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総論
1. 研究開発の背景と目的
 地球温暖化に代表される気候変動の解明は、今や人類共通の重要な課題である。そのためには、全球的な気候変動の正確な把握とこれに立脚した科学的な予測が何よりも大切であり、現在各国において、各種データに基づく過去の気候変動の把握と、主に数値モデルを用いた気候変動の予測に多くの努力が払われている。
 気候変動の研究では、海洋が地球表面の約70%を占めているので海洋気象の把握が不可欠であり、長期的変化を捉えるには100年以上にわたる長期間の観測データが必要である。このような認識に基づいて、世界気象機関(WMO)は1963年に「海洋気候統計計画」を発足させて、海上気象観測データの電子媒体化を推進することを決定した。
 一方、気象庁(JMA)は1961年に、米国海洋大気庁(NOAA)との協力により、神戸海洋気象台が収集してきた明治22年(1889年)から昭和35年(1960年)までの海上気象観測データ(神戸コレクションと呼ばれる)をマイクロフィルムに収録した。これらのデータは約680万通にのぼるものであり、このうち1933年以降の約270万通は電子媒体化され、海洋大気総合データセット(COADS)に格納された。しかし、1932年以前については未着手のままであった。
 このような背景のもとに、日本気象協会は学識経験者からなる委員会の指導の下に、平成7年度から日本財団の補助事業として、この歴史的な海上気象観測データ「神戸コレクション」を電子媒体化し、地球温暖化等による海洋気候の長期変動の把握・解明に資するデータセットを構築してきた。
 これまでのデジタル化事業については、WMOの海洋気象委員会(平成9年3月)や「船舶による歴史的海上気象観測データセットの整備・利用に関するワークショップ」(平成12年11月、東京)等においてその概要が報告され、国際的にも非常に高い評価を受けている。
 さらに、「気候変動の監視・予測及び情報の利用に関する国際ワークショップ」(平成9年12月、神戸)においても、「歴史的観測データのデジタル化やその交換は、気候系の変動の理解及び気候変動の検出のために必要不可欠である」ことが国内外の関係者によって認識されている。
 本事業は、こうした国際的な期待・要請を背景として、地球温暖化予測等の重要施策に不可欠な、神戸コレクションの電子媒体化を更に進め、それらを用いた解析の高度化を図り、地球環境保全、海難防止、産業振興等社会の発展に寄与することを目的としている。また、これらの目的を達成するため、この歴史的な船舶観測データセットの整備を図り、気候変動に関連する調査研究を推進するものである。
 
 日本気象協会はこれまでの事業において、合計約228万通のデータを電子媒体化してきた。このデータは「日本財団により補助を受けて電子媒体化された神戸コレクション海洋気象データセット」であることから、このデータセットをKoMMeDS-NF(The Kobe Collection Maritime Meteorological Data Set funded by the Nippon Foundation)と呼んでいる。
 平成13年度事業ではこれらのデータの電子媒体化を進め、さらにこれら歴史的データを用いて気候変動に関する調査・研究を実施するものである。本事業により得られた成果は、地球温暖化予測等の重要施策や地球温暖化に関連する船舶の運航や海洋土木活動のあり方を検討する上で、重要な基礎資料をもたらすものと期待される。
2. 研究開発の概要
 本事業の全体の概要を図1に示す。この事業は平成13年度と平成14年度の2ヶ年計画で実施するものであり、平成13年度は次の事項について研究開発を進めた。
1.歴史的船舶気象観測資料の電子媒体化
「神戸コレクション」海上気象観測データのうち、未だ電子媒体化されていない約90万通から、約30万通を目標として、出来るだけ多くのデータを電子媒体化し、KoMMeDS-NFデータセットを充実させる。
 
2.品質管理
平成12年度事業で電子媒体化したデータを品質管理し、次年度にCD-ROMに格納して利用者へ配布するために整備する。
 
3.海洋変動による旱魃・冷害に関する調査研究
過去の長期間の気象観測データを統計解析し、旱魃・冷害に大きく影響する気温、降水量の偏差の長期変動を調査する。
 
4.データセットを用いた気候解析
KoMMeDS-NFデータセット等、歴史的データセットを用いて、専門家による詳細な解析及び気候変動研究を行う。
 
5.報告書の作成
本事業の成果を報告書にとりまとめる。
図1 平成13年度事業の全体概要
3. 研究開発の経過
 この事業を推進するに当たり、当協会内に次の委員会及び解析作業部会を設置して、事業計画の策定・検討、及び調査研究の推進を行った。
 
「歴史的な船舶観測データセットの整備と海洋変動による旱魃・冷害の研究」
平成13年度委員会委員
委員長 山元龍三郎 京都大学名誉教授  
委 員 花輪 公雄 東北大学大学院理学研究科 教 授
 〃  轡田 邦夫 東海大学海洋学部海洋科学科 教 授
 〃  加納 裕二 気象庁気候・海洋気象部 課 長
 〃  横田 寛伸 気象庁気候・海洋気象部 調査官
 〃  倉内 利浩 気象庁気候・海洋気象部 調査官
 〃  会沢  孝 気象庁気候・海洋気象部 主任技術専門官
 〃  小長 俊二 元気象庁 気象研究所所長  
 〃  磯崎 一郎 元気象庁 海上気象課長  
 〃  奥村 研一 日本気象協会開発本部 本部長
 〃  有沢 雄三 日本気象協会開発本部 部 長
 〃  岡田 弘三 日本気象協会開発本部 専任主任技師
 〃  坂井 紀之 日本気象協会首都圏支社 技 師
 〃  内田 洋平 日本気象協会関西支社 技 師
 〃  藤井 孝成 日本気象協会関西支社  
事務局 中村 丸久 日本気象協会開発本部 調査役
 
「歴史的な船舶観測データセットの整備と海洋変動による旱魃・冷害の研究」
平成13年度解析作業部会委員
部会長 花輪 公雄 東北大学大学院理学研究科 教 授
部会員 轡田 邦夫 東海大学海洋学部海洋科学科 教 授
 〃  見延庄士郎 北海道大学大学院理学研究科 助教授
 〃  安田 一郎 東京大学大学院理学系研究科 助教授
 〃  岩坂 直人 東京商船大学海洋工学講座 助教授
 〃  谷本 陽一 北海道大学大学院地球環境科学研究科 助教授
 〃  杉本 悟史 気象庁気候・海洋気象部 調査官
 〃  小司 晶子 気象庁気候・海洋気象部 技術専門官
 〃  有沢 雄三 日本気象協会開発本部 部 長
 〃  岡田 弘三 日本気象協会開発本部 専任主任技師
 〃  坂井 紀之 日本気象協会首都圏支社 技 師
事務局 中村 丸久 日本気象協会開発本部 調査役
4. 研究の成果の概要
 この研究の成果は第1部から第3部に詳しく述べるが、要約すると次のとおりである。
 
 (第1部)
 神戸海洋気象台が1889年〜1960年まで収集した「海上気象報告」のうち、未だ電子媒体化されていない1921年〜1930年の約39万通を電子媒体化した。これまでの平成7〜12年度事業で作成したデータにこれらを合わせると、約266万通のデータが電子媒体化された。昨年度事業で電子媒体化されたデータが、気象庁において品質管理され整理された。品質管理されたデータは、次年度事業でCD-ROMに格納され、国内外の気象、海洋関連機関及び利用者へ配布される予定である。
 
 (第2部)
 日本各地の夏季の降水量と気温の年々変化(平年偏差)の有意な長期的傾向を検出した。これによると、全国的に、降水量に長期的な変化傾向は見られないが、東北・関東・東海地方では、近年、降水量の年々変化は明らかに激化している。また、北海道と南西諸島では、降水量の年々変化は減少していることが明らかにされた。日最高気温の年々変化(平年偏差)については、東北南部から九州までの地域で、近年25年間では、増大していることが示された。
 
(第3部)
 データ解析作業部会により、次の研究成果を上げた。[1]南方振動の活動度と、北半球海面水温場に見出されたレジームシフトとの関係を調べ、レジームシフトの特徴を議論した。[2]北太平洋偏西風域を対象に海上風に対する長期変動の解析の留意点を記した。[3]現在デジタル化を進めている1890年から1932年の期間の神戸コレクションと米国の海洋気象統合データセット(COADS)を用いて、熱帯域での海面水温の変動と対流活動や貿易風との相互関係について調査を行なった。








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