3.(1) 「転落」の災害事例
パイプ修理中にセットリング・タンクのトップからうねりで転落
居住区冷房機の冷却用海水管に漏洩が見られたため、機関長は機関部員一人に手伝わせ、潤滑油セットリング・タンクの頂部に上り、修理を始めた。同海水管は、天井付近を走っており、タンクの頂部に固縛した脚立を使用しなければ手が届かない高所作業であった。同管を取り外して溶接修理を行ったあと、同タンクの頂上で取り付け復旧作業のため機関長が右手を斜め上方に差し上げたとき、うねりで船体が傾いて転落、安全帽がぬげて頭部に重傷を負った。
原因と対策
1.作業を開始する前に気象やうねりなどをチェックして作業の実施が可能かどうかを判断し、安全な作業が危ぶまれるときは、作業を取り止める決断が必要です。うねりがある中でやむなく実施する場合は、進路を変更するなど動揺の軽減に努めて下さい。
2.高所作業では、足場の確保のほかに、安全帽は、あごひもをしっかりと締め、安全ベルトは必ず使用することです。(船員労働安全衛生規則第51条(高所作業)参照)
3(2) 「転落」の災害事例
カーゴ・フックがビームをひっ掛けハッチ・ボード上から転落
荷物揚げ切り後、ダンネージを中甲板から下倉に下ろすときに発生した。半開きにした中甲板のハッチ・ボードの上にいた被災者が、カーゴ・フックを取ろうとしてカーゴ・ワイヤーを引き寄せたとき、フックが振れてビームに引っ掛かった。ウインチ・マンは、それに気付かずにワイヤーを巻き上げたため、ビームから外れたハッチ・ボードとともに被災者は、下倉に墜落した。
原因と対策
1.直接の原因は、ウインチ・マンがカーゴ・ワイヤーやフックの状態を確かめずにウインチを操作したこと、及びシフティング・ビームが固定されていなかったことが同時に発生したことです。
2.できれば、作業状況が確認できる場所に合図をする者を配置することです。その配置ができないときは、ウインチ・マンとハッチ上の者が笛などで確実な合図を相互に行うことです。
3.特に半開きのハッチ・ウェイ上で仕事をするときは、シフティング・ビームをセット・ボルトまたはピンで、確実に固定する必要があります。
3.(3) 「激突」の災害事例
燃料油タンク中間弁のハンドルに頭を激突
操機長が機関室内の燃料油タンクを計測中、通路上に突出した燃料油取入れ中間弁の下をくぐり抜けようとしたとき、逆方向からきた他の作業員と衝突しそうになった。思わず上体を反らしたとき、安全帽が前にずり落ち、同中間弁のハンドルに後頭部が激突した。
原因と対衆
1.このハンドルのように通路上への突出部分は、突出しないように取り付け角度を変更するなど、不安全な部分を改善する必要があります。
2.周囲の見通しがきかないところから出るときは、十分に周囲の安全をチェックすることです。
3.目立つように、燃料油の識別色である赤色をハンドルとパイプの部分に塗装すること。(バルブ・ボディを赤色で塗装すると、消火の用を示すことになるので、赤色に塗らないこと。)
4.安全帽のあごひもは、外れないように正しく締めないと、安全帽ではなく役に立ちません。
3.(4) 「落下」の災害事例
マストの上からチッピング・ハンマーの頭部が落下
マストの上にあがってチッピング・ハンマーで錆打ちをしていたとき、同ハンマーの柄が折れてその頭部が落下し、下のデッキ上で作業をしていた被災者の頭に当たった。
原因と対策
1.使用工具の点検不十分が直接の原因です。 作業を始める前には、必ず使用する工具を点検し、正常な工具を使用することです。
2.高所作業中の下のデッキ上では、他の者が作業を行ったり、通行したりしてはいけません。
やむなく通らねばならないときには、必ず安全帽を着用して下さい。
3.(5) 「激突され」の災害事例
ナットを増し締め中にハンマーがくるぶしを直撃
発電機の整備中、たまたまボックス・スパナが手元になかったため、両ロスパナを代わりに使用してシリンダー・カバーのナットを増し締めしていた。機関長が右足の足底でナット側の付け根を支えていたが、スパナが外れて、ハンマーが機関長のくるぶし上部を直撃した。
原因と対策
1.足場の悪いシリンダー・カバーの上で、ナットを増し締めするのに両ロスパナでは、注意して行ったとしても外れる危険性があり、ハンマーが行き先を失って被災者のくるぶしに激突することは、予期できたことです。
2.直接の原因は、作業を指揮する立場にある機関長が参加しながら、手近な両ロスパナを使用してしまったことです。
3.(6) 「巻き込まれ」の災害事例
発電機の軸継ぎ手に上着のそでが巻き込まれる
発電機の電機子コイルが焼損したので新替えした。当日は、軸継ぎ手ボルト・ナットの回り止め割りピンがなかったので後日、取り付けることとしたが、被災者は、「このようなところに近付くものは、いないだろう。」と思い、軸継ぎ手の保護カバーを復旧せずに露出したままで、発電機を駆動した。その後、本人が機関室内を点検中、足をすべらして倒れ、回転中の軸継ぎ手に上着のそでが巻き込まれ負傷した。
原因と対策
1.直接の原因は、被災者が油気のある床で足を滑らしたことですが、主因は、保護カバーを復旧しないまま発電機を駆動したことです。
2.例え、近付く者がいないと思われても、このような不安全な状態を発生させないようにすることが鉄則です。
3.そで口の締まった作業着の着用や床の油の拭き採り清掃などの安全措置も合わせて実施して下さい。