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3. 空気膜法に関する調査
3.1 概要
 船体表面を空気膜で覆うことにより船体の摩擦抵抗を低減する方法は従来から多くの研究がなされており、空気膜を安定に保持することさえ出来れば摩擦抵抗低減効果のあることが各種の試験結果、実績等で示されていた。しかし、これまでの空気膜法の研究の殆どにおいては、イーブンキール状態では摩擦抵抗低減効果が見られるものの、船尾トリム状態においては抵抗低減効果が殆どないか逆に抵抗が増大する結果となっており、有効な船速領域が船速10ノット以下に限られていて10ノット以上において空気膜法による摩擦抵抗低減が確認されたという例は見当たらなかった。
 上記を踏まえ本研究部会においては、10ノット以上の船速かつ船尾トリム状態においても摩擦抵抗を低減できる空気膜デバイスを考案すること、および考案した空気膜デバイスの有効性と限界を把握することを空気膜法の研究目標とした。更に、実用化にあたっては空気膜デバイスを装備した実船の推進性能が或る程度の精度で事前に把握できることが重要な課題であることから、考案した空気膜デバイスを装備した実船の性能推定法の提案をも研究目標の一つとした。
 
3.2 デバイス形状の検討
 上記の研究目標を達成するために、空気膜法に関する特許調査、文献調査を行った上、高速回流水槽試験(最大流速10m/s)を実施して、空気膜デバイスに関する基礎データ収集を行った。この結果、空気供給口より吹出された空気は、空気吹出口直後から下流に行くに従いその形態を一体の膜となった「膜状気膜」から、雲状の気塊に分離した「雲状気膜」、さらには小さな気泡に分解した「気泡群」、に変遷し、「雲状気膜」から「気泡群」への遷移点は必ずしも明確ではなく「雲状気膜」が殆ど見られない場合もあることを把握した(図3.1参照)。
 さらに、2m/s程度以上の流速においては高速になるほど「膜状気膜」による被覆面積が小さくなって「雲状気膜」や「気泡群」の割合が増加し、8〜9m/sを超える流速では「膜状気膜」が殆どなくなることが判った。また、空気吹出し量が多くなるに従い「膜状気膜」の被覆面積増加率が小さくなり、或る一定の空気吹出し量以上では「膜状気膜」の被覆面積は増加しなくなる(すなわち、「雲状気膜」や「気泡群」のみが増加する)ことが判った。
 また、空気吹出口の形状と高さが空気膜保持性能の重要なポイントであるが、複数の空気吹出し口を設ける場合にはその間隔も非常に重要であり、上流側の空気吹出し口の影響を受けない間隔としなければならないことをも把握した。
 これらの成果を踏まえて、最適と考えられる空気膜デバイス形状を考案した。
 
3.3 超大型模型船試験による水槽試験
 考案した空気膜デバイスの有効性を確認するために超大型模型船(全長16m)を用いた曳航水槽試験を実施した(図3.2参照)。対象船型は、肥大船の平底部を模擬した平底船で、船首部、中央部(平行部)、船尾部の三部分で構成されている。実施した試験は、イーブンキール状態における抵抗試験と船首部(長さ6m)のみを用いた船尾トリム状態における抵抗試験である。供給空気量は、この試験に先立って実施された供給空気量をパラメータとした船速7m/s(=13.6ノット)における抵抗試験の結果に基づき、デバイス幅1m当たり2.5m3/min(船速に関わらず一定)とした。イーブンキール状態における抵抗試験の結果、考案された空気膜デバイスにより船速4m/s(=7.8ノット)において最大の全抵抗低減(約30%低減)が得られた。高速になるに従いその低減効果はやや減少するが、船速7m/s(=13.6ノット)においても約20%の全抵抗低減が確認出来た(図3.3参照)。
 また、水中テレビカメラを用いた船底の空気膜状態観察結果と抵抗計測結果とから、「雲状気膜」や「気泡群」の領域においても、「膜状気膜」程の効果はないであろうものの、ある程度の摩擦抵抗低減効果があると推察された。この[膜状気膜+雲状気膜+気泡群]全体での抵抗低減量から逆算した空気膜被覆面積(「等価被覆面積」と呼称する)は、船速5.5m/sにおいて空気膜デバイス面積の約70%になることが確認された。これは、当該空気膜デバイスにおいてはデバイス面積の約70%が膜状気膜で被覆された場合と同等の摩擦抵抗低減効果が得られたことを示している。
 また、船尾トリム状態(トリム角約0.7度)における抵抗試験の結果、考案された空気膜デバイスにより船速7m/sにおいて約15%の全抵抗低減が得られた。
 さらに、表面処理法の検討に使用した超撥水性塗膜を空気膜デバイス領域に塗布した場合についても試験を実施し、通常塗装の場合と比較して全抵抗が減少(最大で約6%程度)することを確認した。
 
3.4 実船性能推定法
 超大型模型船試験結果を参考にして三次元外挿法をべースとした実船性能推定法を導出した。この推定法は以下の1)〜4)の仮定を用いている。

1) 実船船速が7.0m/s(=13.6ノット)における等価被覆面積率は、超大型模型船試験結果から得られた等価被覆面積率(=0.7)に等しい。
2) 実船の摩擦抵抗係数は、Schoenherrの摩擦抵抗係数×(1−等価被覆面積/全浸水面積)に等しい。
3) 粘性圧力抵抗係数および造波抵抗係数は空気膜の有無で変化せず、空気膜デバイスを装備しない状態における値に等しい。(実船に装備される空気膜デバイスは模型船のものに比べて相対的に小さく、空気膜デバイスそのものによる抵抗増加は殆ど無視できると考えられるため)。
4) 自航要素は空気膜の有無で変化しない。
 この実船性能推定法の精度は現時点では不明であり、将来、さらに大きな模型船試験や実船試験を実施して検証を行う必要がある。一例として本推定法を用いて、Lpp=320mのVLCCについて試算を行った結果を示す。満載状態で最大8.4%、軽荷状態で最大12.8%のエネルギー節約が得られる可能性が示された(図3.4参照)。
 この実船性能性能推定法における尺度影響確認と本研究部会において開発した空気膜デバイスの有効性確認のために実船試験の実施についても検討した。しかし、平底の大型船で空気膜法の実船試験が行える適当な供試船が見つからなかったため、空気膜法に関する実船試験は断念した。








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