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受け入れまでの状況については、まず母から相談があり、引き続き訪問カウンセリングを開始する。

親のカウンセリングを中心に、本人へ働きかけをしていく方法である。不登校や引きこもりの問題は、決して本人だけの問題ではなく、そこに至る経過において他者の存在、つまり両親、家族、友人、教師などとの人間関係が複雑にからみ合って出現している。特に、長期化した引きこもりの回復や改善を支援していく上において、親の対応のあり方、かかわり方は最も重要な意味を持つことは経験上明らかである。日々、かかわりをもつ親が子どもを受容し、共感をもって対応できるかどうかが問題解決の重要なポイントである。

子どもは常に親から受容され、正しく評価、認知されることで、自己存在を実感することができる。しかも、親が子どもにしっかり向き合う態度や姿に、子どもは何より安心する。つまり、親の視界、視線の中にいる時安堵する。

彼も、私と両親とのかかわりの中で徐々に心の扉を開いていく。両親も不登校や引きこもりの本質を知ることで、彼への理解を深め、特に父親からは次のような言葉が出るようになった。

「父親の期待が、アイツをこんなに苦しめていたとは」

「つらかったんだろうな、かわいそうなことをした」

このひと言が、彼の中で失われた家族コミュニケーションの機能を、徐々に回復させていくのである。

 

自立回復に向けて

しかし、彼の本当の苦悩はここから始まる。

12年間の引きこもりの時間を、どうつないでいけばよいのか。父親との葛藤も解消されつつある今、今後はすべて自分自身で引き受けていくしかないのである。

訪問から約3カ月後、当学園での生活が始まる。学園での研修目標は次の3項である。

まず、人は生きる過程においてさまざまに悩むもの。悩みを避けて生きられない。そのために、いかに速やかに悩みを処理するか。つまり、自らの気づきの中で自己処理する知恵と技術の習得が第一の目標である。

次に生活リズムを整えること。さらに対人コミュニケーションの問題である。多様化した現代社会においては、性格や気質、ものごとに対しての見方やとらえ方等、価値観のさまざまに違う人間関係の中で生きなければならず、十分なコミュニケーションの力が必要とされる。

 

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地鶏の放し飼い風景。

 

自立回復のためのプログラム

当学園では、彼らの自立回復のため、さまざまな生活プログラムを提供している。その中のいくつかを紹介すると、生活参加者同士が自分の悩みを打ち明け(または書く)、相互に感想を述べ合うフリートーク形態のピアカウンセリングを必修としている。

 

 

 

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