緩和ケアから学んだ看護婦の姿勢
佐賀医科大学附属病院 田中 まゆこ
はじめに
3人に1人の割合でがんにより死亡している現代で当病棟でも9割の急性期から末期までのがん患者が病気と戦っている。そのような、慌しい一般病棟の中で息を引き取っていく患者に対する接し方に、これで良いのかという疑問が湧き、また今までの看護を振り返りたいと思い研修に参加することにした。
研修参加にあたり[1]終末期患者の心理状態と精神的援助について学ぶ。[2]症状コントロールについて学ぶ。[3]家族への精神的援助について学ぶ。と自己課題をあげ学んでいった。その他にも様々な学びがあったが、自己課題の学びについて報告する。
研修での学び
[1] 終末期患者の心理状態と精神的援助について
終末期の患者は治療法がないことから、医療者から見放されたと感じることが多い。予後不良であるという現実から逃げられないのを知り、死を漠然と意識しつつもがんを受け入れ(あるいは否認しつつ)一日でも長く我が家で家族と共に穏やかに生活したいと願っている。もしくは否認をとる場合もある。1)
告知を受けた患者は、キューブラーロスの危機理論で言われている段階を踏んでいくがスムーズに受容できる人と段階を行ったり来たりする人もいる。そして、不安が全人的(身体面、心理面、社会面、スピリチュアルな面)な痛みとなっていくことがある。
終末期の患者に対する援助としては、患者として見るのではなく、ひとりの人間として接し、また看護婦もひとりの人として接していく必要があると感じた。それには、その人それぞれの価値観を知り、受け入れる事から始まり、患者の話しを傾聴、共感する姿勢と全人的な痛みに対して一緒に考えていこうとする姿勢が大切である。このような姿勢が信頼関係を築き、患者に安心感を与えるのではないだろうか。
患者はストレートに心理面、社会面、スピリチュアルな面は表出してくることが少なく、患者の奥底に秘めている不安は何かしらサインとして出た時に気付くことができる感性が必要である。また表出を促すコミュニケーションスキルを身につける必要があると感じた。孤独感を感じさせないように寄り添う事も大切な事であると感じた。
[2] 症状コントロールについて
症状コントロールの目的は苦痛症状をコントロールすることにより患者のQOLの向上が図れるようにすることであり、緩和ケアにおいて重視しなければならないところである。終末期患者の疼痛には様々な疼痛があり、全人的痛みと表現されている。このような疼痛に対し、病態生理や痛みの原因を知り、症状コントロールの方法を選択する知識が必要である。
McCafferyは「痛みとはその人が表現する通りのものであり、その人が痛みがあると言ったときにはいつまでも存在するものである。」と述べている。
疼痛の感じ方には個人差があり、不安や情緒的因子や気分などにより影響されるが、患者の訴えに耳を傾け疼痛コントロールを図っていく必要がある。
症状コントロールをすることにより、患者の日常の基本的な生活を少しでも自立して行えるように支援することができ、それは人間の基本的ニード食事、排泄、睡眠、安楽、安全が保たれた時に生きていることを実感して生きる意欲へと結び付くのではないだろうか。その為にも看護婦は症状緩和についての知識や技術を高める必要があると思う。また、症状コントロールにおいて重要になるのは患者の意志を尊重していく事である。患者と話し合いながら症状コントロールを行うことで、患者自信のセルフケア能力が高まり、治療において自ら参加しこれからの自己決定に多いに役に立つのではないだろうか。
緩和ケアにはチーム医療も重要であることが、実習を通して改めて感じた。緩和ケア病棟には多種職の専門家がひとりの患者に様々な方面からケアを行い、残された時間をより良く過ごせるようにしている場面を見ることができた。全人的痛みである心理面、社会面、スピリチュアルな面のケアは看護婦だけでは難しく、専門的知識をもった職種が患者を取り巻きケアしていく必要があると感じた。
一般病棟ではカンファレンスも看護婦、Dr.別々に行っており患者の状態を良くしたいという思いは同じであるが、看護婦、Dr.間のすれ違いが多々あり、混乱を起こす事が当病棟には見られる。それぞれがお互いの職種を認め合い、尊重し合い、価値観を共有することがチーム医療への第一歩ではないかと思った。また、看護婦は、その他コメディカルと患者間のコーディネーター的な役割も必要であることが分かった。
[3] 家族への精神的援助について学ぶ
今まで、患者の家族と頻回に話しをすることがなく、面会に来られた時にちょっとだけ話しをし、家族の存在を重要視していなかった。その為、家族間の問題や不安など知りもせずに患者のケアを行っていった。特に家族間の問題には看護婦が介入するにも限界があり、どう対応していくのか疑問があった。しかし、終末期患者にとって家族は切り離せない存在であり、家族間の問題で、旅立つ患者に悔いが残るようなことがあれば、家族にとってもこんなに悲しいことはないと思う。
実習中に家族間の問題を抱えた患者、家族に接することができた。三女と患者間の仲にトラブルが生じており、次女がそれを悔やんで仲を取り持ちたいということであった。三女は精神科疾患があり病気が患者に暴言を吐き患者は三女を恐がっていた。そのような症例に看護婦はどのようなアプローチができるのか疑問があった。看護婦は、次女の悩みを傾聴し、母親と和解させたいという気持ちを共感して精神科のDr.に相談に乗ってもらうようにアプローチしたりし、次女をサポートしていた。その後、三女は母親への謝罪をし、次女がその事を患者に伝えることができ、次女の表情は入院時に見た硬い表情とは違い、晴れ晴れとした感じであった。
家族間の問題にはやはり、直接的に介入することはできないが、次女の悩みを傾聴し、母親と和解させたいと言う気持ちを支えていき、家族内で解決できるように、何か糸口を提示していくアプローチが必要ということが分かった。
その他、家族へのケアで、重要なのは患者の残された時間を家族と共に過ごすことができるようにすること。家族も患者と同じように死に対し受容するまでに段階をたどっていくことを理解し、それを上手くできるように支えていき、患者との別れを心残りがないようにしていくように援助することが大切ということがわかった。そうする事で、患者との死別後、悲嘆となり虚無感に襲われずにすむのではないだろうか。しかし、全てにおいて患者の死を受容できる家族ばかりではない為、遺族ケアとして家族の精神状態を知り、家族が行ってきた事は患者にとって良かったということを認めていく必要があり、看護婦や医療者に認めてもらうことで、家族は患者の死を少しずつ受容できるのではないだろうか。
一般病棟で遺族と接することはあまりなく患者の死別後、家族がどういう精神状態かなど分からない。一般病棟で亡くなる患者の家族は、緩和ケア病棟で亡くなる患者の家族より死に対する悲嘆が大きいと思われる。この研修で家族の大切さを知る事ができたので、今後、患者、家族を1単位として見、患者の残された時間にしてあげられることを一緒に考え、悔いが残らないようにケアを行って行きたいと思う。
実習についての学び
私がお世話になった実習病院は社会保険神戸中央病院の緩和ケア病棟であった。「患者、家族の意志を尊重しながら可能な限り苦痛を緩和し、患者家族が望むQOLを高めることができるよう、また家族が悲しみを十分表現でき、残された日々を患者と有意義に過ごせ、最善を尽くしたと感じられるように援助する。」という緩和ケアの目標の中で看護が行われている事が目で見て勉強することができた。
症状コントロールは十分に行われ、患者、家族に対するケアも行われ様々な学びがあった。何よりも勉強になったことは、医療者の患者、家族に対する接し方であった。忙しい業務の中で患者や家族と接するときは、ゆっくりと患者、家族の話しに耳を傾け、共感しその人の価値観を尊重している姿がとても印象に残った。そのような看護婦の姿勢に、忙しいということを言い訳にして患者の話しを聞いていなかった自分の看護にこれではいけないと気付かせてもらい、反省の念にかられた。
残された患者の時間を大切にしていく医療者の丁寧な看護を心がけていこうと思う。
まとめ
緩和ケアにおける基本的なケアとして、1. 身体的苦痛の緩和 2. 日常生活の援助 3. 精神的、社会的支援 4. 家族のサポート 5. 遺族のケア 6. チームアプローチ(コーディネーターとしての役割)が行われている事が研修を通して勉強することができた。レポートに書ききれないほど様々な学びがあったが、その学びとは別に、終末期患者の看護は看護の原点であることを感じることができた。医療者は死生感をしっかりと持ち、生きる事を大切にし、誰にでも訪れる死に対し敬意を払う気持ちをもつこと。患者、家族の価値観を知り尊重し、ひとりの人として接していくこと。残された患者の時間をより安楽に過せるように、知識や技術を持っている事。そして、なによりも人を思いやる姿勢が大切であると感じた。
一般病棟では、緩和ケアは無理ではないかと思っていたところがあった。現状としては一般病棟で亡くなる患者が多く、慌しいなかで、どう患者と接していけばいいのか分からなかった。しかし、看護婦の基本的姿勢があればどこにいても、緩和ケアは行えるのだということを感じることができた。また、緩和ケアだけに限らず、患者、家族に接する姿勢というのは変わらないことに気付くことができた。
おわりに
一般病棟の経験しかなく、緩和ケアに対する知識もあまりない私が、6週間という長い研修を乗り越えていけるのかという不安をもちながら研修に挑んだ。しかし、講師の先生方の丁寧な講義を受けるにつれ、知らなかった事や学びが多く、楽しく研修を受ける事ができた。そしてまた、お世話をしてくださった神戸研修センターの先生方、一緒に学ぶことができた、全国の仲間達のおかげで研修を無事終えることができたと感謝の気持ちでいっぱいである。
看護婦10年目で、自分の看護観が分からなくなってきていた頃に研修に参加し、看護婦の姿勢がどうあるべきなのか気付く事ができ、自分の看護観として焦点が定まったことで、また1から出直していこうと思えるようになった。研修での学びやこの気持ちを忘れず、今後の看護に生かし、日々努力していこうと思う。
引用文献
1) 細川順子:進行がん患者の心理的特徴と援助(講義資料)
参考文献
季羽倭文子 石垣靖子 渡辺孝子:がん看護学、三輪書店