4 海洋汚染防止に対する日本の対応
<宇和島沖の貨物船の乗揚げ写真>
さて、今までは、安全対策について話をしてきました。
次に、船舶事故により、万が一油が流れた場合の対応について、お話をいたします。
なお、日本における油防除の関係機関の体制については、法律、組織などが複雑で短時間では詳細説明が困難ですので、ここでは、その柱の部分について、説明いたします。
(1)政府組織など
海上へ流出した油の防除に関して、中心的役割を果たしているのは「国土交通省」(旧運輸省)と「海上保安庁」です。
特に、防除措置に関しては、その組織体制の中心となり、また多くの船艇などの部隊を擁する海上保安庁の役割は重要です。
海上保安庁は、自ら防除に当たるほか、「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」に基づき、関係行政機関に対して防除措置の要請をすることができます。
<巡視船・航空機>
海上保安庁は、保有する船艇や航空機を集めて防除作業に当たり、また、関係者に指示、指導をして防除に当たらせます。
<防除基地・防除隊>
海上保安庁は、横浜に「機動防除基地」を設置し、油の防除に関して専門的な知識・技能を有する隊員を何時でも出動できる態勢をとっています。
先に紹介したシンガポール海峡で発生したEVOIKOSの事故ではシンガポールの要請に応じて派遣され、活躍しました。
油の大量の流出事故が発生した場合は、「官民一体」となって取り組む必要があります。
事故の規模に応じて、国や地方自治体に「対策本部」を設置し、関係者が一体となって取り組む仕組みを予め法令や通達により整備してあります。
<災防センター資器材配備図>
日本では、民間の災害防止組織として「海上災害防止センター」が設置されています。国土交通省の認可法人です。
この図のように、日本の30箇所に各種防除資機材を配置し、防除作業では中心的役割を果たします。
防除作業は、予め契約しておいた「防除契約時業者」(百数十社)を使用し、また必要に応じて漁船、作業船を雇って行います。防除費用は後日、保険会社に請求されます。
このような民間の研究・防除の機関は、外国での例は少ないようです。
米国や韓国では設けられているようです。
大量の油が流出する事故は、わが国でも数年から10年の間を置いて発生しているので、このような専門の機関を設けて、長期的に、研究や防除措置に当たり、高度の知識を持つ職員を育成することが極めて重要なことです。
(2)事故発生時の組織的対応
油回収船や油防除資機材の整備について、資料に詳しく書いてありませんが、若干補足致します。
まず、海上保安庁は全国規模で整備しています。
「ナホトカ」の事故では十分な措置がとれなかったので、事故後、外洋での油流出に対応出来る大型の外洋型オイルフェンス、高粘度油回収装置など大幅な資機材の増強を行いました。
油回収船や大型の油回収装置、大型オイルフェンスを石油連盟が各地の石油備蓄基地などに整備しています。石油備蓄基地などに配置されている油回収船は消防船兼用の中型の物です。
運輸省、現在の国土交通省ですが3,000トン級の大型の浚渫船兼油回収船を一隻配備していましたが、ナホトカの事故の後、更に同型船2隻を建造しています。
(3)油防除のための設備、資器材
<防除シーン・3点>
海上における大量の流出油の防除作業は、油の種類、海域の地理的状況、気象・海象の状況によって異なります。
出動可能な船艇を使用し、各種の防除資器材を準備し、また多くの作業員を動員する必要があります。
そして、その場、その状況に応じた資器材の有効な活用、適正な船艇と資器材の組み合わせ、作業員の配置などが求められます。
ここでは、防除資機材の代表的なものの使用状況について、写真や図により説明します。
このシーンは、上の左のものは漁船2隻でネットの付いたオイルフェンスを曳き、固まった油をネットの部分に回収しているもので、右のものは、オイルフェンスを2隻の船で曳いて油を集めているものです。
下の写真は、集められた油をオイルスキマーで回収しているところです。
<オイルフェンス・2シーン>
この写真は、オイルフェンスで訓練時のものです。左はオイルフェンスを引き出して展張しているもの、右は大型であるD型オイルフェンスをコンテナから引き出しているシーンです。
以下、オイルフェンス(Boom)の使用方法について図で説明いたします。
<オイルフェンス展張形状図>
オイルフェンス展張状況は色々な形があります。[1]から[5]までのパターンが書いてあります。[1]は「包囲」、包囲するものです。[2]は「U字曳航」、U型に船でここに集めます。[3]は「誘導」、海上がしけてこのような方法が取れないときにこの様な所に油を誘導する。[4]は「閉鎖」、これはある空気に油を閉じ込める方法です。[5]は「重層展張」これは二重三重に展張する。
[1]のような「包囲」で済めば理想的ですが、油の量が少なく、素早い展張をしない限りこの方法だけで成功することは難しいことです。
[1]のケースで二重、三重に包囲する方法や、[3]で2段、3段に張ったオイルフェンスで誘導する方法も多く採用されています。
これらは、いずれも油の拡散、侵入を防ぎ、または回収のために油を集める手段として採用されるものです。
油処理剤の使用については、最近、海洋生物に与える影響の極めて少ないものが開発されていますが、漁業者や一部の科学者がその影響を心配しているのが現状です。
このことから日本では、沖合の海域では使用されるケースが多いのですが、海岸に近いところ、閉鎖された海域においては、散布を控えるケースが多くみられます。
先ず、油の拡散を防ぎ、機械的な回収方法を優先して実施することが必要です。
日本では、海域の状況や気象状況等により、油の回収が出来ず、そのままでは油汚染が拡大する場合に、漁業者の了解を得て油処理剤を使用することにしています。
油処理剤を使用する場合は、撒布器を使用すること、過度の使用にならないようにすること、撒布後は十分に攪拌すること等の注意が必要です。
<グリース状の油を手で回収>
日本周辺では、気温、海水温度が低いのでC重油はグリース状になって、油処理剤の効果はなく、またオイルスキマーや油吸着材では回収することが困難になります。
グリース状になった油は、この写真のように作業員の手や柄杓で回収しました。
ヴィエトナムでは気温や海水温度が日本よりも高いので、この様に固まらないとは思いますが、油の性質によってどの様な形になるか調べておいた方が良いと思います。
<油吸着材>
形状の違いでは、シート型、ロール型、万国旗型、オイルフェンス型、チューブ型があります。現場の状況、作業員や使用船などの状況によって使い分けます。
なお、油処理剤との併用は、吸着効果を損ないますのでやめるべきです。
かつて、ヴィエトナムに調査・指導のために来たことのある人に聞いたところ、ヴィエトナムでは藁や筵が豊富にあるので、これの活用を考えたらよいとのことです。