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家に戻れば、母親とも素直な気持ちで会話ができるようになりました。晴夫の生活が変わり、正常循環に乗ったことで夫婦仲も良くなりました。子どもが自立するには、援護者である親が仲良くなることも大切な条件だと思います。

 

何事にも全力で取り組む

塾の生活は、6時に起き、掃除に朝食の準備と片づけ、自分たちの洗濯など忙しいです。人間などの生き物は、速く走りたければトレーニングを積むことで記録が伸びるように、持っている力を出し切ることで能力が開発されます。反対に、人間が作った道具や機械は、使えば使うほど能力が落ち、寿命が短くなります。このような考えから、『はじめ塾』では何をするにも、全力を出し切って取り組むことにしています。また、ここでは学校のような評価はいっさいありませんから、結果を気にすることなく、何事にも全力で取り組むことができます。この安心が、積極さを生み出します。

6カ月後、晴夫は、山の木の切り出し作業をボランティアのお父さんたちとしていた時に、「力を出しきった後は気持ちがいいですね。今まで俺は、さぼったほうが得だと思っていたので損をしてきた」と言いました。

また「失敗しても全力を出しきっていれば、人は俺を責めないことがわかった」とも言いました。こうなればもう安心です。彼は確実に出口の方向に向かって歩みだしていました。このように、解決のメドが立てばもう解決したも同然で、あとは楽しい努力です。

それから3カ月後、私と並んで落花生畑の草取りをしていた時に、雑草とまちがえて落花生を抜いてしまって「あっ!いけねえ、見なかったことにしよう」と、独り言を言って、作業を続けました。ここに来るまでの彼からは、想像もできないくらいの変わりようです。ちょっとしたつまずきでも、立ち上がることができずに悩んでいたなんて考えられないほど、たくましくなっていました。

 

自立回復に向けて

自分を取り戻すための早道

不登校状態の子どもたちは、明らかに自分を見失っていますから、自分を回復し、本来の自分を取り戻せた時が、この種の問題の解決です。赤ちゃんの時の無邪気で生き生きした状態に戻ればいいわけですから、よけいな働きかけをしなければいいのだと思います。そして、心や体の萎縮や歪みを取り去るために、内から起こってくるパワー(生命エネルギー)を強めることです。

生物としてのヒトは、35億年といわれている歳月をかけて現在の機能(能力)を獲得してきました。それは陽が昇ったら起きて活動し、暗くなったら寝るという生活リズムに合ったものです。現代社会では、電気の発明や科学技術の進歩によってそのリズムが狂ってきているのですから、それを正常に戻すことが生命エネルギーを高めることになります。

 

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ライフセービングについて話を聞く子どもたち。山の寮の「いろり」も手作り。

 

 

 

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