数日後、子どもを連れていくと父親から連絡が入った。話をしたら、本人も「行ってもよい」と言い、態度にも落ち着きが見られ、「中学校の教科書を欲しい」と言っているらしい。
入寮日も決めたが、はたして家から出られるか心配していた。
車を降りるまでに3時間
当日、父親といっしょに隆司が車で来た。案の定、帽子を目深にかぶり、車の隅に小さくなって降りてこようとはしない。父親は困り果て、説得したりしたが、私は「じっくりやりましょう」と長期戦の構えをした。その間に、寮生の子たちも接触を試みる。そんななかに、福島から来てアルバイトをしている16歳の男子や、1週間前に入寮した非行少女、恵(乃南アサ著「ドラマチックチルドレン」新潮文庫 参照)もいた。3時間がたった頃、父親の「ここで無理やりおいていったらどうなるでしょう」との問い。私は親に覚悟があれば大丈夫だと答えた。そして行動に移す。車のドアーをあけ、「まあ降りておいでよ」と手を引っ張った。しばらく座りこんで抵抗していたがやがて、「わかりましたよ」と自分から家へ入ってきた。きっかけが欲しかっただけか、と私は思った。
そして親は帰っていった。
「はぐれ雲」での生活
「はぐれ雲」には、私たち家族4人とスタッフ、ボランティア、それに全国から集まったいわゆる不登校児、引きこもり、非行の青少年18名が共同生活をしている。
共同生活の目的は、直ちに学校へ戻すとか、社会へ出すことではない。普通の社会生活の一端を経験し、自分の進む方向を見つめ直してもらうことにある。
日課は午前6時半起床で、散歩、朝食、掃除と続く。その後、中学や高校、アルバイトへと半数以上が出かけて行く。残った者は、1時間の勉強会。これは学校の授業とは違い、クイズなど頭の体操程度だ。もちろん、勉強しようという子どものめんどうも見る。
そして農作業の時間。大都会から移り住んだ仲間たちと共に、請け負った20数ヘクタールの田んぼを耕し、畑の手入れをする。まき割りや草刈りもある。雨の日は体育館でバスケットやバレーボール、卓球もする。
夕方には、みんな疲れた顔で次々と戻ってくる。夕食は午後6時で、当番が順に作る。それ以降は自由時間。テレビやビデオを見たり、ゲームをしたり、思い思いにくつろぐ。朝きちんと起き、寝ている人に迷惑をかけなければ、就寝時刻は本人任せだ。
ここではまず、規則正しい生活リズムと生活習慣を身につけることを念頭に置き、できるだけ単純で、だれにでもできるような日課にしている。これが継続してできるようになることが、社会での自立への一歩だと思う。
どの子も入寮直後は居場所がなく、自分のベッドに入ってしまう。私も「最初は居場所もないだろうから、漫画でも読んでいたらいい」と、200冊以上漫画がつまっている本棚へ案内する。