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第7章 ANEMOSの応答
7.1 水平解像度
 一般に水平分解能を小さくすれば小さなスケールの運動も表現できるため、再現性は良くなることが多い。ただし、水平分解能を小さくする時、鉛直分解能や時間分解能も変化させなければならない場合がある。たとえば、鉛直分解能は、静水圧の条件を満たす程度に細かくしなければならないし、タイムステップは、CFL条件を満たす程度に小さくする必要がある。したがって、計算資源が限られているときに水平分解能を小さくするには、計算領域も小さくなってしまうなどの問題がある。以上のことを考慮して最適な水平分解能を決定しなければならない。
 1999年5月13日の事例をもとにネスティングの回数と適切な水平解像度について考察した。
 次ぺ一ジ以降に1999年5月13日の事例の5kmメッシュと2.5kmメッシュの計算結果を示す。5kmメッシュでは霧は発生しなかったが、2.5kmメッシュでは淡路島の西に霧が発生した。これは、霧の発生原因である海水面による大気の冷却が5kmメッシュでは十分行われなかったためと考えられる。
 また、同事例についてさらに1km、1.5kmのネスティングを行った。しかし、この場合も霧はほとんど発生しなかった。これは、計算資源の問題もあり、2.5kmメッシュに比べ小さい領域しか計算することができなかったため、南からの暖気、水蒸気の移流が表現できなかったためと考えられる。
 以上から、本報告書の計算については、すべて5kmメッシュの計算を2.5kmメッシュにネスティングしたものを使用した。
7.2 SST(Sea Surface Temperature:海面水温)
 瀬戸内海では、多くの島や海況が存在する地形のため、島の周辺や海峡では、潮流により水深の深い部分にある低温な海水が沸きあがり海表面の温度を下げる。したがって非常に複雑な海水面温度分布を呈している。
 また、瀬戸内海における霧では南から暖かく湿った空気が移流し、冷たい海水に冷やされて飽和し、凝結して霧が発生するという事例が多くある。したがって霧の正確な予測のためには、瀬戸内海の複雑な海水温分布を的確に捉え、予報することが非常に重要である。
 本項では、[1]気象庁が発表している約20kmの解像度がある*Near-Goosと、[2]約1.22kmの解像度がある*NOAAの海水温データを実測である観測値で補正したものとの両方で霧予測計算を行い、海水温の解像度が霧発生予報に及ぼす影響を検討する。以降[1]をNear-Goosの海面水温データ、[2]をNOAAの海面水温データと呼ぶ。
7.2.1 NOAAデータ
 NOAAのデータは衛星観測による海水温データであるため、晴天時しかデータを得ることができない。ただ、海水温は日変化があまり大きくないため、近傍の日であれば計算対象日の海面水温として使用しても問題ないと考えられる。そこで霧発生日からさかのぼった晴天の最近日のデータを海水温データとして使用した。
 補正する際に使用した観測値を以下に示す。またその位置関係を図6-1に示す。
1.   岡山県水産試験場:ブイ観測点(牛窓)
2.   広島県水産試験場:ブイ観測点(station 1-3)
3.   香川県水産試験場:ブイ観測点(屋島)
4.   山口県水産試験場:船による巡回定点観測点(22地点・月1〜2回)
5.   愛媛県水産試験場:船による巡回定点観測点(25地点・月1〜2回)
6.   国立環境研究所 :フェリー・サンフラワー
 
Near-Goos;the North East Asia Region-Global ocean observing system
 気象庁が発表している、北西太平洋日別海面水温解析データ。GPVと同様の格子間隔で、水平方向に約20kmの解像度がある。
 
NOAA;National Oceanic Atmospheric Administration:米国海洋大気庁
 米国海洋大気庁が発表している、極軌道衛星から受信しているデータ。温度較正、メルカトール図法への投影法変換の処理をへた後、日本気象協会から提供を受けている。地上付近で1.22km程度の高分解能がある。
 
 NOAAのデータから海水温データを作る際、以下のことに留意した。
 
雲域の埋め方
 NOAAの水温が13℃以下のところを雲域とした
 そこから、8方向に至近の雲域でないデータを探す
 それらに距離の自乗の逆数の重みをつけて平均をとった
 探す距離は半径20km内とした
 至遠距離は、領域の存在、陸の存在によって20km以下ともなる
 至遠距離に達してもデータが無い場合は、至遠距離の平均水温を参加させた
 平均水温とは全てのNOAAデータを平均したものである
 
実測値による補正のしかたの説明
 dt=Tobs-Tnoaa
 Tobs:水温実測値(シー・トゥルース)
 Tnoaa:対応するNOAAの水温(リモートセンシング)
 瀬戸内海中にTobsがn個(n地点)あるとすると、
 n個のdtが得られる(dt1,dt2,...,dtn)
 これらを全部使って、補正値DTを次のように求めた
 DT=(w1・dt1+w2・dt2+.....+wn・dtn)/(w1+w2+.....+wn)
 w=1/r**2
 T=Tnoaa+DT
 W  :重み(距離の自乗の逆数)
 r  :距離(任意地点〜Tobs地点)
 DT  :補正値
 Tnoaa:NOAAの水温(任意地点)
 T  :補正後の水温
7.2.2 海面水温と計算結果の比較
 前項に示したNOAAの海面水温データとNear-Goosの海面水温データを1999年5月13日の事例をもとに比較する。1999年5月13日は霧に覆われていたため、NOAAの海面水温データは前日5月12日の午前7時のデータを使って作成した。次ぺ一ジ以降に2.5km格子の計算領域におけるNear-Goosの海面水温とNOAAの海面水温の水平分布図を示す。
 Near-Goosの海面水温データでは、海水温は南東から北西に向けて次第に温度が一様に上昇している。一方、NOAAの海面水温データでは、所々でNear-Goosの海水温より低くなっているところが生じている。また、解像度が高いためNear-Goosのように一様な分布ではなく、水平温度勾配が大きくなっている。
 霧の発生には、暖かく湿った大気が海面水温によって冷やされる過程が非常に重要である。また、水平温度勾配が大きければより急激に大気が冷やされることになり、霧の発生に適している。したがって、NOAAの海面水温データを使用したほうが霧の発生予報には適している。
 同事例でNear-Goosの海面水温データとNOAAの海面水温データと2通りの方法で霧発生予報を行った。NOAAの海面水温データによる予報結果のほうが広い範囲で霧を予報していた。男木島では10時まで強い霧が観測されていたが、Near-Goosの海面水温による予報結果では10時には霧は消散傾向にある。この計算結果をもってNOAAの海面水温データによる予報結果のほうが精度が良いと結論づけることはできないが、明らかにNOAAの海面水温を入れる影響はあったと考えられる。また、NOAAの海面水温のほうが高い分解能をもっことを考慮にいれ、本報告書ではNOAA海面水温データを使用して計算を行う。
 1998年5月17日におけるNOAAの海面水温データも添付する。

Near-goos海面水温データ(1999年5月13日)
 
NOAA海面水温データ(1999年5月13日)
 
NOAA海面水温データ(1998年5月17日)








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