次の方へ R.K
僕がこの手紙を書くのは、君にお願いがあるからです。そのお願いは幾つかあるのですが、まずこの部屋の備品についてお話ししようかと思います。
窓の反対側にある鏡ですが、これは僕が学舎に来た時からこの部屋にあった物です。元は東側のフックに掛けてあったモノですが(この机の真上のフック)、使いやすいように僕が今の位置に動かしました。
それからこの机の中に入れてある「エヴァンゲリオン補完計画」という本ですが、これは僕が友達からもらった物です。一応読んでみたのですが、筆者の書き方、考え方が嫌いなので君に差し上げます。要らなければ捨てて下さい。君が「エヴァファン」だとうれしいのですが。
備品については以上ですが、ちなみに言っておきますと、この部屋はベルがすぐ裏にあるので注意してください。時間が来ると、けたたましく鳴りひびきます。慣れると便利になると思います。
さて、本題に入りますが、お願いというのは校長先生を大事にして上げて欲しいということです。校長先生はとても良い方です。生徒のことを一番に考えてくれる人です。僕がこの学舎にいた頃は、校長先生を怒らせるような生徒がひとり、ふたりいました。僕は、校長先生がだれかを怒っている姿を見ると悲しくなります。
だれよりも生徒のことを考えているのに、それをわかってあげない生徒がいることが悲しいのです。君にはそういう生徒になって欲しくありません。それからもうひとつお願いがあるのですが、それは、君にこの学舎をちゃんと修了して欲しいということです。
元の学校に戻るか、それともこの学舎を卒業して、高校へ行くかです。校長先生は自分の育てた子どもが立派な大人になることを、なによりうれしく思っています。どうか校長先生を悲しませるようなことはしないで下さい。 おわり
校長先生へ R.K
あすなろ学舎を修了させていただくことになりまして、お世話になった校長先生には僕の随想を少しお便りしようと思いペンを執りました。
最初僕がこの学舎に入寮する時は、正直言ってあまり気が進みませんでした。自分で言うのも変ですが、僕は内向的で小心な人間ですから、入ったばかりの不安であった時は、大声で騒ぐ中川君や、周りの人々に圧倒されてしまい、静かな場所が好きな僕はうんざりしていました。それに加えこの学舎の古さに驚き、こんなところで大丈夫かしらと思いました。
でも、ひと月、ふた月とたつうちこの学舎にも慣れ、ここのすばらしさもわかってきました。最初は野蛮で粗野に見えていた人たちも、付き合ってみると皆いい人ばかりですし、諸先生方も親切な方ばかりで、それまで無知であったろう僕も、いろいろな人と話すことで啓発されたことも多かったと思います。
また、この学舎には個性の強い人が多いので「この人のああいう所が見習いたい」だとか、「あの人のこういう所はいやだ」と思ったりして、僕の人間性を形成する上では非常に役立ったと思いますし、この学舎ではいろいろな経験をさせていただけるので、とても勉強になりました。この学舎に来る前の自分と、今の自分とではかなり変わったと思います。