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緩和ケア提供にあたり基礎の重要性を学ぶ
 社会福祉法人聖嬰会イエズスの聖心病院 黒川 まゆみ
 
はじめに
 
 患者と家族を一つの単位として緩和ケアは、提供される。全人的にケアを提供するにあたっては、自然科学的アプローチと人間科学的アプローチがある。二つが統合された形での支援が望ましいと考える。しかし、どちらかに片寄りやすい傾向にあるためチームアプローチが必要となるのである。
 看護婦としてのキャリアと緩和ケアを提供してからの6年間で、日々基礎の重要性を感じた。また、それらに気づかせて頂いたのは緩和ケアを提供するようになってからのように思う。
 今回、研修に参加したのも、基礎を再確認するためであり研修での学びを報告する。
 
緩和ケアの基本理念
 
 世界保健機構では、“がんの痛みからの解放とパリアティブ・ケア”には緩和ケアとは、「治療を目指した治療が有効でなくなった患者に対する積極的な全人的ケアである。痛みやその他の症状コントロール、精神的、社会的、そして霊的問題の解決が最も重要な課題となる。緩和ケアの目標は、患者とその家族にとって出来る限り可能な最高のQOLを実現することである。末期だけでなく、もっと早い病期の患者に対しても治療と同時に適用すべき点がある。」といわれている。
 概念としては、
1 生きることを尊重し、誰にでも訪れることとして、死に行く過程にも敬意を払う。
2 死を早めることも死を遅らせることにも手を貸さない。
3 痛みのコントロールと同時に、痛み以外の苦しい諸症状のコントロールを行う。
4 心理面のケアや霊的な面のケアも行う。
5 死が訪れるまで、患者が積極的に生きて行けるように支援する体制をとる。
6 患者が病気に苦しんでいる間も、患者と死別した後も、家族の苦難への対処を支援する体制をとる。
 現場では、理解されて日々の支援が行われているが、積極的に生きれるようにということに難しさを感じている。人に委ねて生きることの辛さなどを持つ人もいて難しい。
 
知識・技術の学び
 
1 症状マネジメント
 自然科学的アプローチから看護的観察による症状マネジメントが必要である。がん患者の痛みの90%は、適切に麻薬を使用すれば消失するといわれている。しかしがん患者は、痛み以外の症状も多く抱えている。看護婦として、患者の訴えをそのまま信じること、薬剤の使い方について知識を持つこと、そしてチームとして連携していくことが大切である。
 完全に痛みを取り除くことは困難であるため、患者は日常生活を調整しながら、症状と付き合える術を獲得していくことも必要である。
 看護婦は、患者の状況を医師に情報として提供し、適切に処方できるようにし、ときには処方の提案をしていけるだけの知識と技術が必要である。
 看護婦独自で行えるのは、苦痛の増大の予防など間接的な取り組みであるが、医師からの処方を患者のための指示にするための取り付けも看護婦自信のコミュニケーション技術が必要である。
 
2 コミュニケーション
 コミュニケーションは、患者とのためだけでなく家族との面談や日常会話、そしてチーム間においても重要である。
 良好なコミュニケーションを構築するために、トレーニングしなければ自然に身につく物ではない。
 基本として、環境整備すること、傾聴、受容、共感することがある。まずは、プライバシーの保てる空間を確保して、泣いたり叫んだり気持ちを表出できるようにしなければならない。理想的には90°の角度で患者と接するのがよい。腰掛けて目線が合うようにする方がよい。落ち着いて話が聞ける姿勢を示すことで相手も話がしやすくなる。
 また、話を聞く面接者のコンディションも大切である。精神的、時間的な余裕を持って臨むようにしなければ大事な患者や家族の思いをキャッチできなかったりする。
 傾聴、受容、共感は、患者が自由に話ができることから始まる。最初はできるだけ口をはさまないようにすることが大事である。すぐ質問したりしないよう注意しなければならない。積極的な傾聴に努め、会話だけでなく、関心を持って聞いていることを態度で示し、患者が話しやすい雰囲気をつくることが大切である。情報収集や指導、説得にならないように注意しなければならない。沈黙も大事なことであり患者が話すことを待ち話をさせるようにする。最初の3分と沈黙の30秒は、コミュニケーションの訓練において必須である。患者が話はじめの3分とその後に起こる沈黙で30秒間待つことは、その後に意識して焦点をあてていくうえにおいて糸口になる。患者が話してよかった、受けとめてもらえたという思いになれるようにコミュニケーションスキルを磨かなければならない。
 知識として末期患者の心理プロセスを知らなければならない。キューブラー・ロスの否認、怒り、取り引き、抑鬱、受容の5段階があるが、患者は臨床経過と日常生活動作の変化から心理的、感情的に浮き沈みが激しく、5段階が様々に入り乱れて現れることが多い。患者だけでなく家族も同じように揺れ動いていることが多いため家族のケアも忘れてはならない。
 
3 ナーシングバイオメカニクス
 看護は日常生活の援助である。援助を行うなかで、安全で安楽でなければならない。援助する者とされる者双方のことを考えておこなう。また、末期の患者であれば、自立していたことが介助を必要としていくため心理的な問題も考えながら援助しなければならない。援助の目的をはっきりと言葉で伝えて、お互い集中して行われなければならない。根拠をもったスキルを提供し末期の患者は、ひとつのがんだけでなく転移していることが多いため苦痛が最小限になるようにおこなうことが大事である。
 
家族看護の学び
 
 患者と家族を一つの単位として援助していくのは、患者と家族は切ってもきれない絆で結ばれているからである。家族がよい状態は、患者の苦しみがないことである。患者へのケアは、家族のケアになり双方の援助となる。
 家族機能が弱っているなかで医療システムの変化とともにニーズの変化もみられるため看護婦も状況に応じて援助しなければならない。効率のよい効果的な看護を提供していくことが必要である。
 家族看護の目的は、家族のセルフケア機能の向上である。家族という集団の健康問題に関する機能の健全さに注目しなければならない。
 実際には、家族全体を理解することから始める。情報収集から問題を明確化し家族援助がどれだけできるか、援助姿勢を伝えて行く。看護を行いながらその反応によってさらに情報を得るようにする。早期に達成すべき課題をみきわめ意向を尊重しながら実現可能な目標を設定し達成できるよう援助していく。
 援助姿勢としては、家族とのパートナーシップを確立し、中立であることが重要である。誰がどのように影響したのか、関係性の問題を考えなければならない。家族観・価値観から自由であり自分のものさしではからないことが大切である。また、援助のタイミングを逸しないことに注意しなければならない。完璧な人はいない、柔軟性をもって援助していくこと、相手のニーズをキャッチすることが家族看護を可能にすると考える。
 
チームアプローチの学び
 
1 社会資源の活用
 社会資源としては、利用できるありとあらゆる物をすべて社会資源として活用する。知識や技術、施設、役所、法律などすべてである。情報から必要な選択をするのである。
 医療費の援助としては、医療保障制度があり、医療保険や公費負担医療費助成がある。
 所得による一部負担減額制度もある。高額療養費にかかわる制度、各病院の院内減免、減額制度、その他としては人工肛門や人工膀胱用装具購入費助成がある。
 経済的問題への援助としては、手当、障害年金、生活保護、生活福祉貸し付け資金がある。
 在宅の援助としては、訪問看護、訪問介護、福祉用具の購入、貸与、訪問入浴、居宅療養管理指導がある。民間サービスの活用もある。
 遺言・財産分与等の法律相談もある。その他に献体、死亡時の埋葬補助がある。療養の場を考えた社会資源の活用ができるように看護婦も最小限の知識は必要であると考える。具体的な援助は、ソーシャルワーカーの協力を得、チームとして連携していくことで社会的なケアとして提供できると考える。
 
2 効果的に機能するためのチームの特徴
 チームの力は、チームを構成する個々人のちからの総和により有機的なものであり大きな力を発揮することができる。
 チームは大きな成果を得るために、個々人が刺激的な構成員となる。
 チームに属することの喜びや仲間意識をもつことで、チームは楽しいものになる。チームは個々人の強さや弱さについても共有しながらお互いが支え合うことができる。チームは対象によって、同一のチームではないが調和はとれていることが必要である。
 構成員の交代はプロフェショナルな成長にはかかせないものである。さらに過去の反省は、未来への一歩であることを忘れてはならない。
 
終わりに
 
 今回の研修で私自身が実践してきた6年間での緩和ケアを裏付け、更に基礎を再認識した。
 患者や家族を一つの単位としてかかわる中で、同じ症例はひとつもない。ひとつひとつの症例から様々な対応方法を学ばせていただいている。
 基礎があって、安全で確実な緩和ケアでなければならない。看護は更に患者の体力を最小限としたものでなければならないと考える。
 自分の力では日常生活が営めなくなり、委ねなければならない状況にある患者の気持ちを十分に理解し、それらを支えている家族に対してもケアをおこなわなければならない。ケアの質を維持向上させて行く中で、各個人の努力とチームとしての協力、連携にてどこでも緩和ケアが提供できるように、緩和ケアに携わるものとして意識していきたいと考える。
 今回の研修にあたりご協力いただいた先生方に感謝するとともに、当職場のチームメンバーにも感謝したい。
 
参考文献
1) 最新緩和医療学 淀川キリスト教病院ホスピス長 恒藤 暁
2) 家族看護学 鈴木 和子・渡辺 裕子
3) Symtom Management パトリシアJ.ラーソン/内布 敦子 研修資料








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