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それは、ヘルスケアの現場に芸術を取り入れることの成果を、一般的な科学の研究と同じような測定によって示さなければならないということです。しかし、取りくみのなかで得られた経験や体験を数量に表すことは非常に困難です。

たとえば、死に瀕している患者の家族が、病室に来たミュージシャンにどんなに感謝しているかとか、苦しんでいる子どもに本を読んだり、詩を書いた看護婦自身が経験する慰めなどについては、数値で表すことはできません。

しかし、いくつかの研究の試みはあります。

■研究事例紹介

・1984年にペンシルバニア郊外の病院のロージャン・ウィルニヒは手術後の回復期にある人の病棟における調査を実施しました。

胆のうの手術を受けて回復期にある患者を、窓の外に何もない煉瓦の壁を見つめるだけのグループと、窓から緑の豊かな自然の情景を見るグループに分けました。2つのグループを比較すると、美しい風景を見ていたグループは、壁を見ていたグループより手術後の入院日数が少ない、患者が苦痛や苦情を訴える回数が少ない、術後に起こりがちな合併症が少ないという結果が出ました。一方で、壁しか見ることのできなかったグループの患者は手術後から多くの鎮痛剤を必要としたことなどがわかりました。

・1983年、ジェームス・ペネガーは、患者の回復やケアをする人たちの精神衛生にとって、あるいは愛する家族を失った人たちが立ち直るときに、悲しかったこと、辛かったことに対する感情を外に出すことがいかに大切かという調査を行いました。

彼は、心理学を学ぶ学生に、生活のなかで辛かったことを、4日間15分ずつ書くという実験をしました。学生を、辛かったこと、悲しかっことの事実だけを書くグループ、辛かったこと、苦しかったことについて自らの深い部分も書くグループ、何でも自由に書くグループの3つに分け、学生たちが大学のクリニックに行く頻度を調べました。その結果、自分のもっとも辛い思いを書いた人が、他のグループより、50%も病院へ行く確率が低かったと報告しています。

■デューク大学での研究

昨年、私たちがデューク大学で行った研究では、採血をする部屋に絵画があることによって、採血を受ける患者のストレスレベルが下がるかどうかを、だ液のなかに含まれるコーガソンというストレスホルモンによって測定しました。絵があるときに採血した患者と、絵がないときに採血した患者とでは、違いがあるかどうかを明らかにしようと考えたのです。

研究への参加に同意してくれた患者には、採血前に、だ液を採るために脱脂綿をなめてもらいます。患者には、環境がストレスに与える影響についての研究であることは伝えましたが、絵については話しませんでした。測定が終わった後、患者には、部屋に絵があったことに気づいたかどうか、年齢や検査を受けに来ている理由、性別などを聞きました。

 

 

 

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