この学びを今後のケア向上に
財団法人ライフ・エクステンション研究所永寿総合病院 泉 美恵子
I.はじめに
私の勤務するライフエクステンション付属永寿総合病院緩和ケア病棟は、平成12年9月に開設し平成13年1月に承認を受けた院内併設型施設です。緩和ケア病棟に勤務して約10ヵ月を迎えましたが自分自身、緩和ケアに対する知識・認識が不十分な状態で日々試行錯誤を重ね勤務している状態でした。これからも緩和ケアに携わっていくために、緩和医療の基礎を学び症状コントロールについての知識を深めるとともに、看護婦の役割を理解し実践できる能力を身につけたいと考えました。今回、緩和ケアナース養成研修に参加する機会が得られそこでの講義・施設実習を通して多くの学びがあったのでここに報告します。
研修目標
1) 症状コントロールの内容・意義について理解できる。
2) チームアプローチについて理解を深めることができる。
3) 家族・遺族ケアの必要性・方法について理解できる。
II. 講義
1) 緩和医療について
「緩和ケア」とは、治癒を目的とした治療に反応しなくなった疾患をもつ患者に対して行われる積極的で全人的な医療ケアをいう。また、WHOの定める緩和医療の理念は次の6点である。
(1) 生きることを尊重し、誰にも例外なく訪れることとして死にゆく過程にも敬意をはらう。
(2) 死を早めることにも死を遅らせることにも手を貸さない。
(3) 痛みのコントロールと同時に痛み以外の苦しい諸症状のコントロールを行う。
(4) 心理的なケアや霊的な面のケアも行う。
(5) 死が訪れるまで患者が積極的に生きていけるように支援する体制をとる。
(6) 患者が病気で苦しんでいる間も、患者と死別した後も家族の苦難への対処を支援する体制をとる。
そのため私達看護婦は、がん看護に関する知識をもつこと、症状マネジメントについての知識・コミュニケーション技術をもつことそして相手を受け入れられる柔軟性をもつことが必要であること、さらに患者だけではなく家族に対しての援助も大切なことだと学びました。
緩和医療、ケアの基礎を学ぶことにより、自分の施設における緩和ケア病棟のあり方・位置を明確にし、きちんとした理念をもつことが必要であると実感しました。
2) 症状コントロールについて
まず、症状コントロールを行ううえで最も重要なことは「主観的」なものであるということです。症状は本人にしか体験できないものであり症状を的確にとらえるためには、患者がつらい、不快だと感じる症状をうまく表現できるように関わることがとても大切だと感じました。また、患者が自分自身で表現できることは一つのセルフケアであるということを学びました。医療者が一方的に症状コントロールをしているという考え方から、患者自身も症状コントロールに参加している(症状マネジメント)という気持ちがもてるように共に話し合っていくことが大切だと思いました。
終末期において症状コントロールは患者のQOLに大きな影響を及ぼすものであり患者・家族・医療者がともに問題解決に向かうという姿勢は身体・心理面においても患者にとって大きな支えになるのではないかと感じ、今後の臨床につなげていきたいと思いました。さらに、疼痛コントロールの講義では痛みに対する基本的な考え方から薬物療法の使用方法・具体的な選択方法の考え方について学ぶことができました。看護婦の役割として痛みに関連したアセスメント・薬物療法・非薬物療法におけるアセスメントと介入・患者・家族への疼痛緩和に関する情報提供であることを学びました。また、目標をあきらかにし継続的にアセスメントしていくこと、薬の効果と副作用のアセスメントをし、副作用対策を実施していくことが大切です。ケアとしては体位の工夫や温・冷罨法・マッサージ、リラクゼーション等があり患者のぺ一ス、状態に合わせて介入できるようにしていくことが必要だと感じました。
3) チームアプローチについて
緩和ケアでは患者の残された人生の質(QOL)を高めるためにはまず、基本的ニードを満たしていくことが大切であり多種多様な個人差も多いすべてのニードに対応していくためには、他職種の人達とチームを組みチームメンバーとなる医療者がそれぞれの役割を果たしていくことが重要であると感じました。また、症状マネジメントや心理・社会的なケアを考えていくうえでもチームワークが影響すること同じ目的をもってケアしていくことの大切さを感じました。そしてそのチームは私達自らが作っていくものであり、その一つの方法としてカンファレンスでのディスカッションや情報交換があると思いました。またスタッフ間のコミュニケーションがうまくできていなかったり、避けていると問題解決にはつながらないということも学びました。自己の振り返りとしては、思いや考えをうまく伝えられなかったり、誰かがやってくれるだろうと思っていたことが多かったように思い反省しています。
以上のことからもチームアプローチを行っていくうえで、スタッフ一人一人がお互いに成長しあえるように助けあい、認めあい、感謝の気持ちをもつことが大切であると思いました。患者に良いケアを提供していくうえでも、自分の専門性を見つめチームとして最大の力が発揮できるように調和を図っていくことが今後の課題であると感じました。また、看護婦がコーディネータとしての役割を果たすことは重要であり、看護婦はできる限り患者・家族から見て常に声をかけやすい存在であるように心がけ、患者の立場に立って代弁者になること、他スタッフとのつながりを補強する役割としてチームメンバーの調整役を担うことは大切であると思いました。
4) 家族・遺族ケアについて
終末期において家族ケアとはとても重要な部分を占めるものだと思います。いろいろな家族像や家族関係に対して、つい自分自身の思いや価値観を抱いてしまいがちでありますが対象者(患者・家族)の歴史や背景、人間関係を知り今の状態をきちんと把握し、関わりをもっていくことが大切だと思いました。家族援助を考える前提として「看護婦は家族の代わりになれない。家族の役割を侵さない。とらない。」患者と家族を一単位としてとらえ援助する。また、問題解決の当事者は本人と家族である。生き様が死に様であるということが理解できました。今までの自分を振り返ってみると家族と患者を別々にとらえたり、家族を看護婦の援助の対象者とあまり考えていなかったように思います。これからは家族も患者と同じように心理的な変化があり、援助を必要としている対象者だということを忘れないよう援助できるようにしていきたいと思います。
また、近年核家族となってきており血縁関係でない人の関わりが多くなってきているように思います。患者にとって一番大切な人ととらえれば、私達は血縁関係にとらわれることなく広い視野で対応していくことが大事であると考えます。そして、家族がケアに参加しているという満足感や役割が得られるよう、ケアしている意味をフィードバックして伝えることは大切であり、これが支え、ケアの意味づけになると思いました。また、労いの言葉がけをすることで家族の気持ちが引きだせるきっかけになるかもしれない。家族が後悔することのないように、それぞれの家族にあったケアを提供していけるようにしたいと思います。
遺族ケアについては、どんな遺族でも「もう少し世話をしてあげれば良かった。」など罪の意識をもつことが多い。そのような時に、看護婦として家族と一緒に思い出やできるだけのことはやったということにより残された家族にとって深い心の癒しになるということが理解できました。そのためにも、まず家族援助についての十分な学びと実践する必要があると感じました。その家族援助という点で家族の発達段階の認識が重要であり、それをふまえて家族背景や家族の考えを理解・アセスメントすることで家族の適応をある程度予測することができ、悲嘆に対する早期の予防的介入ができるのではないかと思いました。悲嘆に対する前段階の介入については、
[1]残された時間が“限られた日々”であるという認識のもとに、密度の高い家族関係を基盤に目的を設定して暮らせるように援助する。
[2]“看病という行為”を実践し、いたわり合う家族機能を高められるように援助する。
この2点については患者を含めた状態の家族という形を完結するという視点での援助。
[1]喪失予期悲嘆の表現・共感ができるように関わる。
[2]死別のプロセスについての具体的状況に関する情報を提供し、準備することを援助する。
という2点については死別・喪失に直面することへの援助と季羽倭文子先生は述べています。これらの具体的な援助によって、死別後の悲嘆に大きな変化がみられるのではないかと感じました。死別後のグリーフケアについては、悲嘆のプロセスやがん患者の家族がたどる心理的変化と援助モデルをきちんと理解しておくことで、そのときの遺族の思いにあった援助が提供できるのではないかと考えました。
III. おわりに
この研修で、講義と実習からたくさんのことを学びました。ケアの質が問われることが当たり前になってきている現在、いかに中身(ケア)の充実が図られるかだと考えました。また、3つの目標をもち自分なりに学んできましたがすべて達成できたかというと、まだまだ不十分な点もあります。もちろん研修で得たことを実際に現場で活用しながら継続した学習に努めていきたいと考えます。
また、ここに来て出会ったいろいろな施設の方々とのネットワークを大切にし、いい意味でライバルとしてお互いに成長していけたらと思います。
最後に研修に送り出してくれたスタッフ、有意義な研修へと導いてくださった金子祐子先生、講師の先生方、実習病院のスタッフの方々に深く感謝いたします。
参考・引用文献
1) アリソン・チャールズ・エドワーズ著、季羽倭文子監訳「終末期ケアハンドブック」医学書院、1993
2) 世界保健機関編集、武田文和訳「がんの痛みからの解放」第2版、金原出版、東京、1996
3) 柏木哲夫監修、「ターミナルケアマニュアル 第3版」最新医学社、1997