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2.3調査報告「ハロン地域における航行安全及び海洋環境保全について」
菅野 瑞夫 JTCA調査団 海事コンサルタント
1 はじめに
<ハロン湾航行の船の絵>
 (注:<>内は、パワーポイント図表の内容。以下同じ)
 ご紹介いただきました、菅野でございます。
 私は海上保安庁に長い間勤務していました。その間、航行安全行政に携わり、横浜港の港長(ハーバーマスター)も経験しております。また大型巡視船の船長として海上安全システムや航行援助施設の利用者としての実務経験も有しています。
 実はヴィエトナムに来ましたのは今年に入って初めてでございまして、JTCAの調査員として来まして非常に日本の風景と似ていて親近感を抱いております。ハロン湾も初めて調査の時に世界遺産を見させて頂きましたが非常に壮大のスケールの綺麗な所で自然の環境を守りたいと思います。
 お渡しした資料の経歴には書いてありませんが、海上保安庁在職中に1986年の4月から2年間、海上保安大学校の教授として研究に携わったことがあります。また海上保安庁を退職後は、研究機関である「日本海難防止協会」の企画部長として海上安全の調査・研究を行ってきました。
 今日は、これらの経験から得られた知識を基にお話をいたします。
 
 10月末に、このセミナーの打ち合わせでこちらに来た時に、油やゴミの回収を含めて、出来るだけ幅広く日本の体制などについて話して欲しい旨のご希望がありましたので、今日の私の話は、先ず前半は、皆様方のお仕事の参考にしていただくために、広く「海難の状況」と「日本における海上交通安全対策及び事故時の油防除対策」について、事例を入れながらお話をします。
 
 そして後半は、私が今年9月にJTCAの「ハロン湾調査チーム」の一員として、ヴィエトナムに来て調査した結果からみた、「現状の評価」と「考えられる安全対策」についてお話をいたします。
なお、更に知りたい点や疑問の点などについては、後でご質問の時間がありますので、その場でればお答えしたいと思います。
2 海難
<ミスが8割の円グラフ>
 それでは、内容に入ります。お配りした資料の順序で説明いたします。
 最近、船舶について、運航技術や運航支援の技術革新が進み、ハード面での大きな進展がみられます。しかし、船舶運航の安全確保という面では、まだまだ操船している人間の判断の要素が大きいのが現実です。
 「人間はミスをする動物である」ということを忘れてはなりません。
 このグラフは、「貨物船とタンカー」の二つに限ったものですが、日本では実に船舶事故の8割もが「運航上のミス」によるものとなっています。IMOでも8割がミスによるものとしています。
 それ故、操船者が、何時でも何処でも、的確な情報を把握し、ミスなく、適正な判断をする必要があり、その重要な要素の一つとして「航行援助施設の充実化」が挙げられます。
 
<貨物船、タンカーの事故数および原因の数字>
 先ず、参考として日本の船舶海難について話をします。
 日本では、プレジャーボートと漁船の海難が多く発生しています。プレジヤーボートと漁船については、日本とヴィエトナムでは内容が異なると思われるので、ここでは「貨物船とタンカー」の事故について、述べることにします。
 「貨物船とタンカーの二つを合わせた海難」は毎年4百数十隻程度発生しています。
 「貨物船とタンカー」の事故では、衝突が最も多く約6割を占め、これに続いて乗揚げが約2割となっています。
 事故の原因としては、操船不適切と見張り不十分によるものが多くなっています。
 先に、技術革新が進んだと申し上げましたが、日本では、皮肉なことに技術革新の結果増えた海難があります。
 その一つは、自動操舵装置の普及により「居眠り」が増え、居眠りが原因の乗揚げや衝突が多く発生しています。
 もう一つは、「GPSプロッター」と言って、GPSによる正確な位置が画面に出る装置が普及した結果、操船者が海図を見なくなったため、GPS表示装置では画面に表示されない暗礁等の浅い所に乗揚げる船が出てきたことです。
 
 さて、海難の事例に入りたいと思います。
 資料には世界や日本における最近の事例を書いてあります。
 シーエンプレス、エボイコス、エリカの事故はご存知でしょうか。
 日本で発生したナホトカとフランス沖合で発生したエリカの事故は、大荒れの海上で老朽化したタンカーの船体が二つに折れるという同じような事故で、同じように沿岸部に漂着した大量の油で広域にわたって被害が発生したというものです。
 
<ダイアモンドグレース海難等、写真3点>
 日本における海難を少し写真でお見せいたします。
 この上の写真は、資料に書いてある「ダイアモンドグレース」の海難です。
 東京湾内で、約15万トンのタンカーが乗揚げて油を流しわが国では、大きな問題となった事故です。流出した油が揮発性のある「原油」であったため引火する危険があり、私達は「これは大変だ」と思いましたが、強い風が吹いていたために揮発成分が拡散し、また流出油も当初の通報よりも非常に少なかったため、幸い大きな被害は発生しませんでした。
 この事故後、運輸省からの委託により、私の居ました「日本海難防止協会」で安全対策を検討し、船舶交通の流れを整えるブイを設置するなどの措置がとられました。
 
<フェリー「むろと」海難写真>
 下の左の写真はフェリーの乗揚げ事故です。幸い全員が救助されました。
 日本では、最近久しく大型旅客船の事故は発生していなかったので、社会的にも問題となりました。原因は船長の判断ミスでした。
 
<マリタイムガーディニア>
 下の右の写真は、10年ほど前に、私が海上保安庁在職中に「流出油の防除」に従事した事故の写真です。
 これは貨物船ですが約1,000klの燃料油が流れ出したものです。タンカーの事故のみでなく、貨物船の事故によっても多量の油が流れ出す事例として紹介いたします。
 この写真は、海上が平穏な時のもので、オイルフェンスがシッカリと展張されています。しかし、強い風が吹くとこのオイルフェンスは切断され、防除作業に非常に苦労した事故でした。
 
<ガラパゴスにおける海難写真・図>
 日本以外の海難を一つ紹介いたします。
 これは、ハロン湾と同じ「世界遺産」である、南米ペルー沖合にある「ガラパゴス諸島」における海難です。
 このガラパゴス諸島は、世界でもここにしか残っていない貴重な生物が数多くいることで有名です。乗揚げたタンカーから流れ出した680klの油により、これらの貴重な生物に被害が及んだことで、世界的に注目を浴びた事故です。
 なお、島から油を遠ざける風が吹いたために被害の拡大が防がれたとのことです。
 この事故では、この海域に不慣れな船長が「航路標識を見誤ったこと」が乗揚げ事故の原因となっています。航路標識の重要性を浮き彫りにしています。
 
 世界的に見ると、大量の油を流出させる海難は、その多くは大型タンカーの航行する外洋や外洋に面した沿岸部で発生しています。
 エリカの事例は、外洋や外洋に面した沿岸部におけるタンカーの事故は、広く周辺の国々に被害が及ぶことを、如実に示しています。
 これらを踏まえて、国際条約の基に、このような油流出事故には国際協力体制を整備して対応しようという動きが強くなっています。








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