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1 調査の概要
1.1 調査の背景
 本調査は、
・ 平成10年度「開発途上国の都市内バス輸送事業に対する世界銀行の支援事例調査」に基づく都市内バス輸送事業支援事業に関する知見、及び、
・ 平成11年度「開発途上国の都市内バス輸送整備協力調査(Phase1)」、平成12年度「開発途上国の都市内バス輸送整備協力調査(Phase2)」に基づく東南アジアにおける都市内バス事業の知見
を背景として、都市内バスを中心とした都市公共交通に関連する広範な情報を収集し、JICA社会開発調査・JBIC借款事業等の案件発掘・形成に利用できる基礎資料を作成するものである。
1.2 調査の目的
1.2.1 問題意識
 途上国の都市交通環境において、公共輸送システムの果たす役割が重要となっている。今後、導入の簡便性(費用、時間)から、中小都市では特にバス輸送を主体とした公共輸送システムの重要度が増加すると考えられる。また、大都市圏においては、都市鉄道を補完する端末交通手段として(場合によっては基幹的な交通手段として)バス輸送の需要が高まってくるものと考えられる。
 これまで、バス輸送分野における我が国の援助形態は、インフラ整備のための資金援助及び技術支援が一般的であった。都市交通案件ではバス路線の再編や駅前広場の建設、バス経営改善なども若干行っているが、支援内容はバス運営主体に対するバス車両の提供、及び、それに付随する整備工場/車庫等の建設・整備が中心であったといえる。
 しかし、途上国におけるバス運営主体は一般にその経営形態が効率的でなく、事業が採算に合っていないのが現状であるため、これまでのハード中心の支援事業に十分な効果が期待できなかった。その原因として事業環境の違いがあげられるものの、その把握に積極的に取り組んできたとは言い難い。
1.2.2 これまでの調査
 JTCAは、平成10年度自主事業として、「開発途上国の都市内バス輸送事業に対する世界銀行の支援事例調査」を実施した。ここで得られた知見は以下のとおりである。
 
1) バス交通を都市公共交通の核として位置づけ、車両・インフラ整備を進めるとともに、効率的で持続可能なバス事業の運営形態を模索してきた点
2) 政治責任と運営責任の分離、競争原理の導入という基本理念の下で、運営組織改善、事業規制改善などを含めた支援形態を確立した点
3) バス車両リースシステムの創設、公的バス事業者の民営化、事業監視組織の強化、
 
 などの具体的な施策に結びついた点
 
 このような世銀の取組みは、我が国の支援形態に多いに取り入れるべきであると提案した。
 また、平成11年度自主事業「開発途上国の都市内バス輸送整備協力調査(Phase1)」において、スラバヤ(インドネシア:都市圏人口250万人)、チェンマイ(タイ:都市圏人口40万人)の、都市内バス輸送事業調査を実施した。
 スラバヤでは、都市内バス事業者(公営、民営)、パラトランジット業者とその組合組織、タクシー事業者、行政関係者(陸上交通管理、インフラ整備、都市計画、市民経済)に対してインタビューを実施した。バス事業運営の問題点を抽出するとともに、自動車交通環境の問題に関しても言及した。
 チェンマイでは、陸上交通局、交通警察、乗合タクシー事業者、その他交通関係施設に対してインタビューを実施した。チェンマイでは1996年に都市内バス路線が廃止されているが、これは乗合タクシーとの競争が激化したことが結果であった。現状の乗合タクシーの運営の非効率性、オートバイ、自家用車の普及などに関して調査した。併せて、途上国都市のバス運営を包括的に調査するために、バス支援マトリックスを作成したこともこの調査の成果と言える。
 
 平成12年度自主事業「開発途上国の都市内バス輸送整備協力調査(Phase2)」では、ビエンチャン(ラオス:都市圏人口20万人)、ジョホールバル(マレーシア:都市圏人口150万人)、メトロマニラ(フィリピン:都市圏人口700万人)の、都市内バス輸送事業調査を実施した。
 ビエンチャンでは、民間バス事業者組合(長距離バス)、公営バス事業者、運輸交通通信省、ビエンチャン県、研究機関を訪問し、インタビュー・資料収集を行った。国際協力事業団によるビエンチャンバス公社の運営支援の結果、周辺市町村よりも近代化されたバス運行が実現されている。調査では現地での支援事業の重点を整理するとともに、今後の発展の方向性について言及した。
 ジョホールバルでは、民営バス会社、公営バス会社、タクシー会社、交通警察、運輸省現地機関、ジョホールバル市役所、大学・研究機関を訪問しインタビューを実施した。1995年以降実施されている民営バス会社の統合問題における行政機関、民間事業者の役割を整理し、統合時の財源、労働、車両安全性などの多岐に亘る問題点を指摘した。
 メトロマニラでは、民営バス会社、交通警察、事業管理者、陸上交通局(計画部、取締り組織)、を訪問し、バス事業に関する情報収集につとめた。メトロマニラのバス事業は、事業管理者から民間バス会社へ事業権を賦与することで実施・展開されている。違法事業者の排除、民間事業者の経営状況、軌道系交通との共存などの課題について整理した。
1.2.3 本調査の目的
 本年度調査では、対象地域を南アジアに移して調査を実施することとした。
 
1) 対象都市のバス交通事業に関する問題点の抽出
 何が、どのように、なぜ問題になっているのかを調査する。
2) 世銀などが実施した管理組織強化・事業規制導入などの施策のニーズ検討
 インフラ整備・車両支援等のハード的な支援分野だけでなく、制度、組織面などのソフト的な支援分野での施策ニーズについても検討する。
3) アジア地域での普遍的な課題
 バス事業に関するアジア地域での普遍的な課題及び南アジア地域に起因する課題を整理する。
1.3 対象都市
 本調査では、チッタゴン(バングラデシュ)、デリー(インド)を調査対象都市に設定した。選定時に重視した点を下表にまとめる。
表1.1 対象都市の背景
選定基準 チッタゴン デリー
バスを核とした都市交通環境の構築が必要な中小都市であること 都市圏人口30万人の中小都市  
都市鉄道を補完する端末交通手段としてのバスの重要性把握 都市間鉄道がある。イギリス植民地時代に北東インドアッサム地方とベンガル湾港湾都市を結ぶ鉄道が建設されている。 地下鉄が建設中である。
イギリス統治時代に始まったインドの鉄道はアジアでは最も早い創業である。デリーは北部地域のターミナルであり、鉄道の重要性が高い。
公的バス事業者があること あり(バングラデシュバス公社) あり
民間公共交通(バス)事業者があるか 都市交通事業者としてはなし あり
道路インフラの整備状況は良いか   新市街は区画整理され道幅も広い。旧市街は雑然として、入り組んでいる。
バスに関する問題点はあるか   バス走行時の排出ガスがデリー市内の大気汚染の原因と指摘され、係争の結果、裁判所からすべての車両の改良を命令されている。
調査フォローアップの容易さ バングラデシュエ科大学 現地コンサルタント
1.4 調査方法
 (1)バス支援マトリックスの作成
 バス事業支援のために必要な調査項目を明示するために、Phase1,2と同様、支援分野別に調査項目を整理したバス支援マトリックスを用いることとする。昨年度の経験を踏まえて、バス支援マトリックスは2章を通じて考察、改案した。
 
 (2)事前情報収集、現地調査
 事前に質問票を作成し対象都市の情報を収集した。調査は概略以下の方法で行った。(調査方法)
・ JICA,WB,ADBなどの既存報告書による文献調査
・ TRBなどの論文集・調査報告集による文献調査
・ 現地当社提携コンサルタントに対しての質問票による調査
文献一覧は付録2に掲載した。
 
 現地調査として、バス事業を中心に都市公共交通の関連主体に対し直接インタビューを行い、現状の問題点の把握・抽出に努めた。訪問先は、主として都市公共交通の事業管理・計画組織、公営バス事業者、民間バス事業者の3者で、それぞれに応じた質問表を準備の上、問題点の把握に努めた。併せて、可能な範囲で現地提携コンサルタントを訪問し、第三者の目から見た現状問題点の把握も試みた。
 
 (3)報告書の作成
 上記調査によるバス事業の状況報告について、チッタゴンは3章、デリーは4章に示した。併せて、訪問スケジュール、訪問組織は付録1に掲載した。
 
 (4)問題点の整理
 調査を通じて明らかになった問題点は各章の最終節に示した。
1.5調査期間
 本調査は、2001年12月4日より開始され、現地調査は2002年1月10日〜19日に実施された。同年3月24日に最終報告書が提出された。








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