2 協働事業のあり方
(1) 協働の考え方
協働は、これまで様々に定義されている。例えば、静岡県、東京都、岐阜県では次のように定義している。
〈静岡県「NPO活動に関する基本指針」〉
資金、人材、情報など組織力に恵まれた企業や行政と、きめの細かいサービスを得意技とするNPOが、それぞれの持ち味や利点を提供し合えるパートナーシップの関係
〈東京都「協働の推進指針」策定への提言〉
協働=行政とボランティア・NPOとが、相互の存在意義を認識し尊重し合い、相互にもてる資源を出し合い、対等の立場で、共通する社会的目的の実現に向け、社会サービスの供給等の活動をすること
〈岐阜県「NPOとの協働のあり方施策提言書」〉
行政とNPOとの協働は、お互いが公共活動の共通の目的を達成するために、対等の関係で共同の事業を行い、それを通じてお互いの組織や活動を改革するという行動である。
これら既存の定義を踏まえ、基本的な事項に絞り込むと、協働は次のように定義できる。
協働=市民または市民団体と行政(あるいは市民団体同士)が、共通する地域社会の課題の解決に向けて、相互の存在意義や特性を認識し尊重した上で、対等の立場で、所有する資源を相互に出し合いながら協力し合うこと |
協働の主体の組み合わせとしては、[1]市民と行政、[2]市民団体と行政、[3]異なる市民団体同士がある。協働の対象となる地域の課題は多岐にわたり、異なる行政分野にまたがったり、行政分野にうまく当てはまらないものもありうる。
(2) 協働の原則
協働の原則は、協働の定義から、目的共有の原則、相互理解の原則、対等の原則の三つが導き出される。
ア 目的共有の原則
協働の目的が何であるかを、市民・市民団体と行政がともに十分に理解し、共有する。
ただし、主要な目的は共有する必要があるが、共有できない部分があっても、互いに相反しない内容であれば協働は成立する。この原則を満たすか否かは目的の内容によるが、例えば、「安全な地域づくり」といったように共有できる目的は多く、比較的確保しやすい原則である。
イ 相互理解の原則
市民・市民団体と行政がそれぞれの長所・短所や立場を理解し、互いの存在を尊重することにより協働が円滑に行われる。また、行政は市民・市民団体の自主的な活動を尊重し、それらに不当な干渉をしたり、自由を侵害したりしない。この原則を確立するためには、行政側には説明責任が求められるとともに、市民の感覚・思考を十分に学ぶ必要がある。一方、市民側は行政に要求するだけではなく、行政の話を聞く姿勢が求められる。
ウ 対等の原則
協働を進めるためには、双方が対等の関係であることが重要である。上下ではなく横の関係にあることをお互いに常に認識し、各々の自由な意思に基づき協働する。また、市民・市民団体、行政ともに協働の相手に対して必要以上に依存しない。この原則は最も確立することが難しく、行政、市民双方の意識改革を要する。市民の自治意識の向上はもちろん必要であるが、行政の「お上」思想の排除を徹底することが必須である。
図表5−3「協働の原則」の比較
  |
藤枝市
協働の原則案 |
横浜市
協働の原則 |
山岡義典氏
(日本NPOセンター)
パートナーシップの原則 |
目的共有の原則 |
○ |
○ |
○ |
相互理解(と相互尊重)の原則 |
○ |
○ |
○ |
対等の原則 |
○ |
○ |
○ |
自己確立の原則 |
  |
  |
○ |
自主性尊重(不干渉)の原則 |
  |
○ |
  |
自立化の原則 |
  |
○ |
  |
公開の原則 |
  |
○ |
○ |
自己変革受容の原則 |
  |
  |
○ |
時限性の原則 |
  |
  |
○ |
出典:横浜市「横浜市市民活動推進検討委員会報告書」、岐阜県「「NPOとの協働のあり方」施策提言書」より作成。
(3) 協働事業の推進のための課題(行動)
協働事業を推進するためには、準備段階と実施段階において、市民団体、行政の双方に、次のような課題がある。
図表5−4 協働事業の推進のための課題(行動)
  |
準備段階 |
実施段階 |
市民団体 |
・地域運営や行政に対する理解を深めること
・組織を確立・拡充すること
・積極的に情報を地域社会に開示すること |
・協働事業の目的と、それが地域社会にとってのメリットがあることを 明確にすること
・協働事業の主体としてふさわしいことを明確にすること |
行政 |
・市民団体に関する情報を収集し、整理すること
・市民団体に対する理解を深めること(特に、行動原理、収益構造、受益圏・受益層などに関する行政との相違点)
・政策策定など地域運営に関する情報を公開すること
・協働事業の評価方法を確立すること
・協働事業の相手を決める基準、手続きを整えること |
・協働事業の目的と、それが地域社会にとってのメリットがあることを明確にすること
・協働事業の体制を整えること |
出典:東京都「「協働の推進指針」策定への提言」より作成。
(4) 市民参加と協働
協働の考え方の中で、市民団体と行政という組み合わせのほかに、市民と行政による協働もあることを示した。
多くの自治体では、一般市民に行政活動への参加、すなわち、市民参加を進めている。
市民参加は、一般に行政が設定した場に市民が参加するため行政が主体であるのに対して、協働は市民と行政が対等の立場に立つものである。
しかし、市民の主体的な参加を基にして、市民と行政の協働が成り立ちうる。協働の三原則に照らし合わせると、まず、参加という行為そのものが、[1]目的共有の原則を満たすと解釈できる。参加の過程の中で、市民の意識が高まれば、[2]相互理解の原則も満たすことができる。そして、行政側が、このような市民意識の成長を受け止めることにより、[3]対等の原則も満たすことが可能である。
市民参加を内容面で分類すると、「意見の提出」「計画案等の作成」「意志決定」「実施」に分けられる。市民参加はそれぞれ重要であるが、参加内容により、参加の深さの程度について、浅い、深いといったレベルの差がある。
「意見の提出」は参加レベルが最も浅い。具体的には、アンケートヘの回答、公聴会や説明会での意見陳述、ワークショップヘの参加などが相当する。藤枝市においても、多様な分野において「意見の提出」という市民参加が行われている。
市民参加がこのレベルでとどまると、提出された市民の意見は確実に取上げられるとは限らない。また、意見の言いっぱなしに終わってしまうこともある。したがって、このレベルにおいては、協働の原則のうち、[1]目的共有の原則は確保されても、一方的な夢見に終始して[2]相互理解の原則」が確保されなかったり、行政が市民の意見を受け入れることを十分に考えていない場合は[3]対等の原則が確保されなかったりする。すなわち、「意見の提出」という市民参加は協働に当てはまらないものがある。ただし、そのような市民参加であっても、市民と行政の相互理解や対等の立場の構築に大いに役に立つ。
「計画案等の作成」は「意見の提出」よりも参加レベルが深い。これは、計画などを作成することを目的とした委員会へ市民が委員として参加することなどである。藤枝市では、介護・福祉ぷらん21策定のための市民懇話会、環境基本計画推進委員会、21世紀の森づくり実行委員会などにおいて、委員を市民からも公募している。委員となった市民は、議論を踏まえながら、個人、あるいは市民団体の意見を計画などの案に反映させることができる。したがって、「計画案等の作成」は協働の三原則を確保できる。
「意志決定」は、「.....協力し合うこと」という協働の枠外に位置づけられる。しかし、協働社会においては極めて重要であるため触れることにする。「意志決定」は最も参加レベルが深い。一般的に、自治体の法律である条例は議会が、政策や計画などは首長が、それぞれ意志決定を行う。これらは、間接民主主義に基づき、市民に選出された議員や首長による意志決定であり、これまで市民が意志決定に直接参加する機会はほとんどなかった。しかし、最近では、原子力発電所や産業廃棄物の最終処分地の建設などに関する住民投票も行われており、地域社会にとって重要な事項に関して、市民が意志決定に参加する、あるいは大きな影響を与える事例が見られるようになった。藤枝市では、これまで、このような事項が発生していないため、意志決定レベルの市民参加はなされていない。真に協働社会を目指すためには、従来の意志決定の方法を尊重しつつも、地域の将来を左右するような重要事項については、市民が意志決定に直接参加できる道が用意されていることが望まれる。
「実施」への参加は、主に、行政からのボランティア活動の呼びかけである。したがって、参加者の意識は高く[1]目的共有の原則は満たされる。行政側が、ボランティア活動に関して正しく認識し、実施を通しての参加者の意見、感想を行政が真摯に受け止めることにより、[2]相互理解の原則と[3]対等の原則を満足することは可能である。藤枝市では、市民が主体的に高齢者福祉サービスを提供したり、リサイクル活動へ参加したりしている。
以上のように、市民参加はその内容によってはそのまま協働の三原則を満たすものもある。また、三原則が確保されるように配慮することにより、市民参加は協働に高めることが可能である。
図表5−5 市民参加から協働へ
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[1]目的共有の原則 |
[2]相互理解の原則 |
[3]対等の原則 |
意見の提出 |
○ |
?→○ |
?→○ |
計画案等の作成 |
○ |
○ |
○ |
実施 |
○ |
△ |
△ |
注:〇=確保される △=確保することは可能
(5) 行政サイクルと協働
行政サイクルは、立案(Plan)‐実施(Do)‐評価(See)という3つのプロセスに分けることが多い。ここでは、これらのプロセスの具体的な内容を設計するプロセス設計が、立案の前段階として存在し、このプロセスも重要であるため、含めることにする。
プロセス設計段階における協働や市民参加は、全国的に見て、ほとんど前例がない。
通常、計画や政策の立案・公定・実施・評価の進め方といったプロセスの設計は、翌年度の予算申請などの際に、行政内部で行われる。一度プロセスが決定すると変更が難しい場合が多いため、今後、プロセスの設計は、市民の意見を取り入れ、立案段階以降においてスムーズに協働できるように行うことが求められる。
立案段階において、藤枝市では、ワークショップヘの市民参加、委員の委嘱、計画作成などの協働が行われている。この段階における協働、参加を増加させることにより、実施段階での協働も増加することが期待できる。
実施段階の協働は、[1]市民または市民団体と行政がともに行うもの、[2]市民または市民団体が中心的に行い行政が支援するもの、[3]行政が市民または市民団体に委嘱・委託するものがある。藤枝市では、いずれも活発に行われており、今後も充実することが期待される。
評価段階における協働、参加の事例は極めて少ない。三重県の市民グループは、市民と行政の協働事業またはNPO・市民活動団体の事業を評価する「事業評価システム99」を発表し、事業評価に取り組んでいる。群馬県太田市では、専門的な知識を有する市民が市民から寄せられた事項について審査を行い、その審査結果を市長に報告し、市長は審査結果を公表するとともに、市政に反映させるという行政審査制度を設けている。藤枝市でも今後、行政評価が導入されると考えられるが、導入初期において、評価に、市民によるモニタリングなど市民の意見がより多く反映されることが期待される。将来的には、評価は本来的に第三者によるべきものであるので、市民自ら行政評価を行うこと(エンパワーメント評価)が望まれる。
以上を踏まえて、藤枝市で行われている協働(市民参加を含む)を、分野と政策サイクルで見ると、以下のように整理できる。
図表5−6 藤枝市において今後充実が望まれる協働(市民参加)
注1:網掛けは該当するものがない組み合わせ
注2:太字は現在ほとんど行われていないもの
(6) テーマ型団体と地縁団体との協働
藤枝市の自治会・町内会は、環境、保健、福祉などの分野において、テーマ型団体とイベントなどを共同開催したり、テーマ型団体への活動に参加したりしており、いくつかのテーマ型団体と協力関係にある。一方、テーマ型団体も、半分以上が、行事などへの参加を通じて、市内の自治会・町内会との交流している。また、テーマ型団体は、自治会・町内会に対して、行事などへの参加、活動場所の提供、活動資金の援助などを依頼している。このように、全般的に協力関係にある。中には、自治会・町内会の役員を務めながら、テーマ型団体の活動を行っている市民も見られる。
自治会・町内会は、地域に密着し、地域の課題に対して総合的に対応するが、個々の課題に対する専門性は不十分である。一方、テーマ型団体は、地域性が弱い面があるが、特定の課題について専門的知識・能力を持っているものが多い。したがって、互いの長所・短所を十分に認識し、自治会・町内会とテーマ型団体との協力関係、協働がさらに強化、充実することは十分可能であり、そうすることが望まれる。そのためには、互いの情報交換、交流を活発化することが大切である。
また、協働する主体が増加すると、テーマ型団体と地縁団体の間というように、主体間で意見が対立することも発生する。当事者間で調整する努力が最も重要であるが、必要に応じて、行政が調整することも必要である。
図表5−7 自治会・町内会とテーマ型市民団体の協働のイメージ
(7) 協働事業の効果
個々の協働事業は、地域社会、市民団体、行政にとって、それぞれ次のような効果がある。
<地域社会にとって>
・ 多様な経験をもつ高齢者・主婦層などの活躍の場が拡がる。
・ 多様な市民の交流、相互理解が図られる。
・ 行政や地方自治のしくみをより理解するようになり公共心が向上する。
・ 市民団体の特性を生かした、きめ細かな社会サービスが多様な価値観に基づいて提供される。
<市民団体にとって>
・ 活動機会の拡大を図ることができる。
・ 地域社会に対する知名度や信頼度を高めることができる。
・ 会員の意識が高められる。
<行政にとって>
・ 多様化する社会ニーズにより対応できるようになる。
・ 市民団体の柔軟な発想に直接触れることにより、行政の硬直性が改善されるとともに、個性的な政策立案能力の向上が期待される。
・ 公共サービス提供の最適な役割分担や経費負担の見直しが図られ、結果として行政の効率化が図られる。