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3.国際的な組織犯罪に対する現行法の対応
 我が国における国際的な組織犯罪としては、暴力団等による薬物や銃器の不正取引、不正な権益の獲得・維持を目的とした各種犯罪のほか、蛇頭等の外国人犯罪組織による集団密航事犯などがその典型であり、これらの犯罪対策として既に多くの法律が存在する。国際組織犯罪条約の批准のためには、今後、関連する国内法を整備する必要があるが、その前提として既存の法規定を明らかにしておく必要がある。ここでは刑事実体法に限定して概観することにしたい。
(1)薬物・銃器の密輸
 我が国に存在する薬物や銃器のほとんどが外国から密輸入されたものであるから、薬物犯罪・銃器犯罪対策の重要な柱の一つが、密輸入事件の水際検挙の徹底にあると思われる。
 薬物の密輸入罪としては、いわゆる薬物四法(麻薬及び向精神薬取締法、大麻取締法、覚せい剤取締法、あへん法)において、それぞれ、規制薬物の輸入罪、輸入未遂罪、輸入予備罪が規定され、1991年(平3)の改正でこれらの罪の国外犯処罰規定が設けられている。例えば、覚せい剤取締法によると、覚せい剤輸入罪は1年以上の懲役、営利目的覚せい剤輸入罪は無期若しくは3年以上の懲役(1000万円以下の罰金を併科できる)となっている(41条1項、2項)。輸入未遂罪は刑法43条により任意的減軽の対象となり、輸入予備罪は5年以下の懲役となっている(同法41条の6)。さらに、輸入資金提供等罪は5年以下の懲役となっている(同法41条の9)。
 また、1988年(昭63)の麻薬新条約(麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約)の批准に伴う国内法の整備として、1991年(平3)に麻薬特例法(国際的協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律)が制定され、その中で、業として行う不法輸入罪(5条)が新設され、無期又は5年以上の懲役(1000万円以下の罰金を併科できる)とされる共に、国外犯の処罰規定も置かれた。さらに、規制薬物としての物品輸入罪(8条)を設け、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金という法定刑を設けている。
 銃器の密輸入罪としては、銃砲刀剣類所持等取締法において、けん銃輸入罪が3年以上の懲役(31条の2第1項)、営利目的輸入罪が無期若しくは5年以上の懲役、又は無期若しくは5年以上の懲役及び1000万円以下の罰金(31条の2第2項)とされ、けん銃輸入未遂罪が既遂と同一の法定刑(31条の2第3項)、輸入予備罪が5年以下又は100万円以下の罰金とされている(31条の12)。また、輸入資金等提供罪は5年以下又は100万円以下の罰金とされ(31条の13)、けん銃の部品についても、けん銃部品輸入罪は5年以下の懲役又は100万円以下の罰金とされ(31条の11第1項)、同未遂罪の規定が設けられている(31条の11第2項)。そして、輸入罪、輸入未遂罪、輸入予備罪、資金提供罪には国外犯処罰規定が置かれている(31条の14)。
 また、1995年(平7)の改正で、新たに設けられたけん銃実包の輸入罪は7年以下の懲役又は200万円以下の罰金とされ(31条の7第1項)、営利目的の場合は10年以下の懲役と300万円以下の併科(31条の7第2項)、けん銃等としての輸入罪は3年以下の懲役又は50万円以下の罰金(31条の17第1項)とされている。特にこの最後の「けん銃等として輸入罪」が適用された最近の注目すべき裁判例として次のようなものがある。すなわち、2000年(平12)7月、神戸港で通関検査審査中に貨物の底部よりけん銃及び実包が隠匿されていた事件で被疑者を逮捕したところ、同年3月にもけん銃等を密輸入していたことは判明したが押収品がなかったので通常の密輸入罪では起訴できなかったが、千葉地裁は2001年(平13)1月29日に「けん銃等として輸入罪」を適用して有罪判決を言い渡したというものである(11)
 さらに、関税法では、輸入禁制品輸入罪が5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金、又はこれを併科し(109条1項)、禁制品輸入未遂罪、禁制品輸入予備罪が輸入罪と同一の法定刑を規定し(109条2項)、無許可輸入罪が3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金、又はこれを併科し(111条1項)、無許可輸入未遂罪、無許可輸入予備罪が無許可輸入罪と同一の法定刑を規定しているが(111条2項)、これらの犯罪には国外犯の処罰規定はない。特に、輸入予備罪の国外犯処罰規定がないと、接続水域で禁制品を積み替えるケースを直ちに取り締まることは不可能となるので規定整備の必要性はあると思われる(12)。なお、関税法は2000年(平12)3月29日の改正で、不正薬物等の密輸輸入罪について罰金刑を引き上げ(500万円以下から3000万円以下)、あわせて密輸した本人だけでなくその者が所属する犯罪組織に対しても両罰規定が適用できるようになった。








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