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第5章 市民団体との協働・支援のあり方
 本章では、まず協働が活発に行われる「協働社会」というビジョンを明らかにし、そのような社会における市民・市民団体と行政の役割、協働社会の実現の進め方を検討する。
次に協働社会実現のために重要な個別の協働事業について、協働の考え方を明らかにし、原則、留意点、課題を整理する。その原則に基づいて、市民参加と協働の関係、テーマ型団体と地縁団体の協働の可能性を探る。そして、藤枝市における市民団体の支援の原則を規定し、市民団体(主としてテーマ型団体)の支援のあり方を検討する。
1 協働社会のビジョン
(1) 協働社会とは
 すでに、藤枝市では、市民・市民団体と藤枝市との間で、いくつかの協働がなされている。このような協働を積み重ねることによって、どのような地域社会を目指すのであろうか。協働が活発に行われる社会のイメージは、次のとおりである。
 
市民主体による楽しい地域運営(アーバン・ガバナンス)と行政による地域運営の補完

 平成13年3月に作成された「第四次藤枝市総合計画」では、まちづくりの進め方として、第一に市民参加のまちづくりの推進を挙げている。上記のイメージは、これをさらに進めたものと言える。
 具体的には、市民・市民団体が、地域運営に関する責任・権限・資源を藤枝市から移すことを望む場合、一定の条件のもとに、それらを行うこと(エンパワーメント)である。
 これまでは、公共サービスの提供はすべて行政により行われてきたが、高齢者福祉など、徐々に市民あるいは市民団体が公共サービスを提供する機会が増えてきている。市民団体がサービス提供などを希望する場合、様々な分野において、その可能性が確保されている社会が協働社会である。すなわち、市民及び市民団体は、自分たちでできることは極力自分たちで行うという市民自治を確立することであり、行政はそれを支援するのが協働社会である。また、地方自治の構成要素である市民自治と団体自治の間のバランスを、従来の団体自治にかなりウェートを置いたものから、市民自治のウェートを増加させることを意味する。
 市民の希望に基づいて、自主的、積極的に地域運営が行われることから、それは楽しいものになる。地域運営がより楽しくなることにより、地域社会が活性化される。
 市民団体が係わることのできる地域運営は、原則として、藤枝市内の公共サービスの提供を含む地域運営全体が対象となる。しかし、分野によっては、従来どおり藤枝市が担当した方が、地域社会にとって好ましいものが多々ある。市民団体が担当した方が良いか、藤枝市が担当した方が良いか、あるいは一緒に担当した方が良いかは、個々の協働事業を積み重ねていくことにより、地域社会全体で共通の理解が深められる。
 地域運営全体に関して協働する主体は、市民・市民団体と藤枝市である。市民団体としては、町内会・自治会のような地縁団体、福祉や環境問題など、個別の課題に取り組んでいる市民団体などがある。
 協働社会が形成される過程、そして形成された段階において、藤枝という地域社会にとって、次のような効果がもたらされる。
[1] 地域社会のことが良くわかるようになり、課題に対して自ら取り組む体験を通して、地域社会での生活が楽しくなるとともに、地域への愛着心が強くなる。このようなことを通して、市民の自治意識が高まる。
[2] 地域のニーズに合ったきめ細かな地域運営が行える。
[3] 市民団体と行政が協働を積み重ねていくことにより、互いに信頼感や連帯感が深まる。
 これらのことにより、地域全体が活性化される。そして、藤枝市に訪れる人や移り住む人が増えることが期待できる。
(2) 協働社会における市民及び市民団体と行政の役割
 
ア 市民及び市民団体
 市民及び市民団体は、自分たちでできることは極力自分たちで行うという自治意識を持って、自主的、積極的に地域運営に参加することが求められる。参加は強制ではなく、地域運営に参加する資源(専門能力など)を有していても、参加するか否かの選択は、市民及び市民団体が行い、行政は干渉しない。
 
イ 行政
 市民及び市民団体による地域運営を支援するとともに、市民に任された分野の地域運営を担当する。また、公共サービスの提供などについて、市民及び市民団体に安易に依存しない。
 
 このような市民及び市民団体と行政の役割に基づくと、公共サービスは、分野によって、あるいは地区によって、提供主体が異なることがありえる。税金の負担と、公共サービスを受けるという受益に関して、地区によって差が発生する。このような状況をそのまま受け入れるか、調整するかは、市民と行政の間で協議される。
図表5−1 協働社会の公共サービス提供主体に関するイメージ
(3) 協働社会の実現の進め方
 協働社会を実現するためには、次に示すように、[1]意識の共有化、[2]環境づくり、[3]個別協働事業の推進が必要である。これらは、段階を踏んで進めるものではなく、実行できるものから進める。
図表5−2 協働社会の実現の進め方のイメージ
 
ア 協働社会に向けての意識の共有化
[1] 市民・市民団体の啓発、藤枝市職員の意識改革
 協働社会は現在の藤枝市の延長線上にあるが、地域運営など、協働社会の考え方は従来のものと異なる部分があるため、市民、市民団体、藤枝市職員の間で、協働社会に関する意識を共有化する。市民や市民団体は、市民主体による地域運営のあり方、すなわち市民自治を学ぶ。藤枝市職員は、行政と市民・市民団体をタテの関係ではなく、対等のパートナーとして横の関係で捉えるように意識改革を図るとともに、協働社会における行政の役割を学ぶ。
[2] 協働事例のPR
 市民団体が主体的に活動し、それを行政が支援している事例を紹介し、協働社会の実現に向けた動きがすでに始まっていることを地域全体に伝える。具体的な事例を知ることにより、協働社会のイメージが強められる。例えば、いじめ・不登校・高校中退等のカウンセリング、障害者生活支援事業などの紹介を行う。
 
イ 協働社会実現に向けた環境づくり
[1] 協働社会のルールづくり
 協働社会の実現に向けての課題などを洗い出し、それらの対応策を検討するとともに、市民・市民団体と行政が守るべきルールを決める。
[2] 行政の改革
 協働社会では、市民・市民団体と行政はヨコの関係が確立されるとともに、地域運営に携わる市民・市民団体の範囲が拡大されるように、行政のしくみを改革する。その一つとして、地縁団体と行政の関係の再構築を図る。これは、協働社会において、地縁団体を含む市民団体の自主的な地域運営が極めて重要なためである。行政が地縁団体などに依頼している地域運営に関する事項を整理し、各事項について、各団体が今後も行うか否かを意志決定する。地縁団体などが行わない事項について、行政が対応することを検討する。予算や人材面などで行政が対応できない事項についてはその旨を市民に提示し、行政と市民の双方で解決方策を検討する。
[3] 市民団体や地域の人材に関する情報の共有
 藤枝市内の市民団体及び市民活動に参加する意思のある市民のデータベース(専門能力などの資源も含む)を構築し、それらの情報を公開し、地域社会で共有する。
 
ウ 協働事業の推進
[1] 協働事業実施のルールづくり
 協働事業の実施に向けての課題などを洗い出し、それらの対応策を検討するとともに、共通のルールを決める。
 例えば、
・ 個々の公共サービスの再評価
・ 個々の地域運営に関する市民団体と行政の責任分担など
[2] 市民団体の支援
 市民団体のニーズに基づき、行政が市民団体を公平・公正に支援する。
[3] 協働事業の場の創出
 地域のニーズと地域の人材の状況を踏まえて、市民団体あるいは行政が協働事業の場を創出する。例えば、男女共同参画の推進、生活展、21世紀の森づくり事業などのように協働の機会を増やす。








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