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大検合格から大学受験へ

好き勝手にやっているように見えながら、子どもたちは自分で行動して成長するのです。子どもの納得を、教育観の中心にすえることが大事だと感じています。そう考えると、共感して見守るというのは、教育論としてきわめて積極的な意味を持つように思われます。

彼は何もできない時は、わかりきったテキストをめくったり、単純なことを暗記したりしながら、勉強を「遊び」として過ごしました。だんだん意欲が高まって、高校のテキストを読み出すようになって、受験に本腰を入れてからわずか1年の学習で大検に合格しました。しかし、それからまた半年ほどアルバイトにも出ず、ぐずぐずしながらやっと大学受験を決めたのです。それが最初に述べた母親の電話です。

私が相談されていた4年間を思い出して印象的なのは、この子は新しい、より高い段階へ動き出そうとするたびに荒れていたということです。ここでもアルバイト先でも、外では苦しそうな様子や不満そうな態度はだんだん見えなくなりましたが、家では昨年暮れまで、母から大変ですと相談の電話が続きました。

電話の後、彼と来られた母親は、「大学受験を決めた日も、戸の開け閉めが乱暴だった」と話され、彼はそれを笑って聞いているのです。以前には考えられない関係です。

 

―追記―

不登校の閉じこもりから引き続き引きこもっている青年、精神的苦しみが高じて病院に出入りを繰り返している青年、臨時のアルバイトしかできない、仕事につけずにいるなど「引きこもり」を続けている青年たちのことも、私たちにとって重要な問題です。

私たちの経験から、特に義務教育を終えた年齢の青年の自立には、次の3点が大切だと考えています。

1] 苦しみ始めた時が大切。「正論」で精神的に追いつめないこと。ここは学校・教師の役割が決定的だと思います。「今は今のままでよい」、必ず元気になるという自信を、親と青年に持たせることです。

2] 社会に出ることが当たり前と見られている「青年」を、家庭で「見守る」ことも、青年が家庭で自由に生活することも難しい。外へ動き始めたら、サポートのある居場所が必要。いま紹介できる居場所は、研究所の教室の他、障害者作業所4カ所、障害者自立ホーム(共同保育所・学童保育所)、営利目的でない英会話教室とパソコン教室です。つながりを広げ、場所も種類も多くしていく予定です。この青年たちが「くるみ」の行事にさまざまな形で参加します。

3] 仕事をしたら、わずかでも給与を得られることが、自立の意欲を高めるようです。行政や財団からの、このための援助態勢がぜひ欲しいと思います。

 

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過去の自身の経験を、今悩まれている当事者に伝えて…。

 

 

 

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