緩和ケアナース養成研修を終えて
オリブ山病院 与儀 春江
はじめに
私の働くオリブ山病院のホスピスケアは、1983年に開始された。
理事長の田頭政佐はがんの末期の患者が一般病棟の中で取り残され、悩み苦しみながら死んで行く現状に心を痛め、その解決の糸口を求め1978年に数人の職員と共にアメリカのホスピスケアを視察した。その後、チームでの学習会を重ねつつ1983年にはホスピスケアを始めている。3年後の1986年には、がん末期で苦しんでいる患者の痛み「全人的苦痛」には、「全人的ケア」をと、「全人的医療」を目的にカウンセリング病棟が開設され、本格的なホスピスケアが開始された。
私はホスピスケア病棟に勤務して7年目を迎える。ホスピスケアや緩和ケアは特殊性があり理論と根拠に基づいた医療やケアが必要であると考え、以前より緩和ケアナース養成研修を希望していた。これまでも研修会や講演会へ参加し、患者や家族からも多くのことを学ぶことができたが、「これで良かったのか」、「なぜこのようになるのか」、「どうしてこの治療なのか」と、理論的な裏付けができていないためいつも自信がなかった。今回希望していた研修を受講することができ専門の先生方から理論と現状を学ぶことができた。6週間の研修を終えたので毎日の学習カードからまとめてみた。
病状マネジメント(ペインマネジメント)
WHOの三段階除痛ラダー、WHO方式がん疼痛治療の原則、薬剤(モルヒネ、鎮痛補助薬)の実際の使用方法、作用、副作用について学ぶことができた。
私の働いているホスピスケア病棟で使用しているマニュアルは、淀川キリスト教病院ホスピス編―緩和ケアマニュアルと、世界保健機関編―(武田文和訳)がんの痛みからの解放とターミナルケア編集委員会編―わかるできる、がんの病状マネジメント等である。この研修で学ぶことにより、私達のホスピスケア病棟での痛みのコントロールや緩和医療、緩和ケアヘの考え方や、これまで実施してきたことを振り返り、ずれていないことを確認した。
患者が第一に訴えることは身体的な痛みが多く、病状のコントロールを徹底しなければならない。そして、その痛みがうまくコントロールされた時に、初めて患者は自分の過去、現在、将来を見つめることができ、そこから精神的ケア、社会的ケア、更に霊的ケア、死の問題の解決まで導いていくことができると思う。イギリスのセントクリストファーホスピスのシシリー・ソンダース先生は「もし私ががんの末期で、痛みが非常に強い状態に陥って入院したときに、私がまず第一に望むのは経験豊かな精神科医が私のベットサイドに来て、私のつらさや、やるせなさに耳を傾けてくれることではありません。また敬虔な牧師の先生が来られて、心の平安が与えられるようにと、一生懸命私のベットサイドで祈ってくれることでもありません。そうではなくて、私がまず第一に望むのは私の痛みの原因が何かを正しく診断してくれて、その痛みを取るためには、どの薬をどれほどの量、どんな間隔で飲めばよいかを的確に判断し処方を書いてくれる医師が来てくれることです。」と言っている。
今回、大谷木先生から病状マネジメント(ペインマネジメント)について多くのことを学んだ。私達はいつも「患者の痛みや苦しみに対して何か見落しははないか、何か軽減するものはないかを繰り返し問い続けることがよりよい除痛に結びつく唯一の方法である。」ということを、いつも心にとめ患者を痛みから解放すること安全な緩和医療と質のよいケアの提供のために今後も学び続けていく必要があると思った。
緩和ケア
受講生20人の研修の目的、動機、課題を阿部先生と21人で共有し、考えていくなかで学ぶことができた。私達が現場や現状のなかで、患者のケアに対して「何をしていいかわからない」、「どうしていいかわからない」、「できない」と思う場面は多くあるが、私達が「何かをしてあげる」のではなく、「今、患者に必要なことは何か」、「患者は何を希望しているか」ということをいつも考えて、アクションを起こしていくことが大切だということを学んだ。4人でグループを作り阿部先生が紹介する事例を、自分のこととして真剣に考えた時、患者の必要や希望は身近にあることを知り、学ぶことができた。
ビデオで見た、イギリスのセントクリストファーホスピスの患者やスタッフの表情は穏やかで、明るく、普段の生活を楽しみコミュニケーションを大切にしているように思った。
イギリスではヒギソン教授によってWHOの緩和ケアの定義が広げられた。「不治の病ということはすぐに死にゆくということではなく、がんと診断された以外にも、例えばALSなどの運動神経病、AIDS、慢性疾患、慢性呼吸器疾患なども含まれる。」とされるようになった。注目すべきことは「緩和ケアの対象を末期患者に限るのではなく、病名を診断された時点から始まって、その病をもちながら生きていくプロセスをずっと支え続ける治療としてとらえた。」ということを知り学ぶことができた。
コミュニケーション諭
今回初めてロールプレイでコミュニケーションスキルの実際を学んだ。医療が救命に重点が置かれていた時代から慢性医療の継続管理に移ってきた現代の医療ではこれまでの問診では患者の必要を満たすことができなくなってきたこと、「医療面接」でなくてはならないことを学んだ。ロールプレイで実際に患者と医療者を体験して、コミュニケーションのむずかしさと、講義の中からコミュニケーションはトレーニングが必要であるということ、日常生活の会話の延長や面接者の人格で、自然に行えるものではないということを学んだ。私達は普段からコミュニケーションの基本である傾聴、共感、共鳴といろいろな質問法を使いコミュニケーションをしていたことを知り学ぶことができた。
今回、効果的なコミュニケーションの理論と実際を学び体験することができてよかったと思う。これからは意識してコミュニケーションスキルをみがき、患者、家族とのコミュニケーションに生かし、質のよいケアの提供のために努力していきたいと思った。
「コミュニケーションは技術であり、習得するためにはトレーニングが必要であること、コミュニケーションは心が大切であり、療養者のもつ心をしっかりと患者に伝えるための技術であること、いつも患者の心に寄りそうパートナーであることを目指す」ということを前野先生、中田先生から学ぶことができた。
感想
終末期の患者は多くの痛みを持っている。人生の最後の総決算の時に、痛みの中で過ごしてしまうのはつらいことである。患者の大切な人生の時間を有意義に過ごしてもらうために大事なことは、看護婦は必要な知識、技術、態度、感性を駆使して、症状マネジメントを適切に行い、全人的痛みを持つ患者に対して心からの関わりをしていく必要がある事を学び、再確認することができた。そのためには学び続け、理論や根拠に基づいたケアを提供していくことが大切だと思った。「自分にするように、他の人にもそのようにする」心が大切だと思った。
おわりに
6週間の研修を通して、専門の先生方から緩和医療、ケアに対しての理論と根拠を学ぶことができた。又、これまで行ってきたケアの振り返りをすることができ、新しい発見と課題をみつけることができた。以前から希望していたこの研修を受講することができよかったと思う。今後も学び続け患者、家族に質のよいケアを提供していきたいと思う。
謝辞
研修期間中、私達をあたたかく見守り、配慮下さった金子先生、研修センターの職員の皆様に心から感謝致します。