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これまで述べてきたような分野に関わるトイレの研究は、行政・民間のトイレ設計者だけでなく、トイレメーカーなどでも数多くなされてきました。中でも、ハートトイレ研究会による『ハートビル・マニュアル―トイレ編・第1集』(平成9年11月)は、いわゆるバリアフリー化による多機能トイレについての集大成であるといえます。主としてトイレブース内に限って検討されているものの、ブース内については、多様なニーズに応える基本条件や、利用者側から見た問題点、設計者側・管理者側の意見が詳細に記されています。

このマニュアルのあとがきに、次ぎのように述べられています。「トイレについて検討が必要なのはブースの中だけではない。建物全体の中での配置や数、外部からのアプローチのしやすさについても十分な検討が必要であり、さらに範囲を広げて、周辺の建築物との関係なども考えていく必要がある」。

このマニュアルができてから4年後の今日、バリアフリー対応だけでなく、あとがきにあるような、より広い視野での「ユニバーサルトイレ」のありかたが求められる時代になったといえるでしょう。そのことを踏まえて、以下に、ユニバーサルトイレが現在抱えている課題について、まとめておきたいと思います。

なお、ここでいうユニバーサルトイレとは、「多機能トイレを中心として、一般公共トイレを含み、ソフトとハードを組み合わせて、誰もが使いやすいように配慮されたトイレの総称」としておきます。

 

(1) 多機能トイレのハード面の課題

 

多機能トイレのハード面については、次ぎのような課題が挙げられます。

 

・いわゆる標準の寸法である2m角のスペースを確保するという、広さに関する課題。

・トイレが大きな建物の中にあるのか、トイレだけ独立したものであるのかに関わる課題。

・トイレスペースの中の便器(スツール)、洗面台、ベビーコット、オストメイト用洗浄器、手摺りなど、設備機器に関する課題。

 

これらの課題は互いに密接な関係を持っており、多くの解決すべき事柄を抱えています。もし、大きな建物の中に何箇所かブースを設置できるのであれば、形態の違いによりそれぞれのトイレが補い合うようにする必要があるでしょう。左向き・右向きによる手摺りの位置、温水洗浄式便座(ウォシュレット)のあるなし、便座の高さやブース全体のプランについて工夫することができます。

また、設備機器に関しては、最近、全国に9万人いるといわれる人工膀胱・人工肛門のオストメイトに対する対応が、課題としてクローズアップされています。このように、これまで未対応であった障害に配慮して、今後はプランも多様化してくるでしょう。

 

(2) 多機能トイレの管理・メンテナンスなどソフト面の課題

 

多機能トイレのソフト面には、次ぎのような課題があります。

 

・従来の、障害を持つ人の専用・優先または共用といった、利用方法に関する課題。

・いたずらや目的外利用を防止するための方策に関する課題。

・トイレの利用頻度が少ない場所での、清掃や目的外利用(荷物置き場になっている)に関する課題。

 

これらについては、多面的な施策を持続する必要があります。多機能トイレに関する啓発活動を行うとともに、設置場所を交番の近くにしたり、点検回数を多くするなどの方策に心がけることが求められるでしょう。

 

 

 

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