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6.海辺の市民利用向上策
(1)市民利用向上の基本的な考え方
 なぎさのワークショップ、なぎさウォーク参加者へのアンケート、事例調査(りんくう公園、横須賀10000mプロムナード)、関連する参考文献、委員会での議論などを踏まえて、主として大都市圏の沿岸域において海辺の市民利用をさらに向上させていくための基本的な考え方をまとめる。
 海辺(なぎさ)の市民利用向上を図っていくためには、海辺のみち=なぎさトレイルを中心に、〈市民が海辺に近づきやすくし、誰もが、楽しく、安全かつ快適に、海辺を歩くことができるようにする〉という考え方を基本に、[1]情報の提供、[2]ストックの活用、[3]感動を演出するための工夫、が重要である。また、海辺の利用主体である市民の参加によって、市民の具体的なニーズに対応した、ハードとソフトを総合的に加味した海辺づくりを推進していくことが求められる。
[1]情報の提供
 人々が海辺を楽しく歩くことの目的は、いろいろある。健康のためのウォーキング、春や秋のいい季節のハイキング、日常的な散策、海辺での癒し(ぼーっとする)、文化施設や歴史資源を見て回る回遊型のそぞろ歩き、食事やショッピングを楽しむぶらぶら歩きなど、多様である。
 海辺を歩く市民のニーズは、その目的によってさまざまであるが、一番強いニーズは、「海辺に係わるいろいろな情報をできる限り手に入れること」である。「なぎさウォーク」参加者へのアンケート(4地区)の中で、海辺のハイキングやウォーキングを楽しむために重要なこととして、いずれの地区においても最も強い意向は、「トイレと案内板」であった。このうち、トイレも無視できない要素であるが、案内板に対するニーズが強いことが明らかとなった。
 海辺を歩こうと思い立ったときにまず必要となるのが、海辺に係わるさまざまな情報である。例えば、次のような情報を市民にいろいろな媒体や方法できめ細かく提供することが重要である。
 ・案内情報(どこに何があるか、どれくらいの時間がかかるのかなど、わかりやすい案内情報)
 ・生活情報(トイレや水飲み場など生活関連の必需情報)
 ・地域資源情報(訪ねてみたい名所、旧跡、自然景勝地、博物館、美術館、その他の文化施設などの位置、利用できる時間帯、料金などの情報)
 ・食事と買い物情報(おいしい食事ができるレストラン、気に入った買い物のできる商業施設などの情報)
 ・イベント情報(地域に係わりのあるイベントや催事などの情報)
 ・バリアフリー情報(高齢者や身体障害者など移動に制約のある人々にとって必要不可欠な情報)
[2]ストックの活用
 人々が海辺を気軽に歩き、なぎさの雰囲気を楽しむことができるようにするためには、地域にあるさまざまなストックを最大限に活用することが大切である。
 地域にあるストックとしては、美しい自然海岸や景勝地、公園や緑地などの環境インフラ、鉄道や道路、遊歩道などの社会インフラ、史跡や名所などの歴史的な資源、博物館や水族館などの文化施設、さらには、地域にある人的資源などが考えられる。これらのストック(地域資源)をなぎさトレイルで繋ぎ、多くの市民に利用しやすい環境を整えることが必要である。
[3]感動を演出するための工夫
 人々が海辺への接近(アプローチ)が物理的に可能となっても、海辺で人々にとって居心地がよく、魅力があって、行ってみたくなるようなところでないと誰も海辺に近づこうとはしない。また、海辺で人々が感動を積み重ねることにより、海辺に近づきたいという欲求が高まり、人々は何度も繰り返し海辺に足を運ぶようになる。
 市民にとって海辺(なぎさ)を魅力あるものにし、そこで人々が深い感動を得るためには、いろいろな工夫や努力(ソフト施策)を複合的に積み重ねることが重要である。海辺をきれいにしたり(クリーンアップ、維持管理)すること、夕陽やライトアップなど感動のシーンを演出すること、地域にちなんだ物語(ストーリー)を創造することなど関係者の智恵をうまく結集し活用していくことが求められる。
(2)市民利用向上の具体策
 上記の基本的考え方を踏まえて、海辺の市民利用向上のための具体策を以下に示す。
[1]海辺にアクセスしやすくする
○鉄道駅からのアクセス、バスによるアクセスに配慮する
 ・こどもから高齢者まで、クルマを運転できない人を含めて誰もが、より多く海辺に近づき、海辺に親しみ、なぎさトレイルを利用できるようにするため、鉄道駅から抵抗なく海辺にアクセスできるようにすることが重要である。
 ちなみに、本調査では、鉄道駅から概ね1km未満で海辺にアクセスできるようにモデルルートの抽出・設定を行ったが、なぎさトレイルの設定にあたっては、鉄道駅からの距離と海辺に人々を誘う環境が大切な要素である。
 ・バスによるアクセスも、停留所の位置、運行本数、定時性といった要素を加味して検討する必要がある。
○クルマによるアクセスを考慮する
 ・人々にとってクルマが日常的な移動手段となっているため、道路のネットワークや混雑度、駐車場の位置、規模、料金、利用のしやすさ等を考慮して、クルマによる海辺へのアクセスが快適、利便に行えるようにする。
○自転車によるアクセスを考える
 ・海辺から5km〜10kmといった広い範囲から自転車などで海辺にアクセスすることも想定して、河川敷や市街地の自歩道などを活用した自転車によるアクセスルートを検討・設定することも必要である。
[2]誰もが楽しく歩くことのできる海辺の道をつなぐ
○わかりやすい「なぎさトレイル」情報を提供する
 ・誰もが目にしやすい場所(駅、公園や緑地の入り口、商業施設の近く)に、わかりやすい案内板や案内ルートの標識(サイン)を設置する。
 ・誰もが手にいれやすい場所に、わかりやすく使いやすいガイドマップを置いて、利用者の利便に供する。
 ・より大勢の人々が集まるところには、案内所(インフォーメーションセンター)を設置したり、案内人(ガイド)を配置する。
○安全性や快適性を確保し、歩きやすい歩行空間とする
 ・歩行者の安全性を確保するため、できる限り自動車や自転車との空間的な分離を図る。
 ・水に直接手で触れたり、水辺を眺められるように、親水性の確保に努める。
 ・寄り道したり、気ままに回遊したりできるように、幾つかのオプションルートを設ける。
 ・真夏の強い日射しを避けたり、海辺の強い風をよけることができるように、植樹での配慮、休憩施設の設置を行う。
 ・夜間でも安心してなぎさトレイルを歩くことができるように、適当な位置に街灯を設置するなど防犯対策を講じる。
○誰もが安心して歩くことができるようにする
 ・適当な位置に、誰もが利用できる、ゆとりのあるトイレを配置する。
 ・段差を極力なくし、勾配がゆるやかなスロープを整備することにより、車イス利用者に配慮したトレイルとする。
 ・海浜や緑地などへのゲート(入り口)は、バイクなどの乗り入れを防止するとともに、車イスでの利用を考慮する。
 ・点字ブロックや音声による誘導(MDプレイヤーの貸し出し)などにより、目の不自由な人(視覚障害者)に配慮する。
 ・階段には転落やつまずきを防止するため、2段手すりや転落防止柵を設置する。
 ・肢体不自由の人が砂浜や水辺に近づけるように、サンドバギーなど介助用具の貸し出しシステムを整備する。
○楽しく快適に歩くことのできる環境の整備・充実を図る
 ・「ゆらぎ」の視点を入れたデザインを試みる。
 ・ごみ箱を適切に配置し、海辺を美しく維持する。
 ・なぎさトレイルの適当な位置に、ベンチや休憩施設(水飲み場等)を配置する。
 ・眺めのよい場所(視点場)には、案内板や展望施設を整備する。
 ・なぎさトレイルの近くにある喫茶店やレストラン、歴史資源(神社、仏閣、古墳など)、文化施設(博物館、美術館など)の情報をマップに掲載したり、案内標識で利用者にわかりやすくする。
[3]ソフト施策の充実
○きれいな海辺にする
 ・公園、緑地、海浜、緑道などを適切に維持管理し、美しい海辺にする。
 ・「ごみの持ち帰り」「不法駐車の自主規制」など来訪者のマナーの改善キャンペーンを進める。
 ・市民団体(NPOを含む)と行政との協働による「海辺をきれいする運動(クリーンアップ作戦)」を進める。
○地域の魅力を向上させる取り組みを推進する
 ・地域に根ざしたイベント、祭、催事を企画し、地域ぐるみの特色のあるまちづくりを進めるとともに、四季に応じた魅力づけを図る。
 ・小中学生など市民参加による水質調査(モニタリング)に取り組み、生きた環境教育を進める。
 ・海辺に係わりのある市民団体の取り組みを支援し、そのネットワークを図る。
○利用者にきめ細かなサービスを提供する
 ・身体障害者や高齢者などの介助者を紹介する窓口を設け、わかりやすく知らせる。
 ・緊急時の連絡体制を確立するとともに(公衆FAXの設置など)、安全巡回サービスを検討する。
○市民参加と広域連携の取り組みを進める
 ・大阪湾ベイエリアのモデルルートになりうる地区すべてにおいて、「なぎさトレイル」のガイドマップを作成し、多くの市民に配布してなぎさトレイルの利用を促進する。
 ・市民参加による海辺づくりを進め、市民と海辺との多様な係わりを構築する。
 ・なぎさトレイル情報をホームページ等により広報する。
 ・「なぎさウォーク」等の取り組みを、自治体、市民団体、経済団体、民間企業等が連携して進める。
 ・テレビ、雑誌、ミニコミ誌等の多様な媒体を活用して、なぎさの地域資源や「なぎさトレイル」をピーアールする。
図6−1 海辺の市民利用向上策―その考え方と具体策―
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