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「緩和ケアナースをめざして」
 岩手県立磐井病院 小岩 幸子
 
はじめに
 
 当院では、平成17年度の病院新築時に、緩和ケア病棟開設が予定されている。開設に向けて、職員による緩和ケア研究会が構成され、勉強会を始めている。私は現在一般病棟の内科に所属している。年々がん患者が増加していること、そして終末期の患者が、常に何人か入院しているという現状である。日々の看護の中で、緩和ケアの必要性を感じるとともに、一般病棟でももう少し質の高いケアが提供出来ないだろうかと考えていました。そのためにはまず緩和ケアに対する基本的な知識や技術を習得してみなければと思い立ち、緩和ケアナース養成研修に参加した。
 研修内容は、講義と施設実習があり、とても充実した日々を過ごすことができた。また長期の研修で現場から離れたことで、これまでの自分の人生を考えたり看護婦として歩んできた自分を振り返ることが出来た。そして新しい人との出会いがあり、交流を持てたことで視野が広がったと思います。研修を終えてこれから現場に戻り今すぐ始めたいことは、講義や実習での学びを周囲につたえることである。少しでも緩和ケアについて関心を示してくれればと願っている。
 今回の研修では、自分が何をしたいのかを確認でき、有意義なものとなった。多くの学びをここに報告する。
 
研修で学んだこと
 
1)緩和ケアとは
 WHOでは「緩和ケアとは、治癒を目指した治療が有効でなくなった患者に対する積極的な全人的ケアである。痛みやその他の症状のコントロール、精神的、社会的、そして霊的(Spiritual Problems)苦痛からの解決が最も重要な問題となる。緩和ケアの目標は患者とその家族にとってできる限り可能な最高のQOLを実現することである。末期だけでなく、もっと速い時期の患者に対しても治療と同時に適用すべき点がある」と述べている。
 つまり、従来の積極的がん治療のあとに位置づけられていたスタイルから、がんと診断された時から始まり徐々に緩和ケアの割合が増加すると、変化してきている。がんと歩む人々への支援体制を考えると、いかなるステージにおいても最善の状態に導くための、知識と技術を持ち継続的な関わりを提供することが重要視される。
 これまでは、緩和ケアとは終末期になってから行われるものと思っていた。診断を受け、速い時期から患者とその家族にとって、最高のQOLを提供することで、信頼関係の構築に役立ち、終末期になった時でも患者らしいせいかつができるのである。
 要求され、看護の向上と実践を高めることである。個々の患者との相互関係を確立し、合意を得ることで、お互いに期待する方向に進むことを通じて、関係性を築いていくこと、そして相互作用の中で看護婦は、倫理的態度で関わる事がもとめられる。つまり、「患者と共に同じ目的に向かう」という事「患者の意志がかなう様、何がサポートできるのか」を考えながら歩んで行きたいと思う。
 
2)疼痛マネジメント
 国際疼痛学会は「痛みとは、不快な感覚体験および感情体験である。痛みは、いつも主観的なものであり、いつも不快な感覚であるため、痛みは常に感情体験となる」と定義している。進行がん患者はほとんど痛みを持っている。その痛みは複雑であり、患者のQOLに与える影響が大きい。しかしそのほとんどが十分緩和出来ると言われている。
 
疼痛マネジメントの原則
[1]痛みの訴えを信じ必ず対応する。患者の訴えを軽視しない。
[2]痛みの原因を正確に診断する。痛みの増強因子や軽減因子を明らかにする。
[3]鎮痛薬は患者に合った投与方法を選択し、投与量を調節する。
[4]患者と十分に話し合い現実的な目標を設定する。
[5]鎮痛効果と副作用を毎日繰り返し評価し、投与量の調整を行う。評価の際には、患者の訴えを十分に聞く。
 
 以上のプロセスを繰り返して疼痛の軽減をはかる。
 実習では、モルヒネの持続皮下注射を使用している患者が多かった。痛み苦しんでいる姿がみられず、皆穏やかに過ごしていた。回診のときはコントロールの効果を医師に話したり、レスキュードーズについて相談したりしている。患者が薬剤に対する知識を持っているのは、インフォームドコンセントがなされているということです。またコミュニケーションが良好であることは、閾値を上げることにもつながるのである。
 
3)症状マネジメント
 緩和ケアにおける症状のマネジメントのゴールは、生態学的・専門知識、あるいはセルフケアの方略を用いて、悪い結果を回避したり、遅らせることである。症状マネジメントにおける看護婦の役割は、患者や家族のセルフケアの促進で、セルフケア理論とは「個人が生命、健康および安寧を維持するために、自分自身で開始し、遂行する、諸活動の実践」です。患者が痛くないように自分で体をうごかしたり、疼痛の出現を予測して行動したり、それぞれが自分で考えて生活をしていたことを認め、ほめてあげることが、セルフケアを高める事になる。
 講義で症状マネジメントの統合的アプローチ(以後IASMと略す)は、患者のセルフケア能力に焦点をあてて、その能力を最大限に、いかすことを前提にしている。
 IASMにそって看護活動を行う事により、看護者は患者の体験(症状)を正確に理解し、専門家として科学的にメカニズムを明らかにしたり、妥当なマネジメントの方略を提供し、患者が良い方法を選べるように支援することが出来る。
 
4)コミュニケーション
 緩和ケアにおいて基本となることである。告知、精神的ケア、インフォームドコンセントなど色々な場面でその技術が要求される。患者との信頼関係をつくるコミュニケーションとしては、[1]患者の気持ちに焦点をあわせる。患者の訴えは言葉だけでなく、表情や態度また、訴えのないことの訴えもある。気持ちは目に見えないので時には誤ったりするので患者との気持ちを、必ず確認し、推測しない事が大切である。[2]看護婦ではなく1個人としてかかわる。患者と家族にたいしては、個人対個人として関わると素直に話せる。信頼関係につながることになるだろう。[3]説明する、伝えるではなく話し合う態度で関わる。患者に情報を提供し、患者の考えを聞きながら話し合って方向を、見つけだす事を普段から行っていればよい。[4]非言語的コミュニケーションの必要性。看護婦の態度、仕草は患者に見られており、及ぼす影響は大きい。[5]チームアプローチの必要性。緩和ケアは多職種の関わりが持たれている。互いの立場や役割を尊重したコミュニケーションが必要である。
 ロールプレイでコミュニケーションスキルを学び、傾聴―受容―共感がすべての基本である。コミュニケーションは練習しなければ身につかない事が理解できた。また、沈黙は相手の本音を聞くことが出来ます。意識して使えるようにトレーニングを積みたいと考えている。
 
5)家族ケア
 患者と家族をひとつの単位としてとらえ、また、家族として歩んできた歴史や価値観を、ありのままに受け入れて、入院当初からそれぞれの家族の状況に、合わせてケアをしなければならない。
 看護婦は家族の代わりにはなれない、家族の役割を侵してはならないということは、日常の業務の中で当然の事と思っていました。しかし、知らず知らずのうちに家族を傷付けていることが、沢山あったのだと反省した。一生懸命患者とかかわっているうちに家族と患者を分けてしまったり、家族の気持ちを害したりしていた。患者とその家族は強い絆でつながっている。両方看護したことではじめて看護したことになる。少子高齢社会、家族の小規模化、個を生かすと言う家族観の変化、家族の多様化という中で、家族看護は、家族のセルフケア機能の向上を目的として、当事者とゴールを共に決定出来るパートナーシップを持ち、当事者と共に対策を考える事、支配にならないように支援しなければならない。
 また、家族が多様化しているので、自分の価値観で判断してはならない。それぞれが違うと云うことをありのままに受け入れて行くことである。病室を訪れるときは、患者の状況を把握するだけでなく、家族の表情や抱えている問題に、気づく様に接して行きたい。また何がお手伝いできるのか、話し合えるようにかかわりを持ちたいと思う。
 緩和ケアにおいては、大切な家族を亡くす悲しみや辛さを理解し接することや限られた時間の中で、患者と家族が濃厚に暮らせる様に支援を要する。
 また、刻々と変化して行く病状に対して、病状説明がなされ、今の状況で何ができるのか、何をしたいのかを、確認しておく事も必要である。死別後のショックを和らげるためにも、予期的悲嘆が十分なされるような関わりが出来るように、コミュニケーションを良好にしておくことも必要である。
 
6)チームアプローチ
 終末期の患者とその家族が持つ、様々なニーズに応えるためには、各々の専門職が、同じ目標に向かって専門性を十分に生かし、協動して行く事が必要とされる。チームアプローチが円滑になされるためには、互いの情報交換や問題を共有出来るカンファレンスを持つことと、コミュニケーションを良くしておくことが大切である。
 施設実習では、看護助手とボランティアを体験し、看護婦を客観的にみられたその他ホスピスコーディネーター、ボランティアコーディネーター、音楽療法士チャプレン、薬剤師、などと関わってみて、チームアプローチが生かされていることを実感した。例えばマッサージについては、看護婦、看護助手、ボランティアが行っているが、ノートをチェックすることで重ならない工夫がなされている特殊入浴のときは、手順や役割分担がしっかりとなされていて、スムーズに入浴ができていた。患者さんも安心して入浴の介助が受けられたようです。また終了後に看護婦とボランティアで反省会をしていました。互いに今日の感想を語りあい次回の対策もだしていた。こうして接点の場を持てば互いの尊重につながり、チームがまとまって行くと思った。
 今回初めてボランティア体験をして、癒しの空間や時間作りに大きな役割を果たしていることを知った。家庭的な雰囲気があるのは手作りの小物が置かれていたり、花があったりするさりげない演出のお陰です。看護婦だけでは質の良いケアが提供できないと痛感した。
 研修をおえて職場に復帰したら、他職種の動きを観察してみようと思う。看護婦だけで頑張らないで、周りの力を借りて、患者ケアを少しでも良いものにしたいと思う。
 
まとめ
 
 研修を終了してから早くも2週間がたち、研修での学びが少しずつうすくなってきています。職場に戻ってみれば思い出すのでしょうか。
 緩和ケアナースをめざしてとタイトルを付けた以上は、研修したことをひとつでも生かさなければならない。これから当院でも緩和ケア病棟開設に向けて、研修に職員を出す機会が増えると思われる。緩和ケアにたいして関心をもつ職員が多くなればと願っている。また、一般病棟でも症状マネージメントは行われているのですが、薬物療法が確実に効果を出せるように、チームに働きかけて行きたい。また患者のセルフケア能力について、印象が強かったので現場で確認しつつ、学んだことをより深めて行こうと考えている。
 
おわりに
 
 看護研修センターの金子祐子先生他職員の皆様、緩和ケアナース養成研修の研修生の皆様、心よく研修に参加許可して下さった総婦長様、病棟婦長様に、感謝致します。
 
参考文献
1) 岡田美賀子 最新がん患者のペインマネジメント ナーシング・トウディ 日本看護協会出版会 1999.11
2) 恒籐 暁 最新緩和医療学 最新医学社 2000.7








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