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そのとき私たちは、知らず知らずのうちに、自らの<魂>を震わせているのではないか。私たちのケアを必要としている人の<魂>の声を聞いているのではないか。

私は、ケアとは<魂>の関わりであり、<魂>の共鳴する関わりであると考えています。確かに、ケアの場面で、<魂>という言葉を強調することは、良い意味でも悪い意味でも宗教的・哲学的であり、抽象的に響くかもしれません。しかし、私たちの言語が貧弱であるがゆえに、私たちの生の動きをうまく捉えることができないのだと考えることはできます。

そして、「ケア」という言葉が日本語にうまく訳すことができない理由は、日本語の体系が不十分であるからではなくて、「ケア」という言葉に含まれている実践や関わりが、これまで日本語でうまく表現できなかったからだと思います。だからといって、英語がそれをうまく表現しているかといえば、そうとも言えないでしょう。私は、ケアとは何語であれ言葉では表現することのできない内実を含んでいると思います。それは、ケアが言葉による表現を超えてしまうほど豊かであるからに他なりません。つまり、ケアとは私たちの生(life)と深く結びついているのです。

私たちの生は、既成の言葉や概念ですべて完全に捉えることはできません。しかし、たとえ言葉で十分に表現できないにせよ、私たちは自らの生を生きているし、<ここに存在している>。言葉でうまく表現できなくとも、私たちが他者と関わり、他者をケアすることは日常生活のなかで珍しいことではありません。私たち自身もまた、自分自身をケアし、自分自身によってケアされるだけでなく、他者によってケアされる日々を送っているのですから。日常生活を振り返ってみればわかるように、私たちは独りでは生きられないし、生きていく必要もない。私たちの生活は、それ自体で十分に満たされているし、生きて存在していることで幸福の「手前」にいると言えます。

もちろん、私たちは欲が深いから、生きているだけでは満足しないこともあります。

 

 

 

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