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つまり、このことが意味しているのは、過去の歴史のなかでも、これからの人生のなかでも、世界のなかでも、ひとりとして同じ人間は存在しなかったし、これからも存在しないということです。それゆえ、私たちは、自らの生の歴史(=人生)を他者のそれと比較することもできなければ、どこからか持ってきた基準で評価することもできないのです。

私たちが一人ひとり唯一無二の存在であることは、堆積した経験の差異においても明らかです。しかし、より重要なのは、私たちがそのような経験を支える「核」として<魂(spirit)>を持っているということです。経験を重ねることができるためには、経験が蓄積できるための「核」になるものが必要です。私たちは、私たち一人ひとりの経験が異なっているということだけで<かけがいがない>のではなく、一人ひとりが自らの<魂>を持っているからこそ<かけがいがない>のです。

私が<魂>という言葉で言いたいのは、私たちは、誰でもその人の代わりができないということです。家族や恋人、かけがいのない知人や友人と、生き別れであれ死に別れであれ、とにかく分かれなければならないとき、私たちはその欠落の大きさを実感します。その欠落は、別の人と知り合うことで埋まるわけではありません。私たちは、欠落を欠落として抱えたまま、その後の人間関係を続けていかなければならない。この喪失感・欠落感をもたらすものこそ、失った人の<魂の重さ>です。私たちが<魂>を通い合わせることで作り上げてきた関わりは、スピリチュアル(魂的)な関係性であると言えるでしょう。そして、ケアという関わりこそ、<魂>の触れ合う関わりであり、<魂>と<魂>との共鳴関係であると思います。

なぜ私たちは誰かのことを気遣い、心配するのでしょうか?なぜ私たちは誰かをケアしようと思うのでしょうか?それは、私たちの生の奥底にある<魂>が、その人の<魂>と触れ合ったからではないでしょうか?誰もが一度は、その人のことが気になると、どうしても身体が動いてしまう、どうしても心配で仕方がなくなってしまうという経験をしたことがあるのではないでしょうか?

 

 

 

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