以下に、2つの主要なHRAの定量的手法(HEARTとTHERP)を概説する。CORE-DATAは、一般化された確立に関するデータを提供する。これらの情報源からのデータは非海事産業に基づいているので、注意して使用する必要がある。代案としてふさわしいのは専門家判断を使うことであり、このための1つの手法にAbsolute
Probability Judgementがある。
1 Absolute Probability Judgement (APJ)
Kirwan (1994) 及びLees (1996) に詳述されているAPJは、ヒューマンエラーの確率 (HEPs)を表すために専門家判断を利用する、一連の手法を指す。問題としている状況に対して、何らかの形で直接的な数値評価をし、HEPsに対する値を求める唯一つの方法である関連データが無い場合、これらの手法が使用される。
様々な利用可能な手法がある。このことは、異なるタイプの分析に適応させる際に、安全分析者にある程度の柔軟性を与える。ほとんどの手法は、グループの偏りのような、潜在的に有害な集団影響を回避している。一般的に使用されている手法は以下のとおりである:
・デルフォイ法 (Delphy technique)、
・ノミナル・グループ手法 (Nominal Group Technique)、及び
・組み合わせ比較 (Paired Comaparison)
このプロセスに参加が求められるの専門家の数及び専門は、HazOpのようなハザード特定手法の場合と同様である。
組み合わせ比較は、重要な専門家判断手法である。この手法を使用して、個人が、一組のタスクに関する一連の判断を行なう。各個人の結果は分析され、タスクのHEPsに対する比較値
(relative values) 推定される。この手法の使用は、既知のHEPsを持った少なくとも2つのタスクを含めむことができるかどうかに懸かっている。CORE-DATA及び他の産業からのデータを使うことができる。
最近では、これらの手法を使うことが少なくなってきている、このことは、恐らく、関連する多数の専門家を一同に集めることが必要なことによると考えられる。しかしながら、海事産業には、これらの手法は非常に適合することが多い。
2 Technique for Human Error Rate Prediction (THERP)
THERPは最もよく知られた、最もしばしば利用される人間信頼度分析手法の1つである。この手法の第1印象は、提供される情報の量により、ややがっかりするものである。その理由は、この手法が、タスク分析、ヒューマンエラーの特定、ヒューマンエラーのモデル化及びヒューマンエラーの定量化をカバーする包括的であるところにある。しかしながら、ヒューマンエラーの定量化の側面では最もよく知られており、その中には、一連のヒューマンエラー発生確率 (HEPs) のデータ表、及び、様々な実行形成因子 (PSFs) の影響を定量化するデータを含んでいる。提供されているデータは、一般に詳細なものであり、従って、簡単に海洋環境に転用できるものではない。
THERPは依存度モデルを含み、これはエラー間に跨る依存関係をモデル化するために使用される。例えば、操舵手がエラーを起こすことと、ブリッジ・オフィサーがそれに気づくことの間の依存関係を評価するために、このモデルを使用することができる。運用上の経験は、依存効果が人間の間やタスク間にあることを示している。このモデルが、唯一、このタイプのヒューマンエラーのモデルであるが、包括的に有効性が実証されているわけではない。
完全なTHERP分析は、手法を適切に利用するために必要な詳細のレベルにより、資源集約型と言える。しかしながらこの手法の使用により、安全分析者はシステム及びヒューマンエラーの可能性に関する詳細な認識を得る。THERPは、FSAのモデル化プロセスにおいて別のサブシステムとして人間をモデル化する。これらのステップは以下のとおりである:
1. 人間の操作によって影響を受けるオペレーションの中のシステムをすべて特定する;
2. システムのオペレーションに影響する人間の操作を、すべてリストをコンパイルし、詳細なタスク分析の実行により分析する;
3. エラー頻度データ及び専門家判断や経験を通じてヒューマンエラーの確率を決定する;
4. PRAのモデル化の手順にヒューマンエラーを統合することにより、ヒューマンエラーの影響を決定する。
THERPには、作業者レベルにおけるヒューマンエラーに影響を及ぼす、一連の実行形成因子 (PSF) を含んでいる。これらの実行要因には、経験、状況によるストレス要因、労働環境、個々の動機づけ及び人間機械系インターフェースを含んでいる。PSFsは、ヒューマンエラーの名目値及び範囲を評価する根拠として使用される。
THERPの使用には、いくつかの利点がある。第一に、これはリスクの相対比較に適したツールである。必ならずしも確率とか頻度といった見地ではなく、リスクの大きさという見地で、FSAにおけるヒューマンエラーの役割を見積り、かつリスク制御オプションを評価するために使用することができる。また、THERPは、FSA実行者がしばしば好んで使用する標準的なイベントツリー/フォールトツリーをモデル化するアプローチに使用することができる。THERPは、技術システムにおけるヒューマンエラーの役割の評価に対する、体系的で十分に文書化された取り組み提供する、透明性のある技術である。THERPデータベースは体系的な分析を通じて使用することができ、あるいは利用可能であれば、外部のヒューマンエラー・データを挿入することができる。
3 Human Error Assessment Reduction Technique (HEART)
HEARTは、ヒューマンエラー発生確率 (HEPs) に達する、比較的簡単な方法として最もよく知られている。英国で一般的に用いられている手法である。この手法は、9つの一般化されたタスクの記述及び関連するヒューマンエラー発生確率のデータベースに基づいている。安全分析者は、評価しているタスクに合せて一般化
(generic) されたタスクの記述を選び、次に、特定されたエラー発生条件 (EPCs: Error Producing Conditions) の存在や強さに従って一般化 (generic) されたヒューマンエラー発生確率を修正する。EPCsは、エラー頻度又は確率算定の強さを増やす条件であり、THERPにおけるPSFsの概念と類似している。EPCsのリストは手法の一部として供給されるが、扱っている問題に対する影響の大きさを決めるのは、安全分析者の責任である。
一般化 (generic) されたデータは主として核産業から出ているが、一方、HEARTは他産業における適用になじみやすいように見える。天候のような新しいEPCsを含めることにより、海洋環境にこの手法を合せることが可能な場合がある。しかしながら、非常に保守的なHEPsの評価で終わることを避けるため、注意深い適用が必要になる。
4. CORE-DATA
CORE-DATAはヒューマンエラー発生確率のデータベースです。英国にバーミンガム大学においてデータベースへアクセスすることができる。データベースは、原子力、鉄道、化学、航空及び海洋産業からの支援及び英国健康安全部が発起して開発され、1999年1月時点で300に達する記録を含んでいる。
夫々の記録は情報の包括的な紹介であり、例えば、タスクの要約、産業の起源、原産国、使用されるデータ群のタイプ、データベースの品質評価、オペレーションの記述、実行形成因子、サンプル・サイズ及びHEPを包含している。
他産業からのデータと同様に、海事産業にデータを転送する場合、注意を払わなければならない。オフショアに関するデータのうちのいくつかは、最も有用である場合がある。