2.「なぎさトレイル」の整備の基本方針
(1)なぎさトレイルとは
最初に、以下に示す既往の文献と報告書等より、「なぎさトレイル」について概念整理をしておくこととする。
1)「なぎさ海道」推進マスタープラン
2)なぎさ海道基礎調査
3)「なぎさ海道」の資源登録制度
4)大阪湾ベイエリア沿岸域のパブリックアクセス整備計画調査
1)「なぎさ海道」推進マスタープラン(計画主体:(財)大阪湾ベイエリア開発推進機構)
「なぎさ海道」は、「なぎさ海道」推進マスタープラン(平成9年4月)において以下のように定めている。
■「なぎさ海道」とは
「なぎさ」とは、多彩な生物が生息し、豊かな自然が広がっている波打ち際を指します。「海道」とは、人、モノ、情報が行き交い、様々な人間活動が展開されている海岸に沿った道や地域を意味します。
「なぎさ海道」とは、このふたつが重なり合うことで生まれる、人と海とが豊かに触れ合う魅力ある海辺空間の象徴です。具体的には、地域の特徴を活かした「拠点」※1と、それらを結ぶ「海辺の路」※2とによって構成されます。「なぎさ海道」は、海と陸が出会うように、異なるものが出会い交わる場として、様々なかたちで市民生活や都市活動を結び、人と海の豊かな関わりを育んでゆく場です。
※1拠点
地域特性を活かした海辺のスポーツ・レクリエーション、商業・サービス、歴史・文化、健康・医療、研究・教育、休息・眺望などの施設やその集積地。
※2海辺の路
水際ルートを基本とし、前面水域ルートや背後地ルートを効果的に組み合わせて「拠点」をつないでいく遊歩道、自転車道、海上交通路など。
出典:「なぎさ海道」推進マスタープランより
2)なぎさ海道基礎調査(調査主体:(財)大阪湾ベイエリア開発推進機構)
なぎさ海道基礎調査は、1997年〜1999年の3カ年にわたって実施され、とくに1998年度調査では、調査成果の展開方向の一つとして「なぎさトレイル」を以下のように推進することとしている。
「なぎさトレイル」の推進―利用・整備・情報発信―
・「なぎさ海道」のシンボル事業として、ハード・ソフト両面での推進をはかる。
・トレイルの媒体性を活かし、「なぎさ海道」の普及・PRを進める。
・既存の遊歩道、サイクリングロードの利用を促す情報発信をおこなう。
・都市型海浜エリアへのアクセスを充実させるとともに、海辺での楽しみ方を「なきさトレイル」を通して伝えるためにマップやコミュニティFMなど媒体の活用をはかる。
3)「なぎさ海道」の資源登録(調査・実施主体:(財)大阪湾ベイエリア開発推進機構)
大阪湾ベイエリアを対象に「なぎさ海道」にふさわしい資源を登録する制度を平成12年度より展開している。この制度では各資源の登録基準とともに、「なぎさ海道」としてふさわしい7つの原則を以下のように定めている。
表2−1 「なぎさ海道」の全体像(登録基準)
ハ ー ド |
[1]なぎさのスポット |
イメージ:海に関係する文化的、歴史的等の資源を記す看板や石碑、旧式灯台、砲台などの小さな建築創造物とする。なお水辺に立地することは要しない。 |
○例示/石碑・看板、灯台 |
[2]なぎさの拠点 |
イメージ:親水空間が備わる施設や概ね臨海部に立地する施設、又は、海辺を眺めることを目的としてできる施設。 |
○例示/海浜、公園、緑地、工業文化施設 |
[3]なぎさトレイル |
イメージ:歩行者・自転車の通行を前提とした水際の路、又はテーマ性のある臨海部の路 |
○例示/遊歩道、自転車道 |
[4]なぎさロード |
イメージ:自動車による海辺のドライブコース(一般道路(高速道路は含まない))や高速道路を走る定期バスの海が見える区間 |
[5]なぎさシーライン |
イメージ:大阪湾ベイエリア内の海上・水上航路で、定期航路・クルーズ・遊覧船・渡船など。 |
[6]なぎさレールウェイ |
イメージ:海への眺望が素晴らしい鉄軌区間 |
ソ フ ト |
例示 |
○海辺の祭り ○自然観察 ○自然維持保全 ○文化産業 |
○イベント ○海洋レクリエーション ○モニタリング調査 ○産業活動 |
○清掃活動 ○漁業 ○交易 |
○なぎさトレイルの基準
「なぎさトレイル」は、歩行者・自転車の通行を前提とした水際の路、又は、テーマ性のある臨海部の路とし、「なぎさトレイル」の基準として以下の7つの原則を明らかにしている。
表2−2 7つの原則
開放 |
誰もが自由に利用・参加できること |
親水 |
昔や今の海を感じ、海辺に近づけ、海に親しむことができること |
眺望 |
海、船、産業活動や人々の活動が望めること |
施設 |
子供から高齢者に至るすべての人が使いやすいデザインであること |
景観 |
近景と遠景に配慮されていること |
アクセス |
様々なところから情報や現地にアクセスができ、他の資源・施設にネットワークができていること |
共生 |
自然や地域の環境を大切にし、動植物・自然と共生すること |
■写真 なぎさトレイルの例示
洲本港の遊歩道
赤穂御崎の遊歩道
兵庫区新川運河
4)大阪湾ベイエリア沿岸域パブリックアクセス整備計画調査(調査主体:国土庁)
大阪湾沿岸域のパブリックアクセス整備計画調査(平成10年度〜11年度)では、パブリックアクセスの概念を以下のように整理している。
パブリックアクセスとは、市民(=パブリック)が海辺に安全かつ快適に近づける(アクセスできる)ようにすることである。この文字通りの解釈を沿岸域の計画論として整理すると、[1]海辺に近づける、[2]海辺を繋ぐ、[3]魅力ある海辺を創り、感動を演出する、の3点に集約することができる。
[1]海辺に近づける
(略)
具体的には、人々の海辺への接近を拒んでいる障害(物理的バリア、視覚的バリア、制度的バリア)を取り除き、安全かつ快適に近づけるようにすることが必要である。そのため、物理的な接近を可能とするみち(遊歩道、道路など)を確保し整備すること、視覚的なバリアを取り除いて、人々に海辺を見渡すことができるようにすること、人々に立ち入りにくいところがあれば、制度的な面での工夫をして近づけるような仕掛け(システム)をつくること、などである。
ただ、海や海岸線に貴重な自然資源が残っている沿岸域においては、人々と自然との係わりのあり方について慎重であらねばならない。こうした地域では、人々を無条件に受け入れるのではなく、自然の生態系を良好な状態で維持することを優先して人々を近づけないようにすることも重要である。
[2]海辺を繋ぐ
海辺へのアクセスが可能となることによって、海辺は人々にとって身近なものとなる。しかし、沿岸域全体を魅力ある地域とするためには、背後地から海辺への直線的なアクセスだけでなく、海辺沿いのアクセス、海や川からのアクセス、海辺の拠点や歴史資源へのアクセスなどを含め、沿岸域全体を繋いでいくことが重要である。〈海辺を繋ぐ〉方法としては、足で繋ぐ(海辺へのみちを確保する)、目で繋ぐ(視点場を確保する)、活動で繋ぐ(イベントなどを共同で実施する)、データベースで繋ぐ(沿岸域共通の情報を共有する)などいろいろと考えられる。いずれにしても、〈繋ぐこと〉によって、沿岸域背後の人々がより多く海辺にアクセスすることが可能となるとともに、ある特定の海辺だけでなく、人々はより多様な海との係わりを持つことが可能となり、地域の価値を共有することができる。
(略)
[3]魅力ある海辺を創り、感動を演出する
(略)
具体的には、手でふれてみたいような水にしたり、ゴミが浮遊・散乱していないような状態にする(水質の浄化、環境改善)、水に親しむことができるようにする(親水施設の整備)、くつろいだり憩うことのできる空間を確保する(オープンスペース、公園・緑地の整備)、ヨットやウインドサーフィンなどが楽しめるようにする(マリンスポーツのための空間の確保)、人々が交流したり楽しんだりできるようにする(商業施設・娯楽施設・アミューズメント施設等の整備)、美しい自然や景観を感じることのできる場を確保する(夕陽や港の景観を眺望する視点場の確保)、海辺の歴史や文化にふれる機会を増やし、感動のシーンを創出する(歴史資源の発掘、祭りや文化イベントの企画)など多様な工夫が考えられる。
(2)「なぎさトレイル」整備の基本方針
上記1)〜4)の既往調査計画を踏まえて、「なぎさトレイル」は、以下に示す基本方針を踏まえて、大阪湾ベイエリアにおいて整備し、その活用を図っていくものとする。
考え方1:水際(水辺、ウォーターフロント)がある
・水に触れられる
・水辺に近づける
・水辺を眺められる
考え方2:公園・緑地や周辺の地域資源とネットワークできる
・最寄り駅や主要駐車場からの案内や順路がわかりやすい
・周辺資源(文化施設、歴史資源など)とネットワークができる
・トレイル周辺の市民団体やNPOとの連携ができる
考え方3:誰もが安全に歩くことができる
・緩やかな歩道やとりつき
・公園や緑地内のトイレの適切な配置とゆとりある設計
・わかりやすく大きいピクトグラム(絵文字)
・トレイルや公園緑地全体を明示した案内板
・点字や音声による案内板 など
図2−1 「なぎさトレイル」の概念図