2.(1) 安全作業マニュアルの作成と順守
災害防止に人の弱点を補う安全マニュアルの作成を
人は、災害を防止していく上で、残念ながら次のような弱点をもっています。
1.注意力の維持が難しく、不注意な行為が避けられない。
2.手抜きや近道反応、憶測判断をとりやすい。
3.年をとると体力や機能が低下して、被災しやすいなど。
このような人の弱点を補い災害を防止するための対策として、協会が推進しているのが、災害が多発している船種や作業対象とした作業の標準化です。
作業の標準化とは、作業ごとの安全作業マニュアルの作成です。最も安全で無駄のない作業の方法と手順及び安全の確認について、その作業の準備から片付けまでを定めます。
作成するだけで守らずに死蔵されているマニュアルが少なくありません。大切なことは、作業を行う全員が手抜きをせずに確実に順守して作業を遂行していくことです。
2.(2) 安全作業マニュアルの作成と順守
安全マニュアルは労安則やチェック・リストで安全の確認を
安全作業マニュアルを作成するときは、ぜひ次のことに留意して下さい。
1.作業に従事する一人ひとりの役割を、職種や経験・知識を考えて明確にします。
2.用途に応じたチェック・リストを作成して、使用する工具や計測機器の準備や安全の確認に活用する。
3.作業を安全に行う上で守らなければならない事頂が船員労働安全衛生規則で定められています。いずれも過去の経験や災害事例、理論的な見地からみて、順守しなければ災害の発生の恐れがある重要な事項ばかりです。マニュアルの中に取り込みましょう。
2.(3) 非常時の安全作業マニュアル
作業中に突然、不安全な行為や状態が発生したら
例えば、作業中に次のような人身事故などが突発的におきたとき、貴方は、「的確な行動を手順良く行う。」ことができますか。
◇塗装中に、マストから作業員が墜落したとき
◇カーゴタンクの中で、作業員が酸欠により昏睡したとき
◇係船作業中に、ロープがドラムに食い込んだとき
◇塗装中、海中に作業員が転落したとき
安全作業マニュアルには、作業中の「不安全な行為」や「不安全な状態」、更には事故が不意に発生したときの対応の手順まで、記載されていないのが通常でしょう。個人に差がある知識や経験、瞬発力にたよった「臨機応変での処置」とすることは、慌てて対応を間違えたり、対応が遅れ、また二次災害を伴う死傷災害の発生も危惧されます。
時々しか行わない修理作業、または作業中に「不安全な行為」や「不安全な状態」などが不意に発生したときのマニュアルをあらかじめ作成しておき、平素から頭の中で手順を描いてみて下さい。
2.(4) ヒヤリ・ハットと安全作業マニュアル
ヒヤリ・ハットの活用で災害の芽を摘もう
ゼロ災害を目指すためには、安全作業マニュアルの作成・順守に加えて、実効がある安全教育などを組み合わせて行うことが必要です。代表的な対策を取り上げてみましょう。
1.ヒヤリ・ハットの活用
職場からヒヤリ・ハットした不安全な行為や状態を一つひとつなくすことは、災害を未然に防止するうえで極めて効果的であり、災害につながる「危険の芽」を摘むことです。
例えば、[III]の資料2と資料3の「ヒヤリ・ハットの実例」に照らして注意喚起し、必ず安全保護具を着用すること等はもとより、「危険な芽」を摘み取るハード面での措置(十分な照明の設置等)を施し、また、仮に災害を起こした場合でも、被害を最小限にとどめるような工夫(突起物に防護材を巻く、もしくは加工する等)も必要です。
ヒヤリ・ハットした事例の報告を船員から受ける上で気を付けなければならないことは、「このようなことを報告したら叱られはしないか」とか、「昇進などに影響しないか」などの危惧を船員に与えない、報告しやすい職場の雰囲気づくりが必要です。
2.(5) 危険予知訓練と安全作業マニュアル
危険予知訓練で安全を先取りしよう
2.危険予知訓練(KYT)
作業状況を描いたイラストや作業の現場をみて、その中に隠れている危険の要因とその要因が引き起こす「不安全な行為」や「不安全な状態」を、グループや個人で考えて、作業を始める前に安全を先取りする訓練です。
日々のミーティングなどの中で短時間に行うことは、危険に対する感度を高めるだけではなく、チーム・ワークの強化にも役立ちます。
パッと見ただけで、危険な要因が頭に浮かべば、安全を確保する上で、大変心強いではありませんか。
2.(6) 安全確認と安全作業マニュアル
安全確認と安全意識の高揚を
安全作業マニュアルの手順の中で、次のような対策を活用すると、手落ちを防ぎ、安全の確認が一層確実になります。ぜひ実施して下さい。
1.指差し呼称
人の注意力には限界があり、うっかりミスの発生を完全になくすことは、困難です。これを防ぐのが、大きな声で「○○ヨシ」、「○○ヨシ」と呼称して、自分の声を聴いて自分の指を差して確認することです。実験の結果では、正確度が3倍になるといわれています。
2.スタンバイ(S/B)・ミーティング
作業前に、気軽に作業従事者全員が集まり、短時間に行うミーティングです。船長や機関長などが、作業の手順や安全上の注意を話したり、申し合わせなどを行います。
部下から安全に関する意見を聴く良い機会であり、安全意識を高めることにも役立ちます。陸上では、ツールボックス・ミーティングともいわれます。
3.3S(4S)運動
職場で、整理・整頓・清掃を進めていく運動で、清潔を加えたのが、4S運動です。
整理とは、必要なものと必要でないものとをより分けて、必要なものをそろえること、整頓とは、使いやすいように整然と置くことです。各自の役割分担や区域を決めておくと、一層効果的です。