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(2)人の密輸
 我が国における「人の密輸」の問題の中心は、蛇頭と呼ばれる中国人密航請負組織による船舶を利用した集団密航事案である。不法移民は、国家間あるいは地域間の経済格差に起因する問題であるから、根本的にはその解消に向けた対策が必要であるが、組織犯罪対策の観点からは、密航者を募集して行先国に輸送し、これを受け入れて搬送、隠匿等を行う犯罪組織の摘発が重要になる。しかし、数年前まで、入管法(出入国管理及び難民認定法)はこのような「人の密輸」行為自体を犯罪としてとらえる規定が欠けており不法入国又は不法上陸の幇助として立件するほかはなかった。そして、不法入国・上陸の幇助犯は法定刑の上限が1年6月であり有効な対応が困難であった。
 そこで、1997年(平9)の入管法の改正により「人の密輸」行為そのものを犯罪化した。具体的には、第一に、集団密航者を本邦に入国させ又は上陸させた罪に5年以下の懲役又は300万円以下の罰金(74条1項)、それが営利目的で行われた場合には1年以上10年以下の懲役及び1000万円以下の罰金が科され(74条2項)、これらの罪の未遂罪も規定された(74条3項)。第二に、その前段階の行為として、集団密航者を本邦に向けて又は上陸の場所に向けて輸送した罪が設けられ、3年以下の懲役又は200万円以下の罰金、それが営利目的で行われた場合には7年以下の懲役及び500万円以下の罰金が科された(74条の2)。第三に、集団密航の幇助に当たる行為として、船舶等の準備・提供罪が設けられ2年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科された(74条の3)。第四に、集団密航・単独密航を問わず密航を援助・助長する罪として、営利目的密航援助罪・偽造旅券等提供罪が設けられ、3年以下の懲役又は200万円以下の罰金が科された(74条の6)。そして、集団密航者を本邦に向けて又は上陸の場所に向けて輸送した罪、船舶等の準備・提供罪、営利目的密航援助罪・偽造旅券等提供罪については国外犯の処罰規定が設けられている(74条の7)。
 さらに、第五に、本邦に上陸した集団密航者を収受する等の罪が設けられ、5年以下の懲役又は300万円以下の罰金が科され(74条の4)、第六に、(集団密航者ではない)不法入国者等を蔵匿・隠避する罪が設けられ、3年以下の懲役又は200万円以下の罰金が科される(74条の8)など、受け皿的行為も処罰の対象とされるようになった。そして、これらの規定により接続水域における出入国管理上の取締りが可能になった点は大きな前進であると思われる。








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