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その結果、残念ながら、医師と会ったばかりの患者のストレスレベルが非常に高かったので、すべての人のストレスレベルが下がる結果となりました。そのうえ、さまざまな要因があり、少数の実験しかできなかったため、芸術が影響したのかどうかは測定することができませんでした。

■今後の課題

医療に関わるスタッフについての研究としては、身体の健康や健全さ、仕事への満足度、仕事のできばえ、生産性、サービスの質などを測定してその関係を調べることができます。これらに関する研究が進めば、それをベースライン(基準)として今後さまざまな研究ができると思います。

現在考えているのは、病院スタッフにアンケートを行い、仕事に対する満足度や芸術との関係について答えてもらうことです。このような研究をいろいろな所で行って、調査数を増やすことができれば、非常に有意義なものになると考えています。

 

4 魂の営み

元公衆衛生局長官のシ・エグレット・クープ博士は、マネージド・ケアという医療システムの導入によって、医師が患者のために使う時間が制限されることが、患者の尊厳を失わせるだけでなく、医師のバーンアウトに結びついていることを指摘しています。彼は、ヘルスケア・アートの分野で働く専門家の手助けを得ることで、患者やヘルスケア従事者が自分たちのことを語って表現すること、そして、そのことによって共同体としての一体感をもつことが大切であると述べています。

私たちも、文化サービスプログラムのテーマのひとつに「コミュニティの祝祭」を挙げています。

祝ったりお祭りをするということはお互いに手をさしのべ、つながりの強いコミュニティをつくるのに役立ちます。この温かい気もちがスタッフから患者へ、家族へとちょうど池に投げた石が波紋を作るように広がっていきます。

ヘルスケアの施設の生活はしばしば辛く痛みをともないます。芸術をとおして癒しの環境を整えることによって、もっとも必要とされている心の安らぎと元気をもたらすことができます。ある患者は「薬や手術では癒されることのない何かを、音楽の贈物が癒してくれました。48歳の大人の私のなかにある5歳の子どもの恐れをゆっくりと鎮めてくれました」と言いました。

私はよく、抗生物質学者として中国に長い間滞在していたフランス・カソリックの神父イナガド・デ・チャーダン氏の言葉を引用します。それは「私たちは霊的経験をしている人間ではない。私たちは人間的経験をしている霊的な生き物である」ということです。

 

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環境づくりには緑も重要な役割をはたす

 

 

 

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