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第3章 霧と解析事例
 霧は無数の微細な水滴が空中に浮遊している大気現象で、雲が地表に接しているものである。霧が発生すると見通しが悪いため(気象観測では水平視程が1km未満の場合を霧と定義されている)、しばしば自動車、航空機などに交通障害が起こる。私達の生活は自動車や船舶、航空機などによる大量・高速輸送に支えられており、これらの交通機関の障害は生活に大きな影響を与える。また、農作物にも大きな影響を与えることがあるため、霧の構造の解明や予測は非常に重要なテーマである。本章では、霧の一般的な知識についてまとめ、解析事例の抽出を行う。
3.1 霧の分類
 霧は様々な原因が合わさって発生する複雑な現象であり、温度(冷たい霧・暖かい霧)や発生場所(川霧・海霧・山霧)、発生原因(移流霧・放射霧)などによって様々に分類される。ここでは、気象モデルによる霧発生予測をする場合に、事例を絞って解析をできるように発生原因について分類を行う。
 霧は、水蒸気を含む空気塊の気温が下がるか水蒸気が増加するかのいずれかあるいは両方が重なり、空気塊が水蒸気について過飽和となり霧粒が発生する。発生原因別に分類すると以下の6種類に分けることができる。
 
1. 気塊が断熱膨張してできる霧(滑昇霧)
2. 2つ以上の気塊が混合してできる霧(混合霧)
3. 放射冷却によってできる霧(放射霧)
4. 暖かく湿った気塊が地表面によって冷やされてできる霧(移流霧)
5. 暖かい地表面あるいは水滴から水蒸気が補給されてできる霧(蒸発霧)
 
 瀬戸内海は海上のため地形性の原因は考えられない。また、海は海面温度の変化が小さい(熱容量が大きい)ため放射霧も発生することは少ない。瀬戸内海の海難事故は4月から7月に発生しており、この期間は海水面より大気の温度が高いため、蒸発霧も原因としては考えられない。したがって、瀬戸内海の霧については、混合霧、移流霧、雨蒸発霧の3分類についてのみ考えればよい。
3.2 霧の発生に適した気象条件計算例
 霧発生予報をするためにはその発生に関する物理過程と霧の発生に適した気象条件を考えておく必要がある。以下に発生に関与する物理過程について述べる。
1. 拡散
2. 地表面の放射
3. 地表面過程
4. 断熱膨張
5. 移流
 
1. 大気中の乱流混合による物理量の拡散が大きい場合、大気は混合されて霧は消散する。したがって、風速が弱く安定層の気象条件が霧の発生に適している。
2. (地表面海面)の放射冷却が大きい場合、大気は地表面によって冷やされて、霧が発生する。しかし、海霧では海は熱容量が大きく海面温度の変化が小さいため関与しない
3. 大気と地表面の間での物理量の交換によって大気の熱が奪われると、大気は冷やされて霧が発生する。したがって地表面が大気より低温のほうが、霧の発生に適している。
4. 断熱膨張による温度低下が起こり、大気は飽和して霧が発生する。しかし、海霧の場合、地形性の強制上昇などが考えられないため関与しない。
5. 一般風による気塊の移流によって、含有水蒸気量の多い気塊が移流してくると、霧が発生しやすくなる。したがって暖かく湿った空気の移流があると、霧の発生に適している。
 
 以上の霧発生に関与する物理過程から瀬戸内海の霧発生に適した気象条件を類推すると、[1]風速が弱く、安定層が存在し、[2]大気を冷やす冷たい海面があり、[3]暖かく湿った空気の移流がある時に霧は発生しやすいことが分かる。
3.3 瀬戸内海の霧と解析事例
 天気図による解析から、瀬戸内海の霧は表2.3.1のように前線の影響による霧と、暖気の移流による霧に大別できる。暖気の移流による霧は明らかに移流霧であり、前線の影響による霧は混合霧、雨蒸発霧、移流霧の原因の複合的役割によるものと考えられる。
 そこで、本報告書では瀬戸内海の霧を暖気の移流による霧と前線の影響の2つに分けて考察する。また、霧の通称として暖気の移流による霧を晴霧と呼び、前線の影響による霧を雨霧と呼ぶ。
 瀬戸内海における典型的な晴霧と雨霧の特徴を以下に示す。
[1] 晴霧
 瀬戸内海が高気圧に覆われて風が弱く、比較的晴天時に発生する。高気圧の縁辺流などの影響で暖かく湿った空気が流入し、水温の低い海水によって下層から冷やされ、飽和して発生する。したがって、気温が海水温より高い5月から6月にかけよく発生する。
[2] 雨霧
 低気圧や前線が四国付近にあり、瀬戸内海には相対的な冷気層があって、上空から比較的暖かい雨滴が落下するときに発生する霧である。雨滴は冷気層を落下中に蒸発し、すぐさま凝結して霧になる。あるいは、前線を挟んだ2つの気塊が混合して発生する。
 [1]の典型的な事例として1999年5月13日の事例、[2]の典型的な事例として1998年5月17日について計算し解析を行った。 
 
[対象日の気象状況] 
 
[1]1999年5月13日
 日本の東海上に中心を持つ高気圧の縁に沿って、南から暖かく湿った空気が流入し、海上では濃霧が発生した。13日9時10分ころ高松市・大槌島の南東約1kmの海上で運搬船と貨物船の衝突が発生した。両船とも一部破損したが航行には影響がなかった。事故当時付近は、濃霧のため視界が100m以下だった。高松港では7時5分から10時30分まで停船勧告が発令された。
 
[3]1998年5月17日
 前線を伴う低気圧が九州の西海上から日本海を北東進し、前日16日引田で日降水量100mmを観測し、海上で濃霧が発生した。高松空港では雨などによる視界不良のため、欠航が相次いだ。また瀬戸中央自動車道では50キロ規制になった。17日は明け方から海上を中心に濃霧が発生し、高松港で停船勧告が発令された。
 2事例における気圧配置を下図に示す。
図 3.3.1 2事例における天気図
 
 
参考文献
(1) 霧の理解のために、1982、沢井哲滋
(2) 海と安全、1999
(3) 日本における濃霧による視程不良害発生の気候学的特徴、2000、山本 哲
(4) 備讃瀬戸の海霧、気象庁研究時報47巻








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