日本財団 図書館


彼の表情から、「今日は話をしてもいいよ」と言っているのかな、という心の内を読み取るのは至難の技。声の調子や素振りで察知し、どうするのか問う。

返事はない。幾つかの方向を提案し、最終的に二者択一にすることで一つを選び出す。本人が答えを出すまで、時はどんどん経過する。辛抱強く待つ。不思議なもので、返事を待つ間、私が方向性を示したなかで不安に思えたことが、どうでもよくなる。なんとかなると思えてくる。

まるで、私の迷いを見透かしているように、私の迷いがふっ切れた時に必ず子どもは返事をする。迷いがふっ切れるというのは、この先何が起きようとも、子どもの心のよりどころになろうと覚悟を決めた時。とにかく送り出そう。早いにこしたことはない。子どもの言葉を信じて。

専門学校に行くようになれば、挫折することもあると思う。しかし、どんな時でも「両手を広げて、受け止めてあげる」。私の気持ちは伝わっていると思うから、自信を持って送り出そうと思った。

 

今、思うこと(その後の1年)

専門学校に通い始めて、1年がたとうとしています。

親が信じると子どもはやり遂げるということを、切々と感じています。

最近になって、初めて子どもから、“学校は楽しい、でも、つまらない授業もある”という言葉を聞きました。子どもは“今”を生きているんだな、と充実感が私にも伝わり、胸が熱くなりました。

この1年、よくがんばったと思います。無遅刻、無欠席で、弱音を吐くことなく、授業が終わってから教習所へ行き、3カ月かかって運転免許を取得!!今は車で通っています。専門学校なので、いろいろな検定試験にチャレンジして、土、日も試験を受けに行くのですが、へこたれません。

自分の目標に向かって、着実に進んでいく背中は、とても大きく感じられます。

去年の今頃は、“3年間、家で昼夜逆転の生活、はたして毎日学校に通うことができるか?風呂はどうするのだろう?食事は?学校生活は?”などなど…、たくさんの不安がありました。今となれば、それも取り越し苦労になりました。

いったん動き出すと、親が思っている以上に期待に応える子どもの逞しさに目を見張るばかりです。わが子ながら“やってくれるなあ、すごすぎる”と、脱帽です。

親の焦りを子どもにぶつけることをせず、子どものペースをじっと見守り続けてこれたから、今があるのだと思います。待ってあげて良かったと思っています。

今年は、次の進路を決めることになると思います。でも何も言わないつもりです。子どもの心に添っていれば、時が来たら必ずリアクションがあると思うので…。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION