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穏やかな日々を過ごすケアをめざして
 南部郷厚生病院緩和ケア施設 新井田 リャウ
 
はじめに
 
 人は生まれたら必ずいつか死を迎える。多くの人は、老いて死を迎えるのか、病で死を迎えるかである。高齢化社会となり、多くの人々ががんで死を迎えるだろうといわれている。そして、自分の死がどうあるべきか求められている。日本では、緩和ケア病棟・ホスピスで最期を迎える患者は1年間にがんで亡くなる27万人の中の2%程度といわれている。
 最期をどう過ごしたらその人にとってよいのか、緩和ケア施設を開設にあたり、一般病棟での最期の看取りの経験だけだったので穏やかな日々を過ごすには、どうあるべきかを講義と実習を通して学んだことを報告する。
 
緩和ケアの概念は
 
1 生きることを尊重し、誰にも例外なくおとずれることとして、死にいく過程にも敬意を払う。
2 死を早めることにも死を遅らせることにも手を貸さない。
3 痛みのコントロールと同時に、痛み以外の苦しい諸症状のコントロールを行う。
4 心理面のケアや霊的(スピリチュアル)な面のケアも行う。
5 死が訪れるまで、患者が積極的に生きていけるように支援する体制をとる。
6 患者が病気に苦しんでいる間も、患者と死別した後も、家族の苦難への対処を支援する体制をとる。
 
研修を通しての学び
 
1 その患者に合わせた症状マネジメント
 がんが進行すると全身性の疾患となり、出現する症状に苦しむ。その出現する症状はその人が感じる痛みであり苦しみであることをわかることが重要であると講義で学んだ。
 実習中体験した67歳の男性は、肺がんから肝転移・肋骨転移があり、呼吸器病棟から転入してきた。患者は、右肋骨部の腫脹したところの痛みもあるが、会話をするのもつらい状態であった。受け持ち看護婦は、患者と会話をしながら、また、痛むというところに手を置き患者に確認をしていった。そして、昼食の食事を援助した結果ではこの患者は転入前の病棟では、右肋骨部の疼痛緩和のために服用していた内服薬の経口使用では苦痛の緩和は難しいことがわかった。最も苦しいと思う症状を明確にしていき、今、改善しなければならない主症状が何であるか判断した受け持ち看護婦は、主治医と検討した結果、取り除くべき苦痛は、骨転移した部分ではなく胸水の貯留・腹水の貯留・肺自体の呼吸面積の減少による呼吸困難であると判断した。そこで、鎮痛剤は、MSコンチンの内服からモルヒネの持続皮下注射に変更された。
 緩和ケアの概念にある痛み以外の苦しい諸症状をコントロールする。という項に該当する看護婦の症状を感じとるセンスと、その人に合わせたケアであることが理解できた。そして、症状を明確にしていく過程での無駄のない技術と患者とその家族を思いやる気持ちも伝わってきた。
 チームメンバーの一員としての看護職がペインマネジメントに関わる際に患者から得た苦痛に関する情報をそのまま伝達するのではなく、アセスメントをすることでその人の苦しみを開放することになる。そして、看護の専門職としての意見を交換する過程が理解できた。
 症状マネジメントのゴールは、QOLがあがることであると講師のいう意味がわかった。
 
2 コミニュケーション
 体と心を癒すために重要なコミニュケーションスキルとして講義・ロールプレイを通して学び、その他の講義の中でも頻回に使われていたのでその重要性については理解できたつもりで実習に参加した。
 実習の場面では看護婦の援助の姿勢からその重要性が理解できた。例えば、患者と1日を構成していく場面での待つ姿勢、患者の希望を復唱しながら患者の意思を確認して主役である患者を支持する姿、また、痛みに耐えている時に静かにベットの横で背中に手を添えられている時である。
 看護職のコミニュケーションスキルが緩和ケアの実践の場面でいかに大切であるか体験できた。これからの緩和ケア施設の援助の場面で、スタッフが個性を発揮できるように職場環境をつくりたい。
 緩和ケアに関わる私たちは、自分のクセを把握しておくとよいと言う講師の助言が理解できた。
 医療面接の役割について講義の中で以下の3点が指摘されていた。
・第一の役割としては、患者理解のための情報収集
・第二の役割としては、信頼関係の形成
・第三の役割としては、患者教育と治療への動機付け
 
3 家族への支援
 患者が苦しむ時にその家族に対して関わることは、大切でありその家族の苦しみを理解すると共に、その家族の支援は患者が死亡後も必要であるという。そこで、入院中の患者の家族について考えてみたい。
 受け持ち看護婦は、患者と同じように家族を支えている姿勢が実習を通して理解できた。それは、患者の家族が来院した時に見せた穏やかな表情を察知した受け持ち看護婦は、家族と面談をして現在の患者の情報を提供したうえで主治医との面談を提案して調整後、速やかに計画を立てて家族に伝えると共に、家族と一緒に過ごす時間に必要性を示唆していた。
 医師の面談については、今までの体験とは違って時間をかけ家族の気持ちを引き出しながら進めていく場面から、家族を支えている姿勢が理解できた。
 家族看護学の講義での家族のセルフケア援助で意思決定をしようとする家族への支援が緩和ケアでは重要であることがわかった。家族構成についても、戸籍上の家族の情報だけでは患者の気持ちに沿ったケアは難しいという。それぞれの家族のつながりは、患者が人生の中でどう位置づけて家族を認識しているかで看護婦の援助方法は違う。そして、意図的に家族に関わらないと、家族はサポートされているという気分がないという。今までの看護実践の場面でその努力が足りなかったと反省する。
 
4 チームアプローチ
 緩和医療においては、QOLの向上と充実した日々を過ごしてもらうことが重要である、医療従事者が患者とその家族を支えるために、同じ立場で取り組むことが基本にあって成立すると思う。
 それぞれの分野で主体的に個々の能力を活かすことでチームとしての能力が高まり、患者とその家族を支援できることが、一般病棟での関わりよりも効果的に機能している場面を、実習で体験することができた。
 実習の場面でも医師・看護婦・その他多くの職種が参加しての合同カンファレンスが持たれ、ハード面の環境を整えることを例にしても看護助手をはじめ他部門の協力がされていた。また、ボランテイアの協力による患者とその家族へのひとときの安らぎを提供する体制や、環境づくりへの支援も理解できた。
 これからの緩和ケア施設においては他部門との協力体制をつくりたい。また、ボランティアの導入については早い段階で具体化する必要がある。
 
おわりに
 
 研修を終了して、多くの学びがあった。それは、今までの看護の評価ができたことで次の緩和ケア施設における自分自身の課題が明確になった事だと思う。
 研修所で受けたコミニュケーションスキルの講義での講師の言葉で印象に残っているものがある。それは“面接技術は車の運転と同じに意識せずに自然にできるように”である。実際、数週間学んだ理論を実習の場で体験し、看護職の役割を個々の看護職が自然に行うことが理想であると感じた。
 緩和ケア施設では、患者が残された生を穏やかな日々にするための努力をそれぞれの職種がやっていかなければならない。脇役としての看護職が自分の役を自然に演じ、表現することで主役である患者の最期のステージを支えていけるよう努めたい。また、そのようなスタッフ教育、施設をめざしたい。
 
参考文献
1) 岡田 美賀子・梅田 恵・桐山 靖代 別冊〔ナーシング・トゥデイ〕 最新 がん患者のペインマネジメント
2) 清水 哲郎 医療現場に臨む哲学
3) 武田 文和 がんの痛みが消えるとき 社会保険出版社
4) 鈴木 秀子 愛と癒しのコミニュオン 文芸春秋
5) 山崎 章郎 ホスピス・ハンドブック 講談社








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