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「大変だと思ったら、いつでもここへ戻っておいで。家にいた時に比べたら、ここまで来れているだけでも大きな飛躍だから。うまくいかなくなっても、相談室を基地にして、ここからまた一歩踏み出せばいいのだから」といって励まし続けた。

2学期、欠席なしで登校した。途中から、放課後の面接も週1回に減らした。クラスの友人とは無理にとけこもうとせず、一定の距離を保って接することができるようになった。

3学期も休まず登校し、大学受験に合格して晴れやかに卒業していった。

 

―考察―

心因性の不登校の大半は、原因がわからない。だから、原因探しがかえって子どもを追いつめてしまう時がある。A子さんの場合も、心の最も奥に潜む原因の解明には至らなかった。しかし、登校できた。なぜだろう。

友達に接することのできない心の奥に、親への恨みと自己嫌悪とが潜んでいた。何回かの面接で、彼女はこの点をはっきりとらえ、どろどろした思いやわだかまりを言葉に換えて吐き出した。人はすべて、良い部分といやな部分とを持って生きている。だから、自分の中に潜むいやな自分もありのままに認め、しかも人に話して丸ごと受けとめてもらえた時、こんな自分でもいいんだという安心感を手に入れる。彼女の場合、この安心感の獲得が、自己をコントロールしていく大きなきっかけとなったのだろう。

休み始めてすぐ、家庭訪問できた。しかもその日から面接に応じてくれた。したがって、休み始めの苦悩からずっと寄り添い、励ますことができた。これが、人間とかかわる時の距離感を彼女に把握させるきっかけになったのだと思う。

不適応を、新しい自己を創造するための大きな機会と受けとめ、個々人の中に潜む「納得する自己」を作ろうとする力を信じ根気強く対応することが、不登校への対応の最も大切な点だと思う。

 

 

 

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