1.調査の概要
(1)調査の背景と目的
(背景)
海辺は、これまで、人々にとって豊かな生活を享受するための貴重な生活空間としての役割を担ってきた。しかし、近代以降のわが国の水際線は、産業利用が進み、一部を除いて自由に海辺に近づいたり、楽しんだりすることが困難な状況となった。現状では、人々の海辺に対する関心も弱くなり、海辺は人々にとって疎遠な存在となっている。
近年、大阪湾のベイエリアでは、天保山の海遊館や神戸ハーバーランドなどにおいて海辺でショッピングや食事ができる施設が立地し、兵庫の新川運河や尼崎の運河地域においてプロムナードの整備が進み、多くの市民が海辺に集まり賑わいを見せはじめている。これらの拠点を結ぶ「なぎさ海道」をベルト状に結び、その利活用を図っていくことが重要な課題となっている。
当機構では、この課題に対応するため、平成9年3月に人と海との豊かなふれあいをめざす「なぎさ海道」の推進マスタープランを策定した。また、このマスタープランに基づいてワークショップの開催や「なぎさ海道」に係わる基礎調査を実施することにより、「なぎさ海道」の理念を普及・啓発する取り組みを展開してきた。
平成12年度には、大阪湾に対する市民の理解と関心を高めるための取り組みとして、「なぎさ海道」の地域資源を373件*登録するとともに、その海辺の魅力を伝えるため、当財団の機関誌やホームページ、情報誌(るるぶ情報版)等を通じて広報活動を行った。また、同年12月には、「なぎさ海道」に登録された地域資源(施設)を巡る「電車&フォトウォーク」(JR西日本主催、当機構協賛)を開催し、市民参加のイベントを試みた。
平成13年度においても、行政、企業はもとより市民に「なぎさ海道」の趣旨と重要性を訴え、引き続き当該事業の推進と社会での定着を図っていくこととしている。
*:第1次登録178件、第2次登録193件、追加登録2件
(目的)
上記の背景を踏まえ、本調査は、海辺に点在する「なぎさ海道」の登録資源や周辺資源を、誰もが、安全かつ快適に回遊できる海辺の路(以下「なぎさトレイル」)によって大阪湾ベイエリア全体を繋いでいくことを展望し、「なぎさトレイル」のモデルルートについて検討を行うものである。具体的には、「なぎさトレイル」を幅広い人々が利用できるような市民利用方策について検討するとともに、モデルルートのガイドマップを作成することにより、多くの市民の「なぎさ海道」の利用に資するものである。
このモデルルートは高齢社会に対応し、「なぎさトレイル」と背後の居住地とを連続的に繋ぐとともに、健康と癒しの空間として活用することを想定する。
なお、この「なぎさトレイル」の利用者については、子供、青少年、壮年、高齢者、障害者、外国人などすべての階層を想定し、「歩く(ウォーキング、散歩)」ことに視点を置いた利用を基本としている。
図1−1 本調査の背景と目的
(2)調査の対象地域と内容
(対象地域)
本調査は、大阪湾ベイエリア(大阪府、兵庫県、和歌山県、徳島県)にある56市町の海岸線約1,500kmを含む海辺の地域とその背後の関連地域を対象とする。
大阪府:大阪市、堺市、高石市、泉大津市、忠岡町、岸和田市、貝塚市、泉佐野市、田尻町、泉南市、阪南市、岬町
兵庫県:神戸市、尼崎市、西宮市、芦屋市、明石市、播磨町、加古川市、高砂市、姫路市、御津町、相生市、赤穂市、家島町、淡路町、東浦町、津名町、洲本市、南淡町、西淡町、五色町、一宮町、北淡町
和歌山県:和歌山市、海南市、下津町、有田市、湯浅町、広川町、由良町、日高町、美浜町、御坊市、印南町、南部町、田辺市、白浜町、日置川町、すさみ町
徳島県:鳴門市、松茂町、徳島市、小松島市、那賀川町、阿南市
図1−2 調査の対象地域
(調査内容)
1)「なぎさトレイル」整備の基本方針
「なぎさ海道」に係わる既往の調査成果*を踏まえて、大阪湾ベイエリアにおける「なぎさトレイル」整備の基本方針について検討し、明らかにする。
*[1]「なぎさ海道」推進マスタープラン 平成9年3月
[2]なぎさ海道基礎調査(なぎさ地域学) 平成10年3月
[3]土地利用に関する制度・手法検討調査 平成11年3月
[4]「なぎさ海道」の資源登録 平成11年度〜13年度
[5]大阪湾ベイエリア沿岸域のパブリックアクセス整備計画調査(国土庁、水産庁、通商産業省、運輸省、建設省、平成11年度、同12年度)
2)先進事例の調査
海辺にある歴史や文化を訪ね、安全かつ気軽に散策等を行うことができるウォーキングトレイルや快適な車イス利用環境等に関する先進事例について調査し、大阪湾ベイエリアにおける「なぎさトレイル」の整備とその利用向上のあり方を検討する参考とする。具体的には、ユニバーサルデザインに配慮した公園整備の事例(大阪府りんくう公園)、海辺のプロムナード整備の事例(横須賀10000メートルプロムナード)の各事例について、関係する自治体へのヒヤリングを行い、トレイル整備において留意すべき事項をまとめる。
3)なぎさのモデルルート地区の抽出
市民の利用を最大限に追求した「なぎさトレイル」とするため、モデルルート地区は、「なぎさ海道」の登録資源や周辺の地域資源・魅力施設の分布状況を踏まえるとともに、鉄道駅や主要な拠点からの距離を考慮して設定する。
モデルルート地区の抽出にあたっては、既存の歩行者道や緑地・公園・海浜などを利用して安全・快適に歩くことができることを基本に地区を選定し、モデルルートの延長が概ね5〜10km程度となるようにする。
なお、「なぎさトレイル」を歩く市民が水際に近づきやすいかどうかといった点を考慮して、モデルルートを抽出した地区について親水性の現状を把握・整理する。
4)海辺のまちづくりワークショップ
上記3)で抽出したモデルルート地区の中から地域特性やワークショップの実現可能性等を考慮して2地区を選定して、市民参加のまちづくりワークショップ手法によるケーススタディを行う。具体的には、モデルルートを幅広い市民の利用に供するため、周辺に居住している市民が参加するウォーキングを行い、グループ討議などによって「なぎさトレイル」に係わる改善事項と市民利用向上のための方策について検討を深める。
また、身体障害者の参加を得て、車イス利用者、視覚障害者、聴覚障害者などからみた「なぎさトレイル」に係わる問題箇所の指摘や改善点の提案をまとめる。
【ワークショップ実施地区】 甲子園浜地区(西宮市)、舞子・垂水地区(神戸市)
5)海辺の市民利用向上策
2)〜4)の検討を踏まえ、海辺の市民利用向上策について基本的な考え方と具体的な方策(ハード、ソフト)を明らかにする。
6)市民利用向上をめざしたガイドマップの作成
周辺観光資源や「なぎさ海道」に登録された施設とともに、モデルルートヘのアクセスや各施設・資源の利用方法についてもわかりやすく掲載したガイドマップを作成する。
このガイドマップを、大阪湾ベイエリアにある市町と関係機関を通じて広く市民に配布することにより、〈海辺を楽しく歩きたい〉多くの市民のニーズに積極的に対応していくとともに、「なぎさ海道」の理念、「なぎさ海道」の資源登録等の取り組みを大阪湾ベイエリアに係わりのある市民や関係機関に広く周知・広報するものである。
3)調査の体制
1)調査委員会
本調査は、以下に示す有識者4名からなる調査委員会を設け、各委員からさまざまなご意見や提案をいただきながら、調査・検討を進めることとした。
委員長 紙野桂人(帝塚山大学人文科学部教授)
委員 増田昇(大阪府立大学農学部教授)
委員 山中英生(徳島大学工学部教授)
委員 森崎輝行(森崎建築事務所代表)
なお、調査委員会の開催は、次の通りである。
○第1回 平成13年8月8日(水)
○第2回 平成13年11月30日(金)
○第3回 平成14年2月20日(水)
2)事務局
本調査の事務局は、(財)大阪湾ベイエリア開発推進機構が務め、(株)地域計画建築研究所が調査を担当した。
図1−3 大阪湾沿岸域市民利用策の提案調査(全体フロー)