日本財団 図書館


患者にとっての在宅医療とは
 戸田中央総合病院 柏 祐子
 
はじめに
 
 自分の病院には、緩和科があるが病棟としては無く、多種の病棟に患者さんが入院しているという形式になっている。7月には併設型ではあるが、17床の緩和ケア病棟ができる予定になっている。
 私自身は昨年8月に在宅医療部に移動になり、現在は訪問看護婦として働いている。現在、在宅で医療・介護等のケアを受ける患者が増加している。また、平成12年4月からの介護保険制度の導入により、在宅でのケアはますます注目されるようになっている。
 医療的処置が無い患者宅では、話しを聞いて帰ってくる時もしばしばで、“これで良いのだろうか。”と戸惑う時もあり、他施設での訪問の行われ方を知り、自分の看護を振り返り今後の仕事の参考になる様学び実践していきたいと思う。
 以前、疼痛マネジメントに関する研修を受講したが、その後の看護に生かされてきたかを再確認し、又新たな知識を習得出来る事を目標に参加を希望した。講義では、専門分野の勉強もでき、実習では実際に行われているホスピスの内部を知る事もでき、訪問にも同行させて頂いた。
 今回の研修と病院実習を終え、ここでの学びを自分なりに振り返り報告したいと思う。
 
学習目標
 
1. 緩和ケアの基本的理念を理解する。
2. 緩和ケアに必要な知識・技術を習得する。
3. 家族や患者の心理を理解し、心のケアに対する知識・技術を習得する。
4. チーム医療の理念を理解し、チームアプローチが実践できる能力を養う。
5. 学習を統合し、緩和ケアに対する知識・技術を深めることができる。
 
講義から学んだこと
 
 多彩な分野の勉強をさせて頂いた。十数年看護婦として働いてきているが、あまり考えることなく時間を費やしてきていた様に思う。
 倫理などは特に、自分が苦手としていた分野でありその知識は、恥ずかしい程度しかなかった。生命倫理、臨床倫理、緩和ケアの倫理、看護倫理。と倫理一つをとってみても奥が深い。インフォームドコンセントにしても、“医師からの説明と患者からの同意”程度の知識しか持ち合わせていず、“患者側からの同意と、情報を得る”ということを今回知った。過去、何度も医師からの説明の場に立ち会って来たが、医療者側の一方的な説明で終わり、患者側は黙って聞いている。という形式のものが多かった。それをインフォームドコンセントと意識されてなかったのかもしれないが、現在の情報が氾濫している時代には、通用しないものなのだろうと感じた。
 
《サイコオンコロジー》
 精神科医の関わりが必要となってきている。
 がん患者の2人に1人は精神症状(うつ)が現れる。この頻度に対し、自分はどれだけの患者さんのうつ症状に気がつく事ができたのだろう。患者さんの変化に気がつくには、それだけ患者さんとの時間の共有が必要となると思われるが、病棟勤務の時代には仕事に流され、忙しいからとゆっくり話しをする時間を持てなかった様に思う。そんな看護に患者さんはどんな思いをされてたのかと思うと反省させられる機会を与えてくれた講義だった。
 9個のうつ病の診断となる症状にも、過去当てはまる患者さんがいたが適切な対応は出来ていなかったと思う。これからはこの診断項目に気をつけ早くに症状を見つけられる様、患者さんと接していこうと思う。そして、精神科医の医師がいる事の重要性がでてくるのだろう。
 又、カウンセリングの技術も要求されてくる事に新たなる勉強が必要となっているのだろう。
 
《家族看護論》
 患者と家族は一単位のものとして考えるべきのもの。患者をケアするという事は家族をも援助する事。家族を援助するという事は、患者をも援助するという事。
 当たり前の事であるのに、家族へのケアというのは忘れがちになる所があると思う。病棟では家族への配慮が行き渡らない事もあり、不信や不満が表れる事もありがちである。自分が訪問に移って感じた事の一つに、家族との関わりの深さを実感した。患者さんの自宅に訪問するという事は、病院での関わりとは全く異なり、患者さん、家族から率直な思いが告げられ対応を求められる。在宅になれば家族の思いも複雑になり、心配事なども増えるのが実情だ。訪問すると安心された表情をされたり、話しを聞いて欲しい表情をされたり、病院では見せない表情をされる。そんな時に家族看護が生かされるべきなのだろうと感じる。
 
病院実習を通して学んだこと
 
 今回福島県郡山市の坪井病院に実習に行かせて頂いた。看護婦の希望からできたホスピス病棟という事もあり、看護婦が生き生きと仕事をされていたのが、印象的だった。看護婦達が患者さん、家族の方への配慮をごく自然になされており、家族看護のあり方を実体験する事が出来た。
 下血の患者さんやイレウスのある患者さんでも、食べたいという気持ちがあれば極力希望を叶えられる様に、食べられる機会を残している事に驚いた。自分は以前消化器内科の病棟に勤務しており、その様な患者さんには即、禁飲食が当たり前だった。しかし、食べたいという気持ちは人間の欲求だ。この考え方も取り入れる事は不可能だと思うが、その様な融通が利く環境も患者さんには必要なのだろうと思う。
 他施設での実習経験のない自分にとって、ホスピスという場も初めての所で、上記の様な対応等にも最初は戸惑いを隠せなかった。しかし、告知をされている患者さん方の笑顔にその戸惑いも薄れていくのを感じた。告知はされていても前向きな姿に人間の強さを見た様に思う。私達、医療者が思うほど、患者さんは弱くはないと、改めて教えられた場だった。
 訪問が始まるにあたり、面識のない患者さんは2泊3日の体験入院をされ、スタッフとの顔合わせが行われる。いざ、訪問が始まり具合が悪くなり、入院される場合でもスタッフと顔見知りである事は、幾分不安の減少にもなるだろう。またベッドに余裕があれば在宅の患者さんの入院用にあてる事もされている。退院し在宅に移行される時の患者、家族の声の中に、いざという時の入院の時の心配がある。知らない病棟では不安もあるし、その面では退院の時に一言、入院の時にはベッドの空きがある事を伝えられたら安心して退院できる事と思う。
 実際に、訪問にも同行させて頂き、4件のお宅に伺った。医療的処置は特に無い方々のお宅ではあったが、訪問時間は約1時間を費やしていた。バイタルを測定し、話しを聞く。病状であったり、昔の話しであったり。家族の方への配慮も忘れない。研修に参加する時までの自分の不安もこの期間の訪問に同行させて頂いて、解消する事ができた。話しを聴くのも看護の仕事なのだと。処置だけが仕事なのではないと実感する事ができた。これは私にとって、胸のつかえが取れる程の事であり、今後の訪問看護にも、時間的余裕をもって行ける様にしようとさえ思える様になった。まだ、自分には話しを聴くという事がしっかり出来ているのかもはっきりしないが、これからの自分の勉強分野として学んでいこうと思う。
 又、1か月程前に亡くなられた患者さん宅への慰問にも同行させて頂く事ができた。ずっと在宅で過ごされ、具合が悪いと思い入院された翌日に、病棟で亡くなられたという。遺族の方は娘さん。御主人も亡くされ、お1人で過ごされている。伺った時には笑顔で出迎えて下さり、訪問看護の方々と談笑されていた。遺族ケアも在宅だった患者さん宅には出来るだけ、その後の状況を知る為にも慰問されており、その時の記録も“遺族ケア記録”用紙に書き留めている。遺族ケアも家族看護の継続だと実感させられる。
 
自分の施設にどう生かすか
 
 訪問看護をこれからも続けるのだと思うと、直接病棟との関係は難しくなると思う。しかし、今回の学びは自分の為、そして患者さんの為に生かしていきたく思うので、これから出来ようとしている病棟作りの参考意見として、医師、上司に進言していけたらと思う。緩和ケア病棟でも、患者さんが治療に専念出来ると共に、安らぎを感じられる場の提供になればと切実に願う。疼痛をはじめ、症状マネジメントに関する知識を全てのスタッフが活用出来る位のレベルにし、患者さんの事を考えられる病棟になればと願う。その為にも、自己学習をはじめ、勉強する機会を作っていく努力も必要であろう。
 
今後の自己課題
 
 今回の研修では多くの事を学ばせてもらったが、すぐ実行する前にもう一度整理しなければならない部分もある。訪問看護婦として、話しを聞ける技術を学び、家族看護も実践できる様に考えていく。病棟と在宅との連携を重視出来る様に、チームアプローチについても取り組む必要がある。どこまでやれるかもわからないが、無駄には終わらせないよう行動していこうと思う。
 
おわりに
 
6週間という長期の研修であり、講義、実習と沢山の経験を積むことが出来た。研修仲間との交流も新鮮なもので、この出会いは今後も自分の宝になるものと実感している。そして、私にとって良き指導者でもあり、ライバルにもなるのだと思う。
 忙しい中、研修に参加させて下さった病院、総婦長、施設長には感謝しており、研修期間中面倒をお掛けした金子祐子先生方、実習先の婦長、スタッフの方々には深くお礼を申し上げたい。
 本当にありがとうございました。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION