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2.3.7 周辺海域との比較
 前節では、関東から九州までの地域において近年になって年々の変動が有意水準5%で激しくなってきたと結論できることが示された。
 この傾向と周辺海域との関係を調査するため、海上気温と海面水温でも同様の解析を行った。
 
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図2.3.7 夏季平均日最高気温の25年分散の期間別地域別頻度分布
 
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図2.3.8データを抽出できた海域
(a)データセットの作成
 解析データとして本年度に新しく作成されたKoMMeDS-NFとCOADSを統合して1895〜1995年の2度×2度格子の月平均海上気温・海面水温データを作成した。しかし気象官署と同じく欠測が2回以下である100年間のデータを持つ海域はごくわずかしかない。そこで、経度方向は緯度方向に比べて温度差が少ないと仮定し、2度格子のデータを経度方向に平均して2度×6度として図2.3.8に示す13海域のデータを得た。
 
(b)陸上との比較
 上記代表海域の海上気温及び海面水温に対して行ったF検定の結果を表2.3.3に示す。この表では1〜3期は前節の陸上データでの解析と同じ期間であるが、最近の期間は1975〜1995年の21年間(4'期とする)である。この場合F値は自由度[20,24]のF-分布に従い、F≧2.03(≦0.49)のとき、4’期は有意水準5%で過去より年々変動が大きく(小さく)なっていると結論できる。
 陸上に近い海域が選ばれているが、その年々変動の変化傾向は陸上と異なっている。海域では2・3期の方が近年よりも年々変動が大きいところがある。変化傾向が異なるのは解析する期間が陸上での解析と異なるからかもしれない。陸上の経年変化を示す図2.3.6によると、有意な増加が認められた地域では前25年の標準偏差が1970年代半ばから徐々に増加し、1993と1994年の冷夏と猛暑により急激に増加している。従って1995年までのデータでも傾向の比較は可能だと思われる。有意でないとしても分散比が1より大きい海域は陸上と傾向が似ているかもしれない。しかし分散比が1より小さい海域は年々変動の変化傾向が陸上とは異なっていると思われる。
 
 表2.3.3近海の海上気温および海面水温の25年分散のF検定
1期:1900〜1924年、2期:1950〜1949年、3期:1950〜1974年、4’期:1975〜1995年の期間同士の分散比の検定結果。4’期は気象官署データでの解析と期間がやや異なることに注意。有意水準5%で増加しているときはハッチをかけ、減少しているときは太字にした。
 
 
2.3.8 まとめ
 日本の気象官署から欠測の少ない地点を選んで、6〜8月の日最高気温における年々変動の大きさが過去100年間で変化しているかどうかを調べた。その結果、新潟〜福島以南から九州までの地域で、近年25年間の年々変動の大きさが有意水準5%で大きくなっていることが示された。それ以外の地域・期間では統計的に有意な増減はみられなかった。
 海域においても同様の傾向があるか調べるため、KoMMeDS-NFとCOADSデータセットより近海における月平均海上気温・海面水温の100年間のデータセットを作成して同様の調査を行った。日本近海における年々変動の変化傾向は陸上と異なることがわかった。
参考文献
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