化するような条約実践が展開している。*2 本稿の目的は、これらの漁業に対する国際規制と、漁船が、船舶として法的に享受するはずの自由(とくに、航行の自由)との整合性をめぐる議論を考察することにある。
 近年の漁業資源の保存と管理に関する国際条約は、漁業に対する国際規制のために*3、多様な手法を導入している。*4 そして、その手法によっては、漁船が公海や排他的経済水域上で享受する航行の自由と、それらの規制との整合性という問題が浮上する。とくに、漁業に対する国際規制が、特定のかつ現実の漁業活動と必ずしも結びつかず、つまりは、「漁業活動」に対する規制にとどまらず、「漁船」であるという理由(だけ)で、「漁船」そのものに対する規制にまで発展する傾向を明らかに示している。たとえば、個別の条約上で、「漁船」の定義をおき、「漁船」そのものに対する国際規制を想定する条約実践が増えつつあることが、端的にこのような傾向を示している。
 漁船であっても、およそ船舶である以上は、公海および排他的経済水域上で、航行の自由を享受しているはずである。それゆえに、漁業に対する国際規制と航行の自由との整合性という問題が生ずるのである。このような問題状況は、漁業に対する国際規制が、漁業保存条約にしたがって具体的な内容をもって実施されるようになり、かつ、規制の実施において旗国主義が維持されなくなったときにこそ、顕著になる。
 無論、個別の条約上で、締約国間では「漁船」の航行の自由に対する規制が合意されることには疑問はない。しかし、後にみるように、かかる条約の制定過程や改正において、この問題が激しい対立を生じているのも事実である。また、これらの条約慣行の発展により、条約締約国間に限らず、漁船の航行の自由について、慣習国際法の発展を促したり、国連海洋法条約の解釈に影響を与えたり、場合によっては、その改正・変更の要求に発展することもあながち否定はできない。
 こうした問題意識にたって、本稿では、漁業に対する国際規制の実現にあたり、漁船の航行の自由との整合性をめぐり、いかなる議論が行われたかも含めて、最近の動向を検討することにしたい。








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