ですから、食事を規則正しくとることで、睡眠を含めた生活リズムが整い、さらに昼間手足を動かして力いっぱい働くことで、よりおいしくご飯が食べられ、心地よく睡眠をとれることにもなります。生活リズムを正すことが、自分を取り戻すための早道であることは、『はじめ塾』の長い実践を通して、確信を持って言い切れます。
もうひとつ言うならば、生活感覚を大切にするということです。最近の子どもたちの行動基準は「好き嫌い」です。この感情の処理が上手にできるかどうかで、自立は決まります。生活は、好きなことをするだけでは成り立ちません。いやなことでも、やらなければならないことはしなければなりません。この生活感覚こそが、家事労働の体験が不足している現代っ子にいちばん欠けるところです。
―所感・考察―
バーチャルと実際体験のバランスを大切に
二宮金次郎が、柴を担ぎながら本を読んでいたのは有名な話ですが、そのように江戸時代の人々は、手足を動かして働かなければ食べていけませんでした。すなわち、実際体験が生活の大部分を占めていたのです。そういう時代だからこそ、本を読むというバーチャルな体験が意味のあることでした。
それに比して、今は家電の普及で生活が便利になり、人々は手足を動かして働く量が極端に少なくなっています。明治以後、わが国は西洋に追いつけ追い越せを合い言葉に、学問を奨励してきました。そのことは、実際体験が生活の大部分を占めていた時代にはそれなりの意味がありましたが、学問というバーチャルが大勢を占めるようになった今では、そのバランスを欠く結果になっています。ましてや、最近のようにテレビゲームやインターネットばやりの状況では、よりバーチャル漬けの生活にならざるを得ません。
ですから、現在を生きる子どもや私たちは、心して実際体験の機会を持つようにしなければなりません。私たちはこのような時代を生きているのだ、ということに気がつきさえすれば、不登校などでつまずいた人たちの回復への取り組みに、光が見えてくるのではないでしょうか。
さらに大切なことは、解決のためにどっちの方向に向かって取り組むかということです。この方向性が明確でないと、毎日の生活体験がむだになる可能性があります。自立するためには、生活の積み重ねが意味のあるものでなくてはなりません。努力の方向が決まっていさえすれば、一日の進歩がたとえ小さなものでも、積み重ねることで必ず解決に近づくからです。