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彼女はだまって、こくんとうなずいた。

「ただ、これほど激しく泣くということは、そのくらい大きなエネルギーが自分の心の奥にあるということだよね。エネルギーがあるということは、この状況から抜け出す力があるということだね」

今彼女は、大きなヤマ場にさしかかっているのだろうと思った。変化のきっかけがつかめるかもしれない。そう思って、1週間後では間隔が空きすぎるからと、3日後再び訪問することにした。

 

卒業したい思いと地震の夢

3日後、興奮はすっかりおさまっていた。静かに自分を語ってくれた。夢に、学校へ行かなくてはという思いがはっきり現れてきているので、学校を話題にして話し合った。

学校は卒業したい。しかし、行くのは怖いという。そこで、卒業まであとどのくらいの出席が必要かなどについて具体的に調べてくるから、その話を次回しようと言って辞す。

卒業に必要な出席日数を調べて訪問。心は大きく揺れ動いている。卒業したい。大学へ行きたい。家を離れたい。しかし、不安。不安を口にすると、怒りや絶望がわき起こる。ひとしきり聞くと、静まって見通しを考えだす。

彼女は揺れながらも、この2カ月弱でエネルギーを取り戻した。卒業して大学へ行きたいという、青写真を考えるようになった。そこでいよいよ、学校へ行けるようになるための手だてを、具体的に提案する時が近づいていると思った。7月に入った時、小学校の時の友人から手紙をもらって元気が出てきたというので、学期末テスト終了後登校して相談室で自習してみないかと提案した。

1週間後のテスト終了日に訪問すると、地震の夢を見たという。激しく揺れて不安になったが、自分は巻きこまれず無事だったと。そこで、不安はあっても心の奥には強さが生まれてきているから、思い切って明日学校に行ってみようと勧めた。すると、顔を見られたくないから朝早く相談室に入るという。

翌朝、相談室に姿を現した。午前中、自習。教科担任にお願いして、相談室に顔を出してもらい、本人の質問に答えたり課題を出してもらったりした。ただ、教科内容以外のことには、できるだけ触れないように配慮してもらった。彼女は疲れはしたが、他の生徒と顔を合わすわけでもないので、思ったほど大変ではなかったといって帰って行った。

こうして、夏休み前の1週間あまり登校した。夏休みも登校し、学校に慣れてきたので、2学期からは教室に入ってみようかと提案した。

 

再登校の日

始業式の日、教室に入る。担任とクラスの人たちには対応を依頼してあったので、自然な形で迎え入れてくれた。放課後、本当に疲れたといって相談室に戻ってきた。しかし、一日無事に過ごせた安堵感と、がんばれば明日も大丈夫かもしれないとの思いから、やわらかな笑顔を見せていた。

翌日以降、毎日登校して授業に出た。放課後相談室に寄って、緊張感と疲労をほぐしては帰って行った。

 

 

 

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