緩和ケアナース養成研修を終えて
関西医科大学附属病院 中須 税子
はじめに
私は看護婦になり13年経った。そして、日々大学病院の中で医師は検査、診断、治療をする。看護婦はその診療の補助と患者の日常生活の援助という役割を行ってきた。しかし、その中で救命救急センターや消化器内科を経験しながら色々な看取りをしてきた時、このままの看護でいいのだろうか?緩和ケアとは何か?と考え、今までの看護を振り返る目的で研修に参加した。そこで、講義、実習で自分の看護の振り返り、緩和ケアのあり方を学んだので報告する。
1) 緩和ケアの考え方
がん患者は進行性の慢性疾患であり、治癒しなければ進行していく。進行に従って出現する症状は多くなり、全身性の疾患になってくる。したがって、私達のケアの考えとしては原疾患を治療するのではなく、苦痛症状を緩和して患者が生活できるようにすることである。
今回、研修で学んでいくうちに、今まで関わった色々な患者、その家族の顔が浮かび、その一人一人に看護が出来ていなかった、自己満足で終わっていたと感じた。そして、講義で看護を振り返り、学んだ事を実習で深めた。緩和ケアで大切なことは、まず患者がどのような生活を望んでいるのかを知り、達成できるのかどうか検討し、患者と共に目標を設定していかなければならない。さらに、患者の望む方法で可能な限り普段の生活に近づけるようにしていくことが、看護婦(医療者)の役割だと感じた。その為には症状コントロールを確実に行うこと、コミュニケーションを持ち続けること、基本的なニーズが患者の望む方法で可能な限り充足することであると考えた。
(1) 症状コントロール
患者の心理の理解、患者はがんを疑う症状を自覚した時から心理的反応は始まる。そこから、Kubler-rossやFinkらが述べている危機的経過をたどって行くため、まず患者の苦痛がなんであるのか危機的状況を理解した上で看護して行く必要がある。苦痛の原因によって、その都度判断、評価、医師と相談できる知識が必要である。さらに、患者、家族への説明や助言が出来るような知識も必要である。症状マネジメントについて、ピースハウスでは、カンファレンスであらゆる職種と関わりながら、疼痛シートを使用し病態からマネジメントを行っていた。そこで、患者、家族が今苦痛と感じているのは何か、身体的苦痛とを関連付け、そこから精神的、社会的、霊的ケアを結びつけて全人的苦痛のケアをされていた。私自身、症状コントロールの講義で疼痛マネジメントの知識が不足していたと感じた。そこで、実習中疼痛コントロールについて、初回の麻薬導入開始から変更、追加など具体的に学びたかった。しかし、対象となる患者がいなかったため、過去のカルテから学ばせて頂く形となった。そこで、私達の役割としては、全人的痛みの視点にたち[1]痛みの訴えを信じ必ず対応する。肯定的、共感的な態度で対応する。[2]痛みの原因(がん自体に関連した体性痛、侵害受容性疼痛、神経因性疼痛)を正確に診断し、増強因子、軽減因子を明らかにする。また、患者の疼痛は必ず身体的、心理的、行動的な反応を示している。そのため、患者の体験を理解して患者を個人として認めることがたいせつである。[3]鎮痛薬は患者に合った投与方法を選択する。私達は疼痛の機序、鎮痛薬についての充分な知識をもっておく必要がある。また、患者、家族が理解できるように説明する必要もある。疼痛を我慢しないように訴えに傾聴する。副作用の観察。[4]患者と充分に話し合い現実的な目標を設定する。[5]鎮痛効果と副作用を毎日繰り返し評価し、投与量の調整をおこなう。[6]評価の際は充分患者の訴えを聞く。また、医師へ報告する。[7]日常生活の援助、体位の工夫。環境整備。身体の清潔。環境の変化、散歩、院内コンサートの参加。[8]マッサージ、罨法などしていく必要があると考える。しかし、私自身もまだ症状マネジメントについては理解しているとは言えない。そこで、今後は病棟スタッフの知識も少ない為、スタッフや自分自身の症状マネジメント能力をあげる目的で事例を通して勉強会やカンファレンスをおこなっていくつもりである。また、本院では緩和ケアチームが疼痛のアセスメントツールを作成中である為、使用して理解を深めたいと考える。
(2) コミュニケーション
今回、日頃何気なく会話していることが、ロールプレイを行うことでコミュニケーションの意義、自分のコミュニケーション技術の未熟、患者の気持ちを聞き出す難しさを感じた。また、実際の患者からの話でも私達が相手の気持ちを理解できず、自分たちの価値観で見ていたことに気づかされた。そこで、私達の役割としては[1]患者の気持ちに焦点を合わせる。患者は病名、病状を理解していても、わずかでも希望をもっていたいと言う気持ちはある。その気持ちを支えるような看護婦の姿勢でおこなっていく。[2]看護婦としてではなく、一個人としての個人対個人のコミュニケーションをもつ。そのことで、患者や家族と心の通った関係が出来るようになる。また、素直に話し合うことで患者、家族と信頼関係につながっていく。[3]治療方法、生活についての決定は患者自身が決定できるように、患者の考えを尊重しながら一緒に考えていく。[4]非言語的コミュニケーション、不安や苦痛が強いときは、医療者から身体に触れられることだけで安心感につながる。また、これだけでも看護婦の気持ちは患者に伝わり、患者との信頼関係はできるようになる。[5]医療従事者間の関係、チームの中で連携がとれていると言うことは、患者に安心感があり、信頼できることにつながっていく。さらに、患者の心理として、徐々に衰弱していく場合[1]動くことで苦痛が増強すると分かっていても、自分で自分のことはやりたいと思っている患者も多い。その気持ちを理解し、見守りながら手を出していく。[2]患者の健康なときの生活習慣が出来る限り保てるように心がける。また、患者はどういう方法でやってほしいと考えているかを確認して行うことが必要である。[3]ベットサイドの環境整備、患者が手に届く位置に整える。[4]相手を受け入れられる柔軟性を持つ。患者の価値観、病状の受け止め方、理解力、今までの過去などすべてを理解して、患者、家族の考え方を否定しないよう、支える方向で受け止め、ケアにつなげるように心掛ける。その為にも自分自身のセルフコントロールと柔軟性が大切である。さらに、[5]カンファレンスを持ちチーム内での意思統一をはかり、ケアの目標に向かって努力する必要があると考える。
2) チーム医療について
恒藤は「現代の医療はチーム医療だと言われる。さまざまな医療サービスを提供する際、チームで取り組むことで、より良いサービスを提供できる。しかし、チーム医療は必ずしもうまくいっているとは言えない。その理由としては、[1]医師がチーム医療の重要性を認識せず非協力的[2]チームメンバーの知識や経験などの力量不足[3]チームリーダーやコーディネーターの不在が挙げられる」と述べている。1)
大学病院のシステムから行くと医師の現状を変えることは出来ない。したがって、私達の役割として[1]チームアプローチの必要性を看護婦間に浸透させる。[2]医師と看護婦の協働(理解の輪を広げていく。感情的にならず、自分の立場から客観的に問題を整理し、チームで考えた事を報告する。ともに責任があるという姿勢をもつ。ともにケアを振り返り、非難だけで終わらないようにする。)[3]プライマリーナースは医師と共に患者の情報を整理する。[4]合同カンファレンス、現在は看護婦のみのカンファレンスであるが、今後主治医、薬剤師にも参加してもらう。[5]現在おこなっていないがデスケース・カンファレンスを開始する。[6]他の職種との関わり、薬剤師との関わりとしても、病棟固定でない事や患者によって担当が違う、患者入院時持参薬の確認と退院時の服薬指導などが主であり、それ以外の関わりは少ない。医師と薬剤師の関わりも紙面上の相談が多い。今後は鎮痛薬などに関して、自分達が悩んでいたら素直に薬剤師に相談する。また、医師と薬剤師の橋渡しを行う。さらに、薬剤師がもっている患者の情報を聞く。看護助手との関わりも業務だけの関わりが主である。今後は患者の情報を与え問題を分かち合う。[7]ホスピスではあらゆる職種がいるが、私の病棟での状況を考えると限られているため、その中でお互いが専門性を尊重して存在を認め合う姿勢を大切にしていく必要があると考える。
3) インフォームドコンセント
インフォームドコンセント(以下IC)とは「説明と同意」あるいは「十分に知らされ、納得した上での同意」と訳出されている。緩和ケアにおいて個人重視、QOL重視の医療に変化してきている現代、個人の生き方も問題や価値観によって治療の選択が行われるようになってきた。さらに、医療従事者の役割は医療従事者側の判断の提示から、情報の提供と患者側の判断への援助に変ってきている。患者への医療従事者の援助は決して身体的なものであるばかりではなく、精神的な問題、家族の問題、経済的な問題、生き方や価値観の問題などに拡がってきている。さらに、治療方法を選択するだけでなく、時には治療を拒否する選択肢を挙げることさえある現実があるからである。しかし、そんな中ホスピスに転院した患者では、「治療がないと見放された」と思って来た人も少なくない。それは、一つの原因としてICが十分に行われていないからだと考える。
本院消化器内科では2000年より、初回の外来患者に病名告知について質問票を配布している。そして、病名告知のみ助手である医師が行うだけで、その後のICは研修医に任せている。大学病院のため一年目の研修医が主治医である。また、3〜4ヶ月でのローテーションの為ICには慣れていない。そのためか治療については、今だ医師から患者、家族への医療の押しつけが少なくない。また、その意味を理解出来ず承諾する家族もいる。その様な状況の中で、今まで医師ならしっかりしたICをしてほしいと思っていた。しかし、私達の役割として、患者が医師の説明を十分理解し、患者にとって最も良い自己決定が出来るように患者を支えることが大切だと考えた。そこで、まずIC時には同席する。そして、受けた説明をどう理解したかを知り、必要な時には補足する。さらに、病名、病状、治療法などの受け止め方と心に受けた衝撃の程度を観察する。そして患者を支え続けると同時に家族の苦悩に対しても援助する必要があると考える。しかし、ICが行えていても、死を覚悟、受け止めている患者、家族でも危機的状況が来たら冷静であるとは言えない。だからこそ、私達が家族との関わりも持ち、早めに患者、家族の危機的状況を理解する。その為にも、私達が患者や家族の危機的状況についての本を読み日々学習していく必要があると考える。
4) 家族のケア
家族は患者ががんと診断されてから患者と同様に不安を抱きながら生活している。また、家族でもさまざまであり、抱える問題や機能も異なる。私は日頃、家族看護も必要だと思いながらも、患者看護が中心でなかなか家族の気持ちを分かることが出来なかった。荒川は「お互いに支え合いながら自立した生活を営んでいた家族が、家族の一人の病気、闘病、死に直面したとき、その事態に前向きに立ち向かい、患者を含めた全成員がお互いに悔いのない別れをし、患者との死別後に家族としての成長発達を続けられるような、家族ダイナミックの変化と活性化に対する援助が必要となる」と述べている。2)
そこで、私達の役割として[1]患者と関わる時には家族構成、患者との関係、家族ダイナミックなどについての情報を得て、患者と家族にそれぞれに援助を行っていかなければならない。[2]本院でも患者が病名告知希望しているにもかかわらず、なされる前に家族にこの事が知らされている。家族は私達に相談してくることは少ないが、家族にとってはこの時点から不安が始まり、家族は援助を必要としている。この時に、私達が家族の気持ちが整理出来るように援助する。また、家族と共に患者にどのように対応していくかが必要であると考える。[3]家族は、患者の症状、治療、苦痛の有無、予後、家族の生活など不安を抱えている。キーパーソンとなる人に、患者の病状が変化するたびに、繰り返し同様の説明をするように医師へ依頼する。家族に対して、患者の状態に合わせて具体的にどのように接すればいいのか、今後の予測も含めて何が必要かと言う事まで話しておく。また、家族は誰に自分に気持ちを理解してもらえばいいのか分からず、一人で悩んでいる事が多い。私達に気持ちを相談するなど、看病の一切を背負い込まないように伝える。[4]家族が心残りなく患者と共に過ごすことができるように配慮する。家族と繰り返し話し合う時間を作り、家族の不安や悲観が表出できるようにする。家族関係を理解して、問題によっては適切な人に働きかける。苦労している家族に配慮する。家族へ肯定的な言葉を掛ける。具体的な看病の仕方について伝える事などが必要と思われる。また、本院には遺族ケアが無い。だからこそ、家族が満足できた看取りがおこなえるように、最期まで援助していく必要があると思われる。また、私達自信も危機理論など学び、家族の危機を理解した上で看護介入出来るよう日々向上していく必要があると考える。
おわりに
現状のシステムの中でも看護の基本は同じである。しかし、緩和ケアで大切なことは、患者の気持ち、思いや家族の願いをかなえ、最後までその人らしい生き方が維持されるように支援する姿勢が大切である。その為にも、医療従事者の私達が誠心誠意をつくして患者と関わる必要がある。また、一人一人の患者からの学びを受け止めて、自己の成長につなげていかなければならない。
引用文献
1) 恒藤 暁:最新緩和医療学、最新医学社、1999,P7
2) 荒川靖子:家族ダイナミックヘの影響と援助、ターミナルケア、P272-277、1994
参考文献
1) 恒藤暁:最新緩和医療学、最新医学社、1999
2) 向井雄人:緩和医療、WHO方式がん疼痛治療法の基本的な考え方、先端医学社、1999
3) 平賀一陽・武田文和:緩和医療、日本におけるがん疼痛治療の現状と展望、先端医学社、1999
4) 季羽倭文子・石垣靖子・渡辺孝子(監修):II看護マネジメント、がん看護、三輪書店、2001
5) 岡田(菊池)美賀子:チーム医療における看護職の役割、癌患者と対症療法、メディカルデビュー社、p41-44、1999
6) 松島たつ子:緩和ケア、臨床看護11、へるす出版、p1925-1929、1999