研修を終えて
緩和ケア病棟に求められるもの
医療法人社団カレスアライアンス日鋼記念病院 網野 まゆみ
はじめに
当院の基本理念は「原点から考え直す、保健・医療・福祉」「地域の人々とともにつくる愛と信頼の輪」である。地域の人々に、高度先進医療から癒しまでをテーマに病院の充実を図ってきた。その一環として、平成11年に12床の緩和ケア病床を開設し、今年11月に道内初の院内独立型緩和ケア病棟を開棟する。その中で総合的に緩和ケアを学ぶことが必要であり、今回研修に参加させていただいた。
講義と施設実習を統合し、客観的に今まで行ってきたケアを振り返ることができたのでここに研修の報告をする。
I.研修講義からの学び
1.緩和ケアの基本的理念
1)腫瘍学、がん医療の動向
わが国の死亡原因の第一位であるがんは、治療成績の向上、高齢化社会にともないさらに増加している。治療の見込みがない病気に対し症状緩和は、治癒を目指した治療と同じくらい重要である。がんの予防から治療に対し必要な知識をもつことが大切である。
2)緩和医療
緩和ケアの目的は、治癒を目的とした治療が無効となった進行がんなどに苦しむ患者と家族とともに可能な限り快適な日常生活を送れることができるように援助すること、患者が家族とともに死に向かってよりよい準備ができるように援助することと述べられている。 緩和ケアは、がんと診断された時から必要であり、時期や場所を選ばずどこでも行わなければならない。QOLは、医療者側の視点ではなく、患者の視点でなければならない。緩和ケアが、どんどん広がっていく中で患者自身が選択できるよう配慮し援助する必要がある。
3)生命倫理、看護倫理
倫理原則[1]利益の追求[2]害の排除[3]自律尊重[4]正義公平である。医療者は、患者と接するときは常に倫理的側面から判断、評価する必要がある。そして判断、評価するときは十分な情報から何をもって善悪・利害とするかその基準は、個々の価値観である。 緩和ケアにおいて患者のQOLを可能な限り高めることが重要となる。
2.緩和ケアに必要な知識・技術
1)症状マネジメント
がん患者は痛みの他にさまざまな症状が、単一ではなく複数の症状が互いに影響しあいながら現れる。その症状が患者の日常生活やその人らしさまでもうばってしまう。患者は身体的、精神的、社会的な苦痛、スピリチュアルペインなどさまざまな問題を抱えている。 緩和ケアでは、症状管理をすることはとても重要であり、症状マネジメントの主体は、患者であることを心にとめておく必要がある。患者自身がセルフケア行動を起こし看護婦は患者の症状やそのマネジメントを的確に理解するために、症状の機序や現れ方についての知識や技術を持つ必要がある。
2)コミュニケーション
コミュニケーションは医療者にとって、患者と接するうえでもっとも大切な技術である。コミュニケーションは決して日常生活の延長や自然に習得できるものではない。他の医療行為と同様、正しい知識を実際に使えるよう練習することが大切である。良好なコミュニケーションをとるために、環境や時間などの配慮も必要である。患者の本当の気持ちを引き出すために、医療者側は態度や精神的、時間的な余裕をもって接することも大切である。
3.進行がん患者の心理的特徽と援助
がん患者の精神的苦痛は、がんと診断されたときから始まっている。告知後の患者は心の反応が症状として現れることがある。
がん患者の抑うつやせん妄に対し、カウンセリングや薬物療法など積極的に関わることが必要である。がん患者の抑うつの認識は、重くなるほど見過ごされやすいため、関わりは難しいと思われるが、患者からのサインを待つのではなく、患者自身に尋ねることが一番大切である。
4.家族援助論
患者と家族は切っても切れない絆でつながっている。患者の精神面を支えるのは家族であるため患者と家族を一単位ととらえてケアを考える必要がある。病んでいる患者と同じように、家族も病んでいて、家族ケアが重要である。患者にとって家族の果たす役割や存在はとても大きい、そして患者・家族は常に成長発達している。
家族は互いに循環的・円滑的に影響しあう。問題を対処するのは、患者とその家族であることと全体をみてアセスメントし、よりよい方向に解決できるような援助が必要である。
ケアの中心は患者・家族であることを常に考え看護婦は調整役として大きな役割を担っている。
5.チームアプローチ
緩和ケアにおいて、患者・家族のニードはさまざまであり、チーム医療が特に重要となる。問題を解決する時一人の力だけでは、一方向の視点でしかみえず、できないことや限界がある。チーム全体が一つになり目標に向かって取り組んでいくことは必要である。そのために、十分な知識と技術、メンバー同士の協力、情報交換をすることで、より各々の役割、責任を持って果たすことができる。
看護婦は二十四時間患者の状態を、直接把握することができ、アセスメントすることができる職種である。患者の情報も集まりやすく他職種に情報を提供し、チーム内での橋渡しとして大きな役割を担っている。
II.実習からの学び
聖隷三方原病院聖隷ホスピスで2週間の施設実習を終えて、多くのことを学ぶことができた。病院の理念「隣人愛」ホスピスの理念「平等」であった。病棟全体は、ゆったりとした空間、廊下に飾られた絵画や花、池の中の金魚、どの部屋からも庭がながめられるという病院というよりは家庭に近い癒される空間がとても多かった。
他職種メンバーは、それぞれの役割がはっきり分担されていた。栄養士は病棟に配属され食事の配膳を直接行っており個々にあわせた食事の工夫がされていた。患者は食事がすすむことで生きていることを実感し、患者・医療者はともに喜びを共有することができる。ソーシャルワーカーは社会、経済面での相談、遺言書作成などでかかわっている。患者・家族の悩みや問題に十分な時間をとって関わることで、他職種との連携・調節や社会資源の活用で問題解決を図っていた。ホスピスコーディネーターは地域の人にホスピスを理解してもらう役割を担っていて、見学者・入院患者の対応、礼拝の準備、行事企画調整などがある。実習中3日間ペアナースとともに行動し、患者との関わりを通して患者・家族の訴えにゆっくりと時間をかけ傾聴し、接するコミュニケーションの大切さを学ぶ。痛みに対し、スケールを使わなくても患者の痛みをありのまま受けとめ援助すること、痛みの評価は患者が主体であること、痛みが日常生活にどう影響しているか観察しながら援助することが大切である。
行事の意味として心のリラックスや行事を楽しむことで免疫力が高まる、行事までの日を大切に送ることができる。
ホスピス外来では、訪れる患者はそれぞれの思いや、ホスピスに対するイメージ、今後の希望が違う。患者のニードを満たす関わりが大切である。最後まで患者が残された人生を全うできるような援助が大切である。
III.まとめ
今回の研修で、がん患者にはさまざまな苦痛や問題があり、それが複雑に絡み合っていることを学びました。患者を理解するには、まずその病態生理や症状に対する機序、知識や援助技術を身につけることが大切であり、また、痛みだけではなく全人的な苦痛を理解し援助していく必要がわかりました。死を前に患者だけでなく患者を支える家族もまた、さまざまな苦痛や問題を抱えていること、患者・家族を含めた一単位として家族援助が必要であることがわかりました。
よりよいケアを提供するためには、チーム医療が重要であり、チームメンバーはそれぞれの役割を果たし、お互いに理解しあいよい関係を築いていくことが大切で、その中で看護婦の果たす役割の大きさを学ぶことができました。
患者、家族、チームメンバーの関わりの中で、コミュニケーションは重要であり、コミュニケーションスキルの難しさは、単に日常会話の延長や経験だけで身につくものではないことを、実際のロールプレイを通し実感できました。
事例検討やロールプレイを行って、自分の内面で陥りやすい問題や、自分では気がつかなかった話し方や表現の癖、意見交換の場ではメンバーの一人一人は同等であることがわかり、今回の体験を活かしカンファレンスなどの発言の場面では、互いの考えが十分だせるような環境づくりをしたいと考えます。
施設実習では、ホスピスケアの実際を、それぞれの職種の立場から役割を学ぶことができました。日々状態が悪化する患者とその家族にそれぞれの職種が多方面から働きかけ、援助していけることを学びました。患者と関わるとき主体は患者本人であることを尊重し、残された日々をその人らしく過ごせるように、カンファレンスの充実が大切であることを学びました。実習中に二回の行事に参加することができ、ホスピス病棟は重症度が高く行事の参加が少ない中で患者のニードを考え、より参加できるよう企画や調整の難しさを知りました。行事に直接参加できなくても部屋に訪室することで患者の表情はとても違い行事を行う意味、大切さを直接感じることができ感激しました。多忙な業務の中で気がつかず過ごしていたことが、今回実習生の立場でゆっくり考えることができ、自分の施設の良い点、改善できる点に気がつくことができ貴重な体験ができました。
おわりに
6週間の研修を終えて、多くのことを学ぶことができました。緩和ケアは奥が深く、今後も学びを深めていかなければならないと思いました。 緩和ケアは、ホスピスや緩和ケア病棟だけで行われるものではなくどこででも、誰に対してでも行われるもので、相手を人として尊重して接する看護の基本が詰まった医療だということが実感でき、この学びを今後に活かし患者、家族と接していきたいと考えます。
問題や悩みが生じた場合、一人で悩まず他のチームメンバーの協力を得ることで、よりよいケアを提供できることを学ぶことができました。
今回の学びをスタッフに還元していき後輩の指導にあたり、自分自身も日々成長できるように気負わずやっていこうと考えます。
最後にこの研修でお世話になりました講師の方々、看護教育・研究センターの金子さん、研修を受ける機会を与えてくださった、当院看護部の皆様に感謝します。
参考文献
1)世界保健機関編、武田文和訳:がんの痛みからの解放とパリアティブ・ケア、金原出版、1999