[2]1998年5月17日
1998年5月16〜17日は、四国付近に前線が停滞し各地で雨を降らせたが、17日午前中には次第に天気が回復した。前線に向かって風が吹き込んだため、16日は南東の風が吹き、夜半は南風に変わった。また前線通過後は瀬戸内海を中心に北東の風が吹いた。レーダー・アメダス合成図によると16日午後から夜半にかけて雨が降ったが次第に止み、17日12時には瀬戸内海付近に雨は観測されていない。衛星画像では、16日瀬戸内海付近はGMS赤外画像、可視画像ともに輝度が高く、背の高い雲に覆われていたことが分かるが、高松空港や広島空港で霧が観測されており、前線の影響によって霧も発生していた。17日午前中は赤外画像では輝度が低く、可視画像で輝度が高くなっていることから下層雲、あるいは霧が発生していたことが分かる。17日午前中、高松空港や松山空港、広島空港、男木島で霧が観測されていることから、この雲域は霧と考えられる。この霧は前線付近の大気の混合によって発生した霧と考えられる。
計算結果では前線通過後の北成分の風や前線の影響による雨をほとんど再現できなかった。ANEMOSは局地モデルであるため、総観規模の気象状況はGPVデータを境界値として取り込むが、予報をすることはできない。GPVと観測値の17日午前中の雨域を比較するとGPVは西よりに雨域を予報していた。そのため、ANEMOSでも前線を西よりに予報し、総観規模の気象場が精度よく再現されなかった。
前線の影響による霧を予報するには総観規模の気象場を精度よく予報することが重要で、そのためには2日前のGPVを境界値として利用するには限界があり、短時間サイクルで発表されて解像度の高いMSMなどを利用することも考える必要がある。
しかし、「前線位置のずれ」のみの問題であれば霧は西よりに予報されたはずである。この事例では霧域はほとんど予報されなかった。これは、ANEM0Sに含まれる以下の2つの問題の影響と考えられる。
1.暖かい雨のみ考慮されているため降雨量に誤差が生じる。
2.土壌湿潤度をパラメータで与えているため、降雨後の表面過程に誤差が生じる。
以上から、前線の影響による霧を予報するためには、初期値により精度の高いデータを利用し、ANEMOSの降雨に関する予報スキームを変更する必要があると考えられる。
参考文献
(1) Coastal Fog Simulations Using Mesoscal Model,Coastal Meteorology Research Program,University of Oklahoma,Norman,0klahoma,USA,2001,Fanyou Kong
(2) A Numerical Experiment on the Occurrence of Sea Fog in the Western North Pacific,Journal of Meteorological Research 53,NOs3-4, 2001, Norihisa Usui
(3) 霧を伴うやませの気象特性,天気39.8,1992 井上君夫
(4) 三陸海岸に侵入する海霧の雲物理特性、農業気象53(1),1996,井上君夫
(5) 移流霧の数値実験―定常・2次元モデル―,Journal of Meteorological Research Vol,38,No.1,1986,大野木和敏、柴田 清孝
(6) Microphysics of clouds and precipitation,1973,Hans R,Pruppacher,James D.Klett
(7) Studies of Physical Structure of Fog 1962,Toshiichi Okita