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父親は言った。「正直、お父さんは中退はして欲しくない」と。「かわいい娘に、絶対に苦労するであろう道を選ばせたくはない。普通に学校に行ってくれるほうが安心できる。でも、おまえにとってそれは納得がいかないだろう?おまえが、自分が選ぶ道が決して楽じゃないものだと自覚できて、どんなに大変でもそれでも中退してがんばるほうを選ぶっていうのなら、お父さんは応援するしかないだろう?思うようにやってみなさい」

この言葉が、ただの物わかりのいいふりをしたうすっぺらな言葉だったなら、私はそこらへんにあったものを手当たり次第投げ付けて、家を飛び出していたかもしれない。けれどこの時の父の言葉は、そうじゃなかった。本当に私を思ってくれているのが、ちゃんと伝わってきた。「がんばるよ」、久しぶりに父に笑いかけた。すごくうれしかった。私はちゃんと守られている。そう感じた。がんばれる気がした。

 

―中退後、今に至るまで―

あるカウンセラーとの出会いと大検合格

高校中退の書類を出した頃、思わぬきっかけから、高校の相談室の先生(年配の生物の男の先生で、たまに相談室で話をすることがあった)の紹介で、Iさんというカウンセラーと出会った。自分の中ではどん底からは徐々に抜け出してきたという感じの頃だった。大検についてなど、わからないことがたくさんあったのだけれど、Iさんのところでは不登校状態の子や、大検を受ける子どもたちがその勉強をできる環境を持っておられるとのことで、話を聞いてみてはどうかということだった。

Iさんと初めてお会いして、まっすぐ向き合った時、直感的に「この人には話せる」と思った。実際、きちんと向き合って下さった。痛いところも、そうでないところもしっかり見ようとしてくれた。私の中でIさんは「強くてやさしい人」というイメージがあるけれど、そのイメージは今も変わっていない。私は高校の相談室のその男の先生が、どちらかというと苦手だったのだけれど(優しいようでいて、あまり人の話をきちんと理解しようとしてくれない感じがしていた)、Iさんにはとても好感を持った。

しかしその頃Iさんは、東京に移ってそちらで本格的にカウンセラーとして活躍する準備をされている真っただ中で、直接的にIさんのお宅で勉強をするということはできなかった。私はそれでも、Iさんがおられる時にちょくちょくおじゃましては、話を聞いてもらっていた。

大検のことで具体的にどうしていくかということが、現実的な話いちばん気がかりで、しかしなかなか前に進めない点だったのだけれど、Iさんは「ひとりじゃ大変よ」と、私に合いそうなメンタルフレンド兼家庭教師をしてくださる学生さんを紹介して下さった。その学生Tさんとは、かかわってもらっているうちに、とても価値観が近かったり、生きる姿勢みたいなものに共通点があることが感じられるようになってきた。週1のペースで、大検対策の勉強のサポートをしてもらった。TさんはIさんのお宅で、大検を受ける子たちの家庭教師を何年かしておられたので、大検についての知識もしっかり持っておられて、すごく頼りになった。なかなか思うようにいかない勉強も、Tさんのおかげでだいぶやる気になっていった。

しかし、雑談の時間のほうが実際の勉強時間よりも長かったかもしれない。Tさんの下宿にも、何度も泊まりに行った。

 

 

 

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