2.7 大きな振動が発生する
機関の振動は、ピストンやロッド小端部の往復動による慣性力と、クランクピン、アーム、ロッド大端部の回転による遠心力、さらにクランク軸を中心とする回転モーメントなどの不釣合、並びに爆発力で生ずる回転変動によるトルク変動などにより、機関が振動する。
機関の振動がシステム全体の起振源となり、それらの弾性体に振動を伝え、軸系においては捩り振動が発生する。いずれも振動体の固有振動数と共振した時に、その振巾が大きくなり、振動や操り振動の問題として不具合が発生するのである。
実用上は、クランク軸のダイナミックバランス、ピストンやロッドのアンバランスなどを除くことにより機関自体の振動を軽減し、ダンパ装着により捩り振動を吸収緩和する方法が採用されているので、殆んど問題化することはないが、以下に示す故障を発生すると、問題となるので早めに対策しなければならない。
1) 機関台の不良
(1) 据付べースの不良
機関などを据付ける基礎部分の地盤や構造物などが軟弱であると、機関台をいくら丈夫にしても振動を防ぐことはできないので、基礎となる地盤や構造の強度について十分な検討と対策が必要となる。
(2) 機関台不良
共通台板を含めた機関台に、強度不足や溶接歪み変形などが発生すると、変形や歪により軸芯狂いなどを生じて、大きな振動を起こすことがある。このような場合は、機関のクランク軸に曲げを生じ、ジャーナルメタルの摩耗、焼付きのほか、クランクアームのデフレクションが大きくなり、クランク軸折損などの大事故を発生する原因となるので、十分に注意しなければならない。
機関台やブラケットなどに亀裂を生じた場合は、振動が発生するので、十分点検すると共に、その原因を明確にして補強しなければならない。
(3) 据付不良
a) オーバハンギング
機関換装時に、機関台の巾が広過ぎて、大きくオーバハンギングする場合は機関台を作り直すか、間座を入れて修正し、十分な強度を持たせ、オーバハンギング状態にならぬようにしなければならない。
過度のオーバハンギングは振動を助長し、過大な応力を生じて、ブラケットやクランクケースなどに亀裂を発生することがある。
b) 機関台据付面の仕上げとシム調整不良
張付ライナなどの上面の仕上精度は、全ての据付ブラケット上面で、大きな段差を生じぬようにすると共に、左右据付面は、水平又は2/100mm以内のハの字形勾配の範囲内に仕上げる。水平からV形(ハの字形の逆)になると、シム調整が困難となる。
各据付ブラケット部分のシム厚さを調整して、芯出しを行うが、シムはできるだけ厚いものを数少なく用い調整しなければならない。シム調整が不十分な場合は、各ブラケット締付時にそれぞれのブラケットの応力がバラツキ、振動が発生すると共に、亀裂を生じることがある。またクランクケースにも歪みを生じ軸芯狂いを起こし易くなるので、完全に調整しなければならない。
c) 芯出し不良
軸芯の調整は、カップリングの外周面と端面を基準にして行ない、弾性ゴム接手などを介して連結するものは、外周振れ及び端面振れ共に0.1mm以内に入るよう調整しなければならない。またリジッド式の場合は、両方共に0.05mm以内に入るように芯出し調整しなければならない。
舶用主機の芯出しは、陸芯で合わせ進水後、1昼夜程度の間を置き、船体が浮力で塑性変形が落ち着いた頃に再度浮き芯の調整をしなければならない。特にプロペラと機関の距離が遠く、中間軸を設ける船の場合は、浮芯調整を必ず行なわなければならない。
芯出し不良の場合は、円滑な伝動が出来なくなり、振動を発生すると共に、軸受け摩耗や軸の曲がりなどを発生する原因となる。
2) 軸芯の狂い
(1) 軸受け摩耗
a) クランク軸受けメタルの摩耗
ジャーナルメタルの摩耗が大きくなると、燃焼ガス圧力により、ピストンが押し下げられた時の大きな衝撃力を受け、曲げ力が働くと共に、軸受け荷重が過大となり、振動や焼付き、軸芯狂いの原因となる。
b) 発電機軸受けの摩耗
ロータが振り回されて、衝撃力により振動を発生すると共に、発電機のロータとステータが衝突して、破損する。また軸芯狂いの原因となる。
c) 減速機軸受けの摩耗
一般にプロペラの推力軸受けをかねており、テーパローラベアリングが用いられている。これが摩耗すると減速軸の軸芯が下がり、軸系の芯狂いを生じると共に、減速歯車の噛み合いバックラッシュが大巾に増加し、騒音を発生する。
d) 中間軸受け摩耗
軸受けが摩耗すると、軸が振られ回転するため衝撃力を生じて、振動する共に軸芯狂いを助長し、減速軸受けやプロペラ軸受けの摩耗を促進する。
e) プロペラ軸受けの摩耗
スターンチューブの支面材が摩耗すると、プロペラによる旋回運動で、さらに摩耗が助長される。過大なスキマを生じ軸が振られて回転するので軸が支面材に衝突して振動を発生し、軸の曲がりを起こす。
(2) ボルトナットの弛み
機関台や据付べースなどの、締付ボルトナットなどが弛むと振動が発生する。小型船の木製機関台の場合、敷板が薄く弱い時や、裏側の座金が小さい時などは、木材部は面圧に屈して凹みを生じ、弛み易くなるので、特に注意しなければならない。
(3) 軸の曲がり
クランク軸、発電機などのロータ軸、中間軸、プロペラ軸など、動力伝動軸系に曲がりが発生すると、軸芯をうまく調整できなくなるばかりでなく、回転時に軸が振れるので、メタルなどの軸受荷重が大きくなり、油膜が切れて、焼付いたり、振動を発生する。
これら軸の曲がり点検は、カップリング接手ボルトを外し、軸を手で回しながら、カップリング外周の振れをダイヤルゲージで測定し、0.1mm以上も振れる場合は、軸の曲がりを点検をしなければならない。
軸の曲がり修正限度は、軸の両端部の軸受け部分をV形ブロックなどで支持し、下図のように中間部の振れをダイヤルゲージで測定する。軸の曲がりは、ダイヤルゲージの振れ巾の1/2であり、この寸法が軸の曲がり許容値を超える場合は、軸の曲がりを修正しなければならない。
軸の曲がり許容値が、一般に下記の基準による。
a) クランク軸
・ 小型機関の場合 0.02mm以下
・ 中型機関の場合 0.04mm以下
b) 発電機ロータ軸
ステータ部とロータ部の回転スキマの1/2以下
c) ポンプのロータ軸
インペラとケーシングのスキマの1/2以下
d) 中間軸
軸受けスキマの1/2以下
e) プロペラ軸
0.05mm以下
(4) クランク軸のデフレクション
機関の据付け芯出し、前端動力取出し(横引き)などの良否を点検する方法として、クランク軸のデフレクションを測定しなければならない。
不良な場合は、クランク軸に曲げ力が働くので、クランク軸が回転する時に、アームが開閉作用を起こす。この開閉作用をクランク軸のデフレクションと云い、この値が大きくなると、材料が繰り返しにより疲労破壊し、クランク軸が折損する。詳細については、「第5章1・3デフレクション計測とその処置」による。
3) 弾性ゴム不良
(1) 防振ゴム不良
機関台や共通台板などに用いられている防振ゴムは、長期間を経過すると、ゴム質が変化し硬化するので、亀裂を生じたり、変質して振動を十分吸収できなくなる。
従って防振ゴムやパットなどは、定期的に点検して必要ならば交換しなければならない。
(2) ラバーブツシュ不良
発電機などのカップリングに用いられるラバーブッシュは、ゴム質の変化や摩耗などを生じると、その機能を消失し、振動を十分吸収できなくなる。従って定期的に点検して、必要ならば交換しなければならない。
(3) ラバーブロック不良
中小形機関の減速機への伝動接手として最も多く用いられており、ゴム質が変化したり、摩耗したり、破損した場合は、振動を十分吸収できないばかりでなく、動力を円滑に伝えることができなくなるので、定期的に点検して、必要ならば交換しなければならない。
4) 機関の不良
(1) 重量アンバランス
ピストンやコネクティングロッドなど、各シリンダに用いる部品は、極端なアンバランスがあると、慣性力や遠心力に大きな差異を生じるので、振動を生じることが多い。特に高速回転で用いられる機関の場合は、その影響が特に大きくなるので、各シリンダのピストンやロッドの重量は均等化したものとしなければならない。
(2) シリンダ間のアンバランス
各シリンダ間に、噴射量のバラツキを生じたり、噴射タイミング、バルブタイミングの狂いや、ノズルの故障、ブランジャの摩耗などによる燃焼状態のアンバランスが大きく発生すると、これによる大巾なトルク変動を起こして不規則な回転となり、機関振動が大きくなる。
(3) 過給機の不良
過給機はシリンダの上部に設置されることが多く、ブレード欠損や曲がりなどで、ダイナミックバランスが崩れると振動を生じ、この振動が機関に伝えられ、共振すると思わぬ程、大きな振動を発生することがある。
5) ダンパの故障
(1) ダンパ不良
クランク軸の前端に捩り振動を吸収させるための、ダンパが設けられている。ディスクとリムは弾性体で連結されており、一部シリコンオイルを入れて冷却するものもある。このダンパの弾性ゴムが変質したり亀裂を生じたり、シリコンオイルがもれたりすると、ダンパとしての機能が失われ、振動を吸収できなくなり、捩り振動で共振して、軸系に大きな回転振動を起こすことがある。このような捩り振動による共振は、軸の折損や、ギヤの破損、噴射ポンプなどの故障を誘発する原因となるので、このような危険回転域をさけて運転すると共に、ダンパを点検し、必要ならば交換又は修理しなければならない。
(2) ダンパ不適合
ダンパを設けていない機関の場合に、捩り振動の共振を常用回転域で発生する場合は、軸径を太くしたり、ダンパを設置するなどの対策が必要となる。
そのような場合は、捩り振動の計算を行ない、最も効果的な方法を用いて対策しなければならない。ダンパならば何でも設置すれば解決するわけでもないので、適切なダンパを取付けれるように、検討しなければならない。
6) 危険回転域での使用
(1) 付加応力大
主として、1節、2節振動の常用回転域において、捩り振動の振巾が大きくなると予想される場合、その次数を明らかにし、どの程度の付加応力になるかを示す計算書を作成し、客先又は管海官庁などへ提出しなければならない。このような付加応力が許容限界線をオーバする時は、ダンパを設けるか軸径を変えるなどの対策を行ない、許容範囲内におさまるようにしなければ実用に供することができない。
2.8 異音や騒音などの異常音
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1) ロッカー室の異音
(1) バルブクリアランス過大
プッシュロッドやバルブステムエンドにロッカアームが衝突して作動するので、カチャカチャと云う騒音を発生すると共に、接触部分の摩耗を促進する。
(2) バルブシートの吹き抜け
排気管などからトントンと云う不規則な音を発生すると共に、吸気管へはバンバンと云う不規則音と共に火焔の吹き出しが見られることがある。
(3) バルブの突き上げ
バルブクリアランスの調整不良で、隙間の無いような場合、熱膨張によりバルブが突き上げられて、ピストン頂面に衝突して、コンコンと異音を生じることがある。
(4) 噴射タイミングの早すぎ
カンカンと高い音を発生する。(ノッキング音)
2) シリンダヘッドの異音
(1) ロッド小端ブッシュ摩耗
ピストンピンとブッシュのスキマが大きくなり、ピストンがシリンダヘッドの下面に衝突したり、ピンとブッシュが衝突して、コンコンと異音を発生する。
(2) ロッドメタル摩耗
クランクピンとのスキマ過大の場合、往復慣性力により、ピストンロッド組合せが、スキマ分だけ上下に衝突して、コンコンと異音を発生する。
(3) ノッキング音過大
カンカン又はコンコンと叩き音を発生する。上記のように衝突して発生する機械的な異音と燃焼による異音があり、判別は難しい。
(4) ヘッドガスケット吹き抜け
燃焼ガスの吹抜けが生じるので、バンバンと破裂音を発生したり、圧縮空気もれ音(シュシュ)を発生する。
3) クランクケース、ギヤ室の異音
(1) ロッドメタル摩耗
クランクピンとの衝突音を生じ、トントンと異音を発生する。
(2) メーンベアリング摩耗
クランク軸がメタルに叩きつけられるので、ドンドンと異音を発生する。
(3) ギヤブッシュ摩耗
タイミングギヤの噛み合いバックラッシュが大きくなるので、ガラガラとギヤ音を発生する。
(4) タイミングギヤ破損
前項同様にギヤ音を発生してガツンガツンと不規則音を生じる。
4) 過給機の異音
(1) スラストメタル摩耗
ロータが左右に振れて回転し、タービンホイールやコンプレッサホイールがケーシングなどに衝突して、異音を発生すると共に、過給機に振動が発生する。
(2) Vクランプの弛み
空気やガスのもれ音を生じる。
(3) サージング音
コンプレッサホイール内の逆流現象であり、バンバンと不規則音を発生することがある。特に高速高負荷運転中に、急激に低速運転へ、回転速度を低下した時に発生し易い。
(4) バランス不良
ロータの回転バランスが悪いと、遠心力でホイールが振れて高速回転し、ケーシングなどに衝突して異音を発生すると共に、振動を起こす。
5) 減速機の異音
(1) ベアリング摩耗
ボールベアリングやテーパローラベアリングが摩耗すると、円滑に回転できなくなり、ザーと云う連続音を発生する。
(2) ギヤのチャタリング
捩り振動やトルク変動があると、ギヤの回転が不規則で、噛み合が円滑でなくなるため、ギヤの噛み合い面が衝突を起こして、チャタリング現象を生じ、噛み合いチャタリング音を発生する。
(3) ギヤ音
ベアリングが摩耗すると軸芯下がりが置き、バックラッシュが大きくなり、ガラガラとギヤ音を発生する。
6) その他
(1) 調圧弁チャタリング
メタルなどが摩耗すると潤滑油の圧力が低下するため調圧弁で油圧を高め、バネ一杯まで調圧した状態の場合は、調圧弁が連続的に振動して、ビーと云う連続音を生じ摩耗する。
(2) アフタバーニグ
未燃焼ガスが排気管内で燃焼して、排気管出口から火焔を吹き、バーンバーンと云う爆発音を発生する。
(3) バックファイヤ
吸気管内へ燃焼ガスや火焔が逆流し、バーンバーンと云う爆発音を発生する。