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3 日本における航行安全対策
(1)海上交通三法
<海上交通三法>
 これらの事故を防ぐための安全対策について、日本における例をお話いたします。
 日本では、船舶交通の安全を図る重要な法律が3つあり、これらを「海上交通三法」と呼んでいます。これらのルールの組み合わせによって安全が図られています。
 
<海上交通安全法適用海域図>
 ここでは、これらの法律のうち「海上交通安全法」のみを簡単に説明いたします。一寸見にくいのですが、この絵は、日本における海上交通安全法が適用されている海域を示しています。東京湾、伊勢湾、瀬戸内海です。
 船舶の特に輻輳するこれらの海域に「海上交通安全法」を適用し、11の航路を設定しています。
 日本においては、この法律に基づき、通行分離航路の設定や航路航行の義務、航行速力などの特別な交通ルール等を定めています。
 この法律の適用と航行管制システムの整備などによって、船舶通行の輻輳するこれらの海域における事故が減少したことは言うまでもありません。
 
<瀬戸内海の適用海域図>
 先ほどの図では、瀬戸内海という海域では、この法律により多くの航路が設定されています。
 ハロン湾の水路は、この瀬戸内海とは大きく異なりますが、多くの島々の間にある水路という点では似ていると言えましょう。
 これは瀬戸内海の一部です。この海域では、東西に向かう船の航路が分離されています。
 将来、ハロン湾などヴィエトナム沿岸海域で船舶交通が非常に輻輳化するところでは、この「海上交通安全法」のような特別法を制定し、航路の設定や特別な航法の定めが必要になって来るかもしれません。
 
(2)航路標識の管理
<管理説明>
 日本は、周囲を海に囲まれており、各種船舶の活動が活発に行われていることから、非常に多くの航路標識が設置されています。
 ここでは、航路標識の設置、管理は何処が行っているかについて簡単に説明します。
 先ず、海上保安庁が所管する航路標識があります。日本では、航路標識法の規定では、航路標識は原則として海上保安庁が設置し、管理することになっていますが、次の例外規定を設けています。
 海上保安庁が直接管理する航路標識は、昨年末で5,561基あります。
 
 発電所などの企業が、自社に関係する船舶のみの使用のために設置するものは、海上保安庁の許可を得て設置できることとしています。
 これを「許可標識」と言っています。1,252基あります。許可という形で海上保安庁の管理が行き届いています。
 
 この他に、小規模な漁業施設などに設置される「簡易標識」というものがあります。数は約21,000基あります。
 設置するときは海上保安庁に届け出をします。行政指導によって適正な基準を保ちます。
 
(3)安全対策事例
 次に、日本における航行管制や航路標識などの安全対策の事例を、2つの港について説明します。
 これらの例示する港や色々な航路標識は、ヴィエトナムで採用できるか否かではなく、港の状況に合わせて航路標識を考える必要があると言う観点で参考に見ていただきたいと思います。
 お渡しした資料は、文章だけなのでよく分からないと思いますので、図で説明いたします。
 
<日本全図の中の関門港位置>
 ここで取り上げる「関門港」は日本のこの位置にあります。
 地図が小さいので分かりにくいかもしれませんが、九州の南を回ると非常に遠回りになるので、この海峡を通過するだけの船舶が昼夜ともに多数あります。
 
<上空からの写真>
 これは、長い海峡全体を港としている「関門港」の図です。この港は、海峡部分の長さが約30kmで、ハロン湾の入り口からカイラン港までの長さとほぼ同じです。一番狭いところは幅約500mです。
 後から説明しますが、この位置に「関門海上交通センター」があります。
 また、この位置に「潮流信号所」があります。
 ついでに言いますと、私が13〜4年前に勤務していた海上保安庁の第七管区海上保安本部はこの場所にあります。2年間、海峡を見ながら仕事をしていました。
 この海峡は、ご覧のように大きく何箇所も屈曲しています。そして、狭いところもあり、特に潮流が速く、時には濃い霧が発生します。航海の難所といわれています。
 私も巡視船の船長として何回か通りましたが、非常に神経を使い、実を申し上げますと、「ヒヤリ!」としたこともありました。
 
 実際に、関門港内では、霧の中で衝突したり、強い潮流の影響を受けて乗揚げたりする船が時々あります。
 事故船舶が海峡の航路内で沈没した場合は、その場所によっては海峡を封鎖し、港の機能を麻痺させる恐れがあり、経済的に非常に大きな影響を及ぼすことになります。
 実際、大型船の衝突による沈没はありましたが、航路幅に余裕がある箇所であったため、港を封鎖する事態にはなったことはありません。
 航海の難所である「関門港」においては、海峡内で事故が発生しないように、次のような航行援助施設の充実化が進められ、また、港則法の適用の他、関門港長の行政指導により安全が図られています。
 
<海上交通センター>
 航行管制と安全情報の提供は、「海上交通センター」で行っています。
 レーダーで全域をカバーし、船舶とは無線電話等で連絡をとって船舶の動静を把握して管制を行っています。
 
<管制室>
 右の写真は、管制室の中で、レーダー画面を見て管制を行っている状況です。
 
<信号所:E・3・矢印の表示>
 前に、関門海峡は潮流が速いと言いました。これは、潮流の方向とその速さを知らせる潮流信号所の「電光表示板」です。
 英語の「E」の文字は、潮流が「East、すなわち潮流が東に流れていること」を表しています。
 「W」の文字は「West、すなわち西に流れること」を示しています。
 この写真では、はっきりと見えませんが、実際は昼でもはっきりと見えます。
 これは、潮流の速さを知らせる電光表示板です。潮流の速さを数字で表し、速さの単位は「ノット」です。
 「3」の表示は、その時、潮流の速さが3ノットであることを示しています。年に1、2回、10ノットを越す時があります。
 矢印が上を向いています。これは今から潮流が強くなるということを表しています。
 
 関門港は、この図のように、非常に広く、複雑で、かつ航行環境の厳しい長い海峡をもっているため、日本の港では最も多く航路標識が設置されており、その数は海上保安庁が直接管理しているものだけでも126基にもなります。
 その場に適した「いろいろな種類の航路標識」が設置されています。その一例を紹介いたします。
 
<同期システム図、絵>
 その中でも、特徴的なものとして「同期システム」が挙げられます。
 この図の右のイメージのように、初めて入港する船長でも、主航路(メイン・ルート)が簡単に、間違いなく分かるように、海峡の航路の入り口から出口まで、航路両側の灯浮標に「同期装置」を付けています。
 この航路とこちらの航路の、2つのグループに分かれています。
 
<導灯の図>
 この大きく曲がった場所で、東に向かう船が、出来だけ早く通行しようとして航路の左側にはみ出すことによる衝突事故が多発していました。
 このため、この大きく変針をする箇所で右側航行を守らせるために導灯を3箇所設置しています。
 先ほど、関門海峡は潮流が速いと申しましたが、特に潮流の速い箇所の灯浮標は、「耐急潮流型」のブイを設置しています。
 なお、これらの他に、資料に書いてありますが、潮流が速いことも関係があるのでしょうか、衝突されるブイが多いので、消灯警報装置、衝突船へのマーキング装置が付いたブイが20個あります。
 
<苅田港の図>
 次にもう1つ参考となる港として、関門港の南に位置する「苅田港」について説明をします。
 日本の港でハロン湾の水路に似ている水路をもっている港を探しましたが、大型船がこのような狭い水路を入港する港は見つかりませんでした。
 そこで、航路幅は広いが、長い浚渫水路を入港するということで、苅田港を参考の港として紹介いたします。
 
 この航路の長さは約11Kmです。航路の幅は中央航路で250m、この南の航路は190mあります。この航路の水深は10mです。
 両側に設置している灯浮標の間隔は約1マイルあります。
 この港でも、防波堤灯台と灯浮標の全てに同期装置が付いており、非常に航路が分かり易くなっています。
 最大船型は約53,000トン(G/T)の自動車運搬専用船です。喫水は9mです。
 
 なぜこのような港に、大きな自動車運搬専用船が入港するかと申しますと、苅田には、ベトナムでも数多く走っている「日産」の自動車製造工場があるからです。
 大型船舶が入出港するときは、3,000トン以上の大きさの船舶については入港、出港の調整をしています。
 
<木更津航路の図>
 苅田港では、灯浮標の設置間隔が1マイルでしたが、この図のように東京湾内にある「木更津航路」、その南の「富津航路」は、灯浮標の間隔は約1,000mとなっています。
 大阪港など他の港においても灯浮標の間隔が1,000mのところがあります。
 
(4)信号、航路標識
 次に、航行援助施設として設置されている「信号、航路標識」についてお話をします。
 最近、船舶に装備する機器においては、GPS付の計器、ARPA付のレーダー、電子海図表示装置などの発達がみられます。しかし、これらの機器を過信し、油断したり確認を怠ったりして事故になる船がみられます。
 また、これらの機器を搭載しない船も多くみられます。
 そのため、航路標識は、依然として航海の安全を確保する重要な手段と言えます。
 最近、航路標識は、その場の海域状況、必要性に合わせて設置されるものがみられます。ブイについて、一部のものを参考として図や写真で紹介します。
 
<標準ブイ>
 これは、各機能が最もバランスの取れたブイで、日本では航路ブイとしては最も多く使用されている「標準的な灯浮標」と言えます。
 
<スパーブイ>
 これは「スパーブイ」と言われているものです。
 このように長いチェーンがないことから設置中心からの移動が少ないこと、灯高が高くなることが利点です。また、波等による傾きが小さいという利点もあります。狭い水道の入り口に設置し、また海上工事区域を示すブイに使用されています。
 
<浅海用ブイ>
 これは「浅海用のブイ」で、スカートが短くなっています。日本では、水深が浅いところに設置されています。
 
<耐急潮流型ブイ>
 これは「耐急潮流型ブイ」で、極めて潮流の速い海域で使用します。
 日本では、先に述べました関門港や瀬戸内海など潮流の速い海峡や水道が多いので、このようなブイも数多く設置されています。
 
<浮沈式ブイ>
 これは珍しいブイで「浮沈式ブイ」と言っているものです。
 港の狭い入り口や狭い航路の浚渫をする場合に、大型船が通航する時に、この部分の空気を抜いて沈めて、船の通航を素早く可能にします。空気を入れれば直ぐに浮くので、その後の工事再開も早くできるように開発されたものです。
 
<LED>
 最近の航路標識は、船舶操船者からみて「見やすい」「分かりやすい」ものに発展しています。
 光源の性能向上や、先ほど話をした「同期装置」など機能を向上させ、またシステム化したものが開発され、設置されています。
 先ず特筆されるものとして「LED(Light Emitting Diode)」が挙げられます。ハロン湾地域の航路標識の光源には、ハロゲン電球が使用されているようです。
 LEDは、今までの白熱電球に比べて、次の利点があります。日本ではLEDに切り替えつつあります。
 LEDの光源となる部分を持って来ていますので、こちらから回しますので、ご覧になってください。
 LEDの利点は次のとおりです。
○光度の立ち上がりが速いため、白熱電球に比べてよく見えます。
○同じ光度では、白熱電球にくらべて消費電力が少なくなります。
○フィラメントがないため、断芯(フィラメントが切れること)が無くなり、耐用年数が長くなります。また、時々の灯器外面の清掃や点検は必要でしょうが、それ以外のメンテナンスが不要となります。なお現在のところ、光達距離が10マイル程度までの灯器に使用されています。
 
<同期システム>
 「見やすい」「分かりやすい」標識としては、先に関門港や苅田港でご紹介した灯火の同期システム化があります。
 この同期システムは、航路表示用の標識に採用されている他、日本では海上での工事区域の表示のほとんどに使用されています。
 
<消灯モニタリング>
 消灯したこと、荒海や衝突などのよりブイが流出したことを、直ちに把握できるモニタリング装置があります。
 この図では、衛星を使用したシステムを書いてありますが、他の方法もあります。
 
<ペイントマーカー>
 また、衝突した相手船の発見を容易にするため衝突船にペイントを噴射してマークを付けるものです。衝突される被害が多い灯浮標に取り付けられています。
 
<アルミ灯台>
 灯台や灯標の標体(ボディー)、ブイの上部の構造物(ヤグラ)の材質として、アルミニューウムが使用されるものがあります。耐久性に優れ、メンテナンスの必要がありません。近くでは、フィリピン、シンガポールなどの灯台に使われています。








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